ファッション小売業は危険な状況にある。さらなる経済の衰退と消費支出の減少の可能性が迫っており、小売業者はパンデミックでの最悪の時期を思い出している。2021年と2022年のリベンジ消費と、さらにパンデミックによる節約によって一部の消費者の可処分所得が増加したことが助けとなった。だが、そうした小売企業も今後2023年は非常に厳しくなるという予想を見守っている。
Glossyがこの記事のために取材をしたブランドや小売業者は、今年を乗り切るための共通の戦術を共有してくれた。利益率にひたすら焦点を合わせる、というのがそれだ。
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楽天リワードのプレジデントであるクリスティン・ガル氏は、「消費者は平常に戻っている。リベンジ消費もしないし、小売はひと桁台前半の成長に戻った」と話す。「したがって小売業者はマージンを重視している。昨年は在庫がいたるところにあり、そのためマージンが非常に悪かった。ウォルマート(Walmart)でさえ、大量の在庫を処分せざるを得なかった。今年は不況のために小売は保守的になり、マージンがキーワードになるだろう」。
小売にとって在庫とマージンの管理が重要なカギ
ガル氏が指摘したように、ウォルマートは昨年第1四半期に600億ドル(約8.4兆円)以上の在庫を抱えることになった。その結果、ウォルマートやターゲット(Target)などの大手小売企業は、その在庫を消化するために大幅な値引きやプロモーションを行わなくてはならず、それが利益率に悪影響を及ぼした。
これに対し、ブランドや小売業者は利益率の低いカテゴリーをすべてやめて、利益率の高いカテゴリーを選び始めている。長年の赤字のあと、収益性を緊急の目標としているザ・リアルリアル(The RealReal)ではホームグッズを縮小、これは11月に暫定共同CEOのラティ・サヒ・ルベスク氏が同社で販売する中でもっとも利益率の低いもののひとつと指摘したカテゴリーである。
当時、ルベスク氏は「何が何でも多少の成長にはなった」と語っている。「当社の初期の中核的な取り組みはホーム関連のものだった。『私たちはすでに家にいるのだから、できる限りすべてのものを取り上げようじゃないか』と。だが、正直なところ、ホームグッズやアートのような大きなアイテムの送料はかなり高くつく。それに子供関連のアイテムは価格が低い(ため、販売しても利益にならない)」。
コアサイトリサーチ(Coresight Research)のラグジュアリーおよびリテールのマネージングディレクター、マリー・ドリスコル氏は、小売業者にとって来年は在庫とマージンの管理が重要な戦いの場となるだろうと述べている。
「手元にある在庫をできるだけ減らすべきだ」とドリスコル氏は言う。「店の棚に大量の商品が並んでいない状態に消費者を慣れさせるのだ。在庫にお金が縛られてブランドの価値を下げざるを得なくなるような事態を避けるため、在庫を減らす。いまはそれが第一(のプライオリティ)だ」。
コスト削減で利益率アップを目指す企業
大企業も中小企業もマージンを増やすために変化を起こしている。H&Mは11月に1500人を解雇するなど、昨年実施したさまざまなコスト削減努力により、利益率が昨年1年間で0.9%から1.3%に上昇したことを3月末に明らかにした。同社は来年、この利益率を10%へと引き上げる計画である。
ヒューストンに拠点を置き、全米で400店舗以上を運営するファッション小売業のフランチェスカ(Francesca’s)も同様に利益率の向上を目指し、トップ・オブ・ファネルの大規模なマーケティング活動の頻度を減らして、年間を通じて数回の大きなキャンペーンを行うだけにしている。その代わりに、同社は投資対効果の測定が容易なパフォーマンス・マーケティングに依存している。
「我々の投資家は大きな期待を寄せている」とフランチェスカのCMOであるジャン・パリッシュ氏は語る。同氏は、かつてトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、カルバン・クライン(Calvin Klein)、ヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)などのブランドで仕事をしていた。「私がこれまで働いてきた国際的な大手ブランドで経験したことよりも、当社ははるかに短期的に力を入れている」。
D2Cは利益率の向上にはつながらない
ほとんどの場合、D2Cは数年前のようによりよいマージンを得るための手段とは考えられていない。D2Cブランドはノードストローム(Nordstrom)のような大規模小売店の固有のオーディエンスに頼ることができず、同時に顧客獲得コストは昨年を通して上昇し続けている。
「我々はD2Cについて多くの調査を行い、直販に軸足を置いても利益率の向上にはつながらないことが判明した」と述べたのは、BMOキャピタルマーケッツ(BMO Capital Markets)のマネージング・ディレクターでシニアアナリストのシメオン・シーゲル氏だ。「スタートアップ企業だろうがナイキ(Nike)だろうが、適切なパートナーとの卸売りが現時点でのすばらしい選択肢だ」。
卸売に対するブランドの主な不満は、ブランド・アイデンティティのコントロールが失われることに集約されることが多い。だが、厳しい経済環境では、そのコントロールの喪失は、より効率的な在庫販売方法とのあいだでうまくバランスが取れるかもしれない。
「私たちは何千もの小売業者と仕事をしているが、何よりも耳にしているのは効率性だ」とガル氏は言う。「ここで1ドル使ったら、いくら得られるのか? リーチするのにその1ドルを必要とする目標がある。効率性はまさに重要な言葉だ。効率は収益性に直結する」。
[原文:Fashion Briefing: As the economy worsens, brands and retailers are upping their focus on margins]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)