パブリッシャーたちの2023年の希望の星は イベント事業 :著名イベントは設定したKPIに対して成果を上げるのに有効か

DIGIDAY

パブリッシャー各社が出した直近の決算報告によると、2023年第1四半期の広告収入は当初の予測を10%から25%下回った

オープンマーケットプレイスでのプログラマティック広告のRPM(1000ページビュー当たりの収入)はさらに振るわず、前年同期比で20%から55%減少した。どこかに活路を見い出すことは、例年以上に重要ということだ。あるパブリッシャー4社の当期これまでの実績を見ると、広告不振を補うささやかな救いはイベント事業にありそうだ。

パブリッシャーの思惑は

今年に入ってから、複数のパブリッシャーが大型イベントの開催を下半期に先送りすると表明していた。広告主に時間的な余裕を与えて、高額なイベント協賛に必要な予算を確保してもらうことが狙いだ。コストに見合う最大限の価値を引き出したい広告主側の思惑とも相まって、この戦略は功を奏しているようだ。

実際、広告主たちは当期内にキャンペーン契約を成立させることに意欲的なだけでなく、9カ月先のイベントにコミットすることにも前向きだという。明るい展望が示されたことで、今年のイベント収益の倍増を期待するパブリッシャーも現れている。

あるデジタルパブリッシャーの幹部は匿名を条件にこう話す。「企業にとって経済的に課題の多い現状だが、2023年の大きな事業機会として、エクスペリエンシャルに注力する考えだ」。初期の指標を見る限り、ブランドは、マーケティングファネル全体で望ましいオーディエンスにリーチできるのであれば、イベントへの支出には前向きと思われる。

パブリッシャーのイベント戦略は段階的に強化されてきた。昨年夏に実施されたDIGIDAY+リサーチの調査では、パブリッシャーの78%がイベント事業の開発に少なくともある程度の投資をおこなうと答え、40%は重点的な投資をおこなうと回答していた。

イベントに期待も懸念点はあり

しかし、すべてのパブリッシャーが2023年の希望の星として、エクスペリエンシャルに期待を寄せているわけではない。多くのクライアントは依然として短期間で実行可能なキャンペーンを優先する傾向にあり、また、多くのパブリッシャーはいつでも使用可能な常設のイベントスペースを保有しているわけではない。

匿名で取材に応じた別のパブリッシャーは、「パブリッシャーたちはプライベートマーケットプレイス(PMP)とプログラマティックギャランティード(予約型のプログラマティック広告)を優先するだろう」と述べている。「今年の景気は先行きが不透明だ。いまのこの業界で、ファネルの上層部にフォーカスした超大型で肉厚なエクスペリエンシャルキャンペーンを提案するものがいるとは思えない」。

より確実な成果を求める広告主たち

イベント開催の大きな魅力のひとつは、開催後に回収できるデータにある。前述のパブリッシャーによると、デジタルキャンペーンやSNSのブランデッドコンテンツでは得られない非常に包括的なデータが獲得できるという。たとえば、オーディエンスの前に直接立つイベントであれば、消費者とブランドのインタラクションが保証される。また、イベントの情報をSNSで拡散すれば、来場者以外にも露出が広がる。場合によっては、物販を組み込むことで、ブランド認知から購買に至るマーケティングファネル全域での効果も期待できるだろう。

UMでインテグレーテッドインベストメント部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるジョン・レファーツ氏はこう話す。「クライアントの立場からすると、もっとも効果的な場所で予算を使いたいわけであり、投じた資金からは最大限の利益を回収したい」。

アパートメントセラピー(Apartment Therapy:AT)も主力イベントの先送りを決めたパブリッシャーのひとつだ。昨年は春に開催した「スモール/クール(Small/Cool)」を今年は秋に延期する。開催まで9ヶ月から10ヶ月ほどあるが、すでに2つの企業がスポンサー契約を結んだ。同社プレジデントのリヴァ・シロップ氏によると、2社合わせた契約金は、スモール/クールの予想売上高の4分の1を占めるという。

全体として、イベント(単発の企画と雑誌主催の定期イベントの両方)への関心は前年に比べて「著しく増大した」とシロップ氏は話す。具体的な成長率については非公開とする一方、広告主の関心が高まる主な要因は、2023年のマーケティング予算を正当化しなければならない企業各社が、設定したKPIに対して成果を上げるのに有効な「実績のある目玉イベント」に参加したがる傾向だと指摘した。

「彼らは、来場者数、メディア露出、オンラインリーチなど、設定したKPIを確実に達成できる、実績のある大型イベントやフォーマットを求めている」と、シロップ氏は米DIGIDAYに当てた電子メールで書いている。なお、ATが特定のKPIについて成果保証をしているか否かには言及しなかった。

シロップ氏によると、ATのクライアントが関心を寄せるもうひとつのエクスペリエンシャルフォーマットは、インストアアクティベーションだという。たとえば、ATお墨付きの売り場をプロデュースしたり、並べる商品をキュレーションしたりするなどがこれに当たる。コマースに重点を置いたアクティベーションで、マーケティングファネルの最下層で効果をあげるには理想的な手法といえる。また、こうした購入フェーズでの成果は、とくに経済の低迷期には広告主から大いに歓迎される。

広告が低迷する一方で、イベントは上昇基調

一方、BDGのブライアン・ゴールドバーグ最高経営責任者(CEO)が社内に宛てた電子メールによると、同社にとって2023年の幕開けは「驚くほど厳しい」ものとなった(全従業員の8%を解雇し、Gawker 2.0を休止した)。その反面、イベント事業は上昇基調にあり、広告収入の低迷という業界動向とは対照的だ。

BDGのプレジデントで最高収益責任者(CRO)を兼務するジェイソン・ワーゲンハイム氏によると、今年のコーチェラ(Coachella)音楽祭で同社が主催するイベント「ナイロンハウス(Nylon House)」と「ゾーイエイシス(ZOEasis)」について、すでに企業5社とスポンサー契約を結んだという(金額については非公開)。同社広報によると、2022年のコーチェラで獲得したスポンサー企業のほぼ半数に相当する。

ナイロンハウスは5月にマイアミで開催されるフォーミュラワン(F1)でも実施される。すでにスポンサーの関心を集めているようだが、ワーゲンハイム氏は契約成立の有無については言及を避けた。さらに、昨年に黒字開催を実現したアートバーゼル(Art Basel)でも再催行を予定している。同氏の話では、スポンサー契約が順調なら、今後もナイロンハウスの開催を増やしたい意向だという。

昨年、BDGはイベント事業の刷新に多額の投資をおこなった。ワーゲンハイム氏によると、イベント事業の売上は前年比2倍の1000万ドル近くに達したという。「このモデルは上手く働いている。今年もエクスペリエンシャル事業を倍増させる年になると期待している」と同氏は語った。

イベントの低コスト化と迅速化

パブリッシャーたちがイベント事業に強気で臨める理由がもうひとつある。フォーブス(Forbes)を含む数社が、常設または半常設のイベントスペースに投資するなど、通常スポンサーが負担する諸経費の削減に手を尽くしたことだ。

米DIGIDAYが本記事の執筆にあたり、最初に取材したパブリッシャーは、「自前のイベントスペースを持つことにより、イベントを開催するたびに新たな賃貸契約を結び、会場を設営する必要がなくなった」と述べている。この戦略がどの程度のコスト削減につながるかについては明らかにされなかった。

このパブリッシャーはさらにこう話す。「単発のイベント企画はブランドに法外なコスト負担を強いる。開催のたびに会場を設営するため、制作作業も重くなる。弊社は改変可能な常設のスペースを保有しているため、ブランド側に多額の負担を付けまわす必要がない」。

フォーブスの常設イベントスペースはその名をフォーブス・オン・フィフス(Forbes on Fifth)といい、マンハッタンにある。同社CROのシェリー・フィリップス氏は、「定期開催の主力イベントでも単発の企画イベントでも利用できるスペースであり、エクスペリエンシャルキャンペーンの迅速化にも貢献する」と話す一方、具体的なスケジュール感については言及しなかった。いずれにしても、このような常設スペースは、とくに広告予算が直前になって承認される場合や、四半期中の広告購入が優先される場合などには、多くの広告主やメディアバイヤーに歓迎されるだろう。なお、この常設スペースのリースや所有にかかるコストは明らかにされなかった。

高額のメディア投資が求められるケースについて、UMのレファーツ氏はこう話す。「クライアントは回収の見込みがつかない投資を望まない。しかし現状では、2カ月先のことさえ予測がつかないというのに、6カ月先のイベントに予算を出せと要求される。パブリッシャーやネットワークにはもっと臨機応変に対応すること、そして計画から実施までの期間を短縮することが求められる」。

ワーゲンハイム氏によると、ブランドが納期の短縮と四半期内での完結を期待するため、イベントの開催にかかる時間は概して短縮化の傾向にあるという。「理想としては、イベント開催の4カ月ないし5カ月前にはスポンサー契約を締結したいところだが、現実的には2カ月から3カ月前といったところだろう」。

[原文:Despite Q1’s slow start, publishers are bullish about events revenue for 2023

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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