苦しむ アドテク ベンダー、生き残るにはまわりをすべて敵に回すしかないのか

DIGIDAY

いまは広告ビジネスを営むうえで、「英雄として死ぬか、生き延びて悪に染まるか」の局面だ。ザ・トレードデスク(The Trade Desk:以下、TTD)はいま、間違いなくその渦中にいる。

成功した企業がこうした局面を迎えるのは、珍しいことではない。そこに到達した企業は、もはや負け犬などではなく、業界を支配する一大勢力とみなされる。TTDは間違いなく、そこにいる。そしてその結果、新たな課題に直面しているのだ。同社に寄せられる期待は移り変わり、関係者のあいだでは最悪の事態を想定し、最善を尽くす傾向が強まっている。

オープンパスの登場で「GPID」が加速

このような懸念は、トレードデスクが購買力を集約し、プログラマティックインベントリー(在庫)へのよりよい経路を確保するために行っている取り組みから生じている。この取り組みは一般に「GPID」イニシアチブと呼ばれており、スタートしたのは1年半ほど前のことだった。

しかし、この路線が固まったのは同社がGPIDと並行して、オープンパス(OpenPath)を介したプログラマティックインベントリーへの独自の直行ルートの構築に乗り出すようになった、ここ1年のことだ。

企業がある一線を越えようとする場合、このような憶測は付きものだ。業界は幾度となく、こうした動きが仲介業者排除のきっかけになる様を目撃してきた。公平を期すために言っておくと、TTDに関しては、いまのところそうはなっていない。むしろ同社は、トラブルの発生を防ぐために、細心の注意を払ってきた。とはいえ、ここまでの動きを見るかぎりでは、多くのことが想像に委ねられたままになっている。

TTDの入札アルゴリズム

たとえば、あるニュースサイトで同じ広告枠を販売するサプライパスを、TTDがすべて特定したとしよう。TTDは、この広告枠の適正な市場価格は1ドルだと判断した。そして、サプライパスごとに、この広告枠をこのプライスポイントで買うチャンスを得る確率を測定したとする。

その結果、1ドルでの入札に、エクスチェンジ1を介した場合は、TTDが落札できる確率は20%。自社のパスを介した場合は22%。一方でエクスチェンジ2を介した場合は1%だった。

エクスチェンジ2に関しては、何かが明らかにおかしい。テイクレートが異常に高く、1000インプレッションのグロス入札当たりの入札価格が、ネットベースではその競争力を奪われてしまうのかもしれない。あるいは、何らかの技術的な問題によって、この広告枠のオークションにしばしば不具合が生じているのかもしれない。

いずれにせよ、TTDにとって、そんなことは関心外だ。同社が気にかけているのは、そのパスを通じて適正価格でインベントリーを購入できるかどうかだけだ。もしできなければ、そのパスの優先度は下げられるだけの話なのだ。こうした排除は、最高の状態にあるときでさえ、受け入れ難いものだ。排除された側が理由に納得できない場合は、なおさらそうなる。

「パスの優先度が上がる仕組みについては不明な点が多いが、自身が集めた情報から判断すると、TTDの入札アルゴリズムは、自社のパスも含めて、テイクレートの低いパスを優先させているようだ」と、あるアドテク幹部は匿名で、TTDが広告費をどのように使っているのかについて率直に語った。

また、「これが本質的に意味するのは、競合するためには自身のマージンを犠牲にしなければならない可能性もあるということだ。もしそうなれば、売上は下がり、事業にマイナスの影響をもたらすことにもなるだろう」とも話す。TTDの意図が、非道というより(おそらくは)無慈悲なものに映る原因は、これだろう。

プログラマティック全体のトレンド

結局のところ、オープンパスのテイクレートは低く設定されており、パブリッシャーインベントリーへの直行パスを最適化するため、首脳陣は懸命に取り組んでいる。もちろん今後は、このサプライパスから購入される広告は増えるだろう。

広告購入に最も効果的な手段のひとつが、オープンパスなのだ。SSPもアドエクスチェンジも、落札できなければ手数料を取れない以上、これを好ましく思わないだろう。だが、TTDにそのすべてをサポートする義務はなく、そんなことを期待される企業はほとんどない。

アドテクトラッカーであるシンセラ(Sincera)の共同創業者マイク・オサリバン氏は次のように語る。「私にとって興味深いのは、DSP(この場合はTTDだが、このことはどのDSPにもいえる)が、パスBではなくパスAを用いている理由を説明するのは当然だという考え方だ。SSPが、特定のDSPと提携している理由を説明しているだろうか? 価格下落に苦しむような画一的な提案は、TTD主導のトレンドではない。プログラマティック全体に広まっているトレンドだ」。

生じるバイアス

では、TTDがしていることは、はたしてフェアなのだろうか? 一部のアドテク幹部は、フェアではないと言っている。

あるアドテク幹部(TTDとの関係悪化のおそれがあるため匿名)は、「TTDには、広告主が我々からではなく、TTDのパスからより多くのパブリッシャー広告を購入する理由において、商業的なものだけではなく技術的な利点もある」と話す。「広告の買い方だけでなく、売り方にも影響力を持つようになると、必ずといっていいほど、『そのせいでバイアスの可能性が生じてしまった』などと皮肉られるようになる」。

そのバイアスとは、TTDはやがて広告主の利益にならない場合でも、プログラマティックインベントリーへの資金投入において、ほかよりも自社のパスに多くの資金を投入するようなるかもしれないというものだ。

明らかにしておくが、いままさにこうなりつつあるわけではない。むしろ、その逆だ。TTDは、最も高い効率性が得られるエリアへの支出を強化しているが、この取り組みには、そのほかのアドテクベンダーからすでに収入を得ていても、パブリッシャーには金銭的負担はかかっていない。

サプライパス最適化

TTDのインベントリー開発担当バイスプレジデントであるウィル・ドハーティ氏は、米DIGIDAYの取材に次のように述べている。「この支出の対象となるプレミアムパブリッシャーは、今後ますます増えるだろう。ただし、そのためのパスは少なくなる見込みだ。これが始まれば、マーケットの全体的効率がその周辺にも見返りを与える。この場合はつまり、バイヤーとパブリッシャーだ」。

同氏が言いたいのは、広告の品質と引き換えに価格を設定することで市場がクリアになるため、TTDはすべてのサプライパスに無関心であるということだ。

コンサルティング会社のレモネード・プロジェクツ(Lemonade Projects)のエコノミストであるトム・トリスカリ氏は、この状況を招いているTTDの組織的問題を分析している人物だ。

同氏は、「これ以上にないほど純粋なかたちのサプライパス最適化だ」と語る。「価値のないインベントリーを売って生計を立てているセラーは気を揉んでいるが、それは当然だろう。彼らは長きにわたって怠惰に暮らしてきた。真っ当になるか、死ぬかの二者択一だ。これが価格設定に関心を払ってこなかった結果だ。TTDの意図が真っ当ならの話ではあるが」。

思い出されるGoogleとの記憶

では、否定論者たちの「胸焼け」の原因は、いったい何なのか? 統合に向けたTTDの取り組みは、いまは付加的なものだが、いずれはTTDに大きな影響力を及ぼすようになるかもしれない。

この状況は、企業各社の広告幹部がGoogleのアドエクスチェンジを支持して、同じく同社が開発したプログラマティックインベントリー入札のためのアドテク(DV360)が憂き目に遭ったときと少し似ている(これらふたつはどちらも汎用型テクノロジーであると、Googleは主張していた)。

一部の広告幹部にとっては、この点が大きな問題になっている。彼らはいま、これまで学んできた疑念に頭を悩ませている。

「TTDがバーティカル化をめざし、プログラマティック市場に対する支配力を強化しようが、どうでもいいと私は思っている。ここ最近は、それが当たり前になっているからだ」と、あるアドテク幹部(匿名を希望)は語る。「TTDが行っていることは違法ではない。私が気を揉んでいるのは、Googleがこれまでにやってきたことを、しばしば思い出させられるからだ」。

TTDが抱える問題は?

TTDは自身を、Googleに対するアンチテーゼとみている。それを考えると、この点は興味深い。しかし、この見方には少し無理があるかもしれない。TTDが結果的に得た技術的利点は何もない。同社がオープンパスのオークション手順をいじったところで、通常のプログラマティック市場を介した入札よりも多く落札することはできない。

TTDに対する騒動のすべてを無意味だといっているわけではない。もしパブリッシャーがTTDを利用する広告主の広告費に依存するようになれば、TTDはその影響力を駆使して、ほかの方法ではできなかったことを、パブリッシャーにさせることができるようになるかもしれない。ただ、このパラノイアが表面化してくる気配は、いまのところはない。

しかし、TTDが抱える問題は、驚くべき事実などないということを冷笑家たちに納得させることだ。ひとたび確立されてしまった物語は、変えるのが難しい。もし対処されなければ、この問題に対するさらに大きな影響が生じるおそれもある。

規制当局の怒り

まず考えられるのが、規制当局の怒りだ。規制当局は、最大規模の広告企業が、利益相反を責任をもって管理できることを証明することを、より一層求めているからだ。こうした経緯から、とりわけ広告業界の垂直統合を対象とする、デジタル広告の競争と透明性に関する法案(Competition and Transparency in Digital Advertising Act:以下、CTDA法案)は誕生した。

素人目には、TTDはまさにそうであるかのように映るかもしれない。TTDが従来型のSSPを運営しているわけではなく、パブリッシャーとの既存の商取引を破壊しているわけでもないが、CTDA法案はTTDには衝撃的だった。

フォレスター(Forrester)のシニアアナリストであるニキル・ライ氏は、「このトピックについての私の見方を形成しているのはCTDA法案への興味だが、もしこの法案が通過し、TTDが成長して200億ドル(約2兆6800億円)以上のプラットフォーム支出を処理するようになれば、TTDはデジタルアドエクスチェンジとして、セルサイドの仲介業者として扱われるようになるだろう」と語る。

そして、「その結果、オープンパスの運営は禁止されるはずだ。具体的には、利益相反の回避に関する同法案の規定により、SSPを犠牲にしてパブリッシャーとの統合を促すのに使われる、オープンパスの実行可能性は制限されることになるからだ」と続けた。

[原文:The Trade Desk’s consolidation efforts are great for advertisers and publishers. Terrible for undifferentiated SSPs

Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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