「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の驚異的な成功は、ビデオゲームの知的財産(IP)が映画化やテレビ化の機が熟したことを証明している。
もし過去10年がスーパーヒーロー映画や、コミックの映画化の10年だったとしたら、次の10年はハリウッドのビデオゲーム時代になる可能性が高い。
ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーは任天堂、イルミネーション(Illumination)、ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures)が約1億ドル(約133億9000万円)をかけて制作した映画で、全米公開から5日で2億ドル(約267億7000万円)以上を稼ぎ出した。
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しかし、これは氷山の一角にすぎない。HBOの「ラスト・オブ・アス(The Last of Us)」シリーズは1月にエンターテインメント界で旋風を巻き起こし、ネットフリックス(Netflix)からパラマウントプラス(Paramount+)に至るストリーミングプラットフォームはこぞって、「フォールアウト(Fallout)」、「マスエフェクト(Mass Effect)」といった人気ゲームのIPに飛び付いている。
ハリウッドとビデオゲームの蜜月はまだ比較的初期の段階にあるが、時代を超えたロマンスになりそうだ。ゲームのIPが、映画およびテレビ業界の次なる稼ぎ頭になるとされる理由を探るため、DIGIDAYは専門家に話を聞いた。専門家によると、理由は5つあるという。
1. ゲームはついに多世代で楽しむことができるものになった
「マリオ」のような人気ゲームシリーズは何十年も前から存在する。つまり、何世代もの子どもがクリボーを踏み付け、クッパを倒してきたということだ。1993年に実写映画「スーパーマリオ/魔界帝国の女神」が公開されたとき、子どもたちは大喜びしたかもしれないが、親たちはビデオゲームを題材にした映画というコンセプトにあきれ顔をした可能性が高い。
4月第2週末の興行成績を見ると、親と子の両方がザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーを見るため、映画館に殺到したようだ。そして、この映画は新旧のマリオゲームの要素をふんだんに盛り込んでおり、どの世代のファンも楽しむことができる。
アクティビジョン・ブリザード・メディア(Activision Blizzard Media)のバイスプレジデントとして全世界のビジネスリサーチとマーケティングを担当するジョナサン・ストリングフィールド氏は、「たとえほんの一瞬だったとしても、15年前にゲームをプレイした40代の私が認識できる要素がすべてあった」と感想を述べている。「表向きはターゲット層でない人も、懐かしさやIPへの親近感で映画に引き込まれるような仕掛けがあちこちにあった」。
2. ビデオゲームを題材にした今の映画には、多くのリソースが与えられる
評論家は反対するかもしれないが、ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーがロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)で獲得している96%の肯定的な評価はうそをつかない。
ビデオゲーム自体のストーリー性が向上するにつれて、映画スタジオやテレビ局はゲームの映画化、テレビ化により多くのリソースを投入するようになっており、ラスト・オブ・アスのような純粋に上質な作品を実現するための完璧な条件が整っている。観客は映画のチケットを購入しており、こうした質の向上は報われている。
ユービーアイソフト・フィルム・アンド・テレビジョン(Ubisoft Film and Television)で映画およびテレビコンテンツ部門の責任者を務めるマーガレット・ボイキン氏は、「これらのプロジェクトはより多くのリソースを与えられ、その背後にいるクリエイティブチームはより多くの自由を与えられている」と話す。
「ゲームの映画化やテレビ化が過去に苦しんだのは、原作から逸脱することが許されず、ゲームと映画やテレビシリーズのあいだでストーリーテリングの違いを生み出すことができなかったためだ。テレビ局や映画スタジオには、ゲーマーはゲームの基準から外れたものを拒絶するという誤解がある。今、映画化やテレビ化は、ゲームの伝承に加わるものとして歓迎されている」。
3. ゲームのIPがシネマティック・ユニバースを創造する可能性
マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe:MCU)の成功後、映画スタジオやテレビ局は、まとまりのあるシネマティック・ユニバースを形成する可能性がある次のIPに目を光らせてきた。しかし、長期にわたるストーリーテリングとキャラクターの相互作用がコミックほど深いメディアはほとんど存在しない。
ただし、シネマティック・ユニバースを発展させる可能性がコミックに匹敵するメディアがあるーー。それがゲームだ。「マリオ」の世界には、何十もの印象的なキャラクターがひしめき合っているが、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」に登場したのは、その一握りにすぎない。
次のシネマティック・ユニバースはNCU、つまり任天堂シネマティック・ユニバースになるかもしれない。「ビデオゲームはこれまであまり活用されていなかった巨大なIPだが、そのような深みのあるIPを持つスタジオは多くない」とストリングフィールド氏は話す。任天堂は「マリオ」の世界にある豊富なキャラクターや設定に加えて、「メトロイド」や「ゼルダの伝説」など、多数の人気シリーズを保有している。
4. 新型コロナウイルス感染症のパンデミックがゲームIPの人気を高めた
これは驚くことではないが、言及しておく価値がある。パンデミックで火がついたゲームの盛り上がりは、ついにハリウッドにも飛び火した。パンデミックがピークに達したころ、消費者のゲームコンテンツへのエンゲージメントが高まり、「マリオ」や「ラスト・オブ・アス」などのIPに親しみを持つ新しいゲームファンが生まれた。
米エンターテイメントソフトウェア協会(Entertainment Software Association)の調査では、2021年、2億2700万の米国人がビデオゲームをプレイしていると回答。前年の2億1400万人から増加した。ライブストリーミングプラットフォームのツイッチ(Twitch)は同期間、視聴者数が67%増加している。
「マリオ」のような映画化を通じて、映画業界はこうした関心の高まりに対応しているのだ。
5. 活気と情熱に満ちたファンコミュニティーがあらかじめ組み込まれている
ハリウッドの映画スタジオにとって、ビデオゲームの映画化はチートコードのようなものだ。なぜなら、コミックと同様、ファンダムをゼロからつくり上げる必要がないためだ。何百万もの「マリオ」ファンにとっては事実上、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が公開されたら、その出来栄えにかかわらず、映画館の座席に腰を下ろすことが既成事実だった。
また、長期的には、ゲームIPの方がコミックのIPより有利かもしれない。紙のコミックの売上は何年も前から減少しているが、ゲームへの関心は高まる一方だ。
米ニューヨーク大学(New York University)でeスポーツおよびゲームの責任者を務めるジェイソン・チュン氏は、「ハリウッドのプロジェクト予算が膨れ上がるなか、誰もがリスクを軽減するため、確実に利益をもたらす文化財を探している。これまではコミックがそのような文化財だったが、これからはビデオゲームだ」と説明する。
「『マリオ』映画の成功は、映画としてのゲームIPの決定的な出発点にも終わりにもならないだろう。ただひとつ違うのは、これらの映画に適切な予算と支援を与える必要があることをスタジオがようやく理解したようだということだ」。
[原文:Here are 5 reasons why gaming IP is Hollywood’s next big money spinner]
Alexander Lee(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)