次のオウンドチャネルは「 ポッドキャスト 」か:顧客獲得やコミュニティ形成を期待するブランド各社

DIGIDAY

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会員制の食料品店プラットフォームであるスライブマーケット(Thrive Market)は3月22日、「それで、あなたは順調?(But Are You Thriving?)」という独自のポッドキャストを開始した。この番組は隔週で、スライブマーケットの共同創業者であるニック・グリーン氏とグンナー・ラブレス氏が司会を務め、栄養や、ウェルネス、サステナビリティなどのトピックについてゲストと話し合う。

ポッドキャストは、刻々と変化するマーケティング情勢に対応するため、小売企業が既成概念にとらわれない考え方をしようとする最新の取り組みだ。デジタルネイティブなブランドは何年にもわたってポッドキャスト広告を出し、人気のあるホストと提携して、独自の割引コードで自社商品のプロモーションを行ってきた。

しかし、ポッドキャストを立ち上げるのはまったく別の試みであり、オウンドメディアに投資するという賭けとなる。ブランドによるポッドキャストは一般大衆に人気があることが明らかになっている。2019年のBBCグローバルニュース(BBC Global News)のニューロサイエンス調査によれば、ブランドによるポッドキャストはTVやラジオの広告よりも効果的なことが証明されている。小売の分野に限っても、ブランドによるポッドキャストは必ずしも新しいものではない。小売業者のトレーダージョーズ(Trader Joe’s)は、2018年に開始したポッドキャスト「インサイドトレーダージョーズ(Inside Trader Joe’s)」で、同社の歴史や、運用、商品のヒントや舞台裏をファンに紹介している。さらに、各ブランドは以前、この種の一般向けパネルやインタビューをメタ(Meta)のようなプラットフォームでこれまで主催していたが、アルゴリズムの変更が増えていることから、自社のコンテンツを保有したいと考えるようになっている。

企業のミッションやストーリーを伝える

そこで、新興企業のブランドは、音声番組のフォーマットによってファンベースを育て、可能ならば顧客の獲得や広告のツールとして使おうとしている。

2020年に設立されたハードセルツァーブランドのネクター(Nectar)は、YouTubeをベースとする週刊コメディポッドキャスト「アンダー・ジ・インフルエンス(Under the Influence)」を2021年後半にスタートした。この番組は、ネクターの共同創業者であるジェレミー・キム氏と、バーケミストリー(Barchemistry)の創業者であるバーテンダーのウータック・キム氏、およびTikTokで人気のスターであるビエット・トラップ氏などの友人たちがホストを務めている。ホストたちは毎週、リスナーから寄せられた質問や、ポップカルチャーのトピックについて話し合い、デートからキャリアの構築まで、人生のさまざまな問題についてアドバイスを述べる。「アンダー・ジ・インフルエンス」は現在YouTubeで12万7000人以上の登録者と、インスタグラムで18万人以上のフォロワーを抱えている。

ネクターがカルチャーについて語る一方で、スライブマーケットのようなブランドは、自社の企業ミッションをより多くの人にアピールするため、オウンドのマーケティングチャネルとしてポッドキャストを立ち上げている。この番組では、同社のブランドパートナーのエグゼクティブや創業者をゲストに迎え、サステナブルなCPG(消費者向けパッケージ商品)事業の構築や、オーガニックでサステナブルな供給元からの食品にアクセスしやすくする方法などのトピックについて話し合う。

「それで、あなたは順調?」の初回では、俳優で環境問題研究家のエイドリアン・グレニアー氏とのあいだで、気候変動についての討議が行われた。今後のゲストには、「食べて、祈って、恋をして(Eat, Pray, Love)」の著者であるエリザベス・ギルバート氏や、栄養トレーナーで、YouTuberとしても活動し、スライブマーケットのインフルエンサーパートナーでもあるトーマス・デラウアー氏が予定されている。

スライブマーケットのCMOを務めるアミーナ・パシャ氏は、このポッドキャストは同社のストーリーをさらに語り、食品サプライチェーンのさまざまな側面を強調する方法についてアイデアを出し合った結果であると米モダンリテールに語った。「当社はすでに、デジタルに大きなプレゼンスを持っているが、音声にはまだ手をつけていなかった。これは、現代のマーケティングに対する我々のアプローチの一環だ」と、同氏は述べている。

パシャ氏は、この音声フォーマットが「当社のブランドに人間味を与えるのに役立つだけでなく、日常的なビジネスの出来事や業界の変化を取り上げることもできる」と語る。気軽な会話も、スライブマーケットの創業者たちの背景や、どのようにして会社を作り上げたのかを伝える方法なのだと、同氏は述べている。

会員獲得のための新チャネル

「それで、あなたは順調?」は、同社がプライベートブランドから新商品を発売する方法として推進されている。

スライブマーケットは現在、ソーシャルメディア全体で約80万人のフォロワーと、120万人のメール購読者を抱えているが、その多くは年間会員ではない。「オーディエンスの約80%は、有料会員プログラムに参加していない。当社は、この新しいチャネルから新規会員が誕生することに期待している」と、パシャ氏は述べている。このポッドキャストは、同社のホームページのバナー、フッターのリンク、および専用のメールとSMSの通知でも宣伝されている。

また同社は、インフルエンサーパートナーを採用して新番組の宣伝を行っている。「ゲストの多くは、そのゲストにソートリーダーシップを求めている、固有の強いオーディエンスを保有している」と、同氏は語る。さらに、同社の従業員もロールアウトキャンペーンの一環として、自分たちの友人や家族とリンクプレビューを共有してきた。

スライブマーケットのマーケティングチームは当面、会員と見込み顧客の両方によるエピソードのダウンロードを追跡する。また同社は、創業者から新しいベターフォーユー(健康的)な食品ブランドについて学ぶことに関心を持っている人々を引きつけたいと考えている。

「それで、あなたは順調?」のシーズン2はすでに制作中で、ブランドの認知度向上に加えて、会員獲得促進のための活動に移行していく。そのため、同社のブランドパートナーを番組のスポンサーとして起用したり、共同ブランドのインタビューシリーズでパートナーと提携したりする可能性もある。

対話の場を生み出す

別のオンラインブランドは、ポッドキャストを使用して、自社商品に関する対話の場を生み出している。

調製粉ミルクのD2Cブランドであるボビー(Bobbie)は3月16日、「ミルクドランク(Milk Drunk)」という独自のポッドキャストをソフトローンチした。隔週で放送されるこの番組は、現代の子育てを乗り切る方法に焦点を、母乳と人工栄養の比較や、産後鬱(うつ)など、議論を呼ぶ話題を取り上げる。

「ミルクドランク」は、親向けのヒントやリソースが掲載されたボビーのオンライン刊行物の名前でもある。同社によれば、各エピソードはブリット・プラス・カンパニー(Brit + Co)の創業者であり、ミルクドランクのウェブサイトの総合編集長でもあるアンジェリカ・テンプル氏がホストを務める。同氏は「親である著名人と、誠実な子育ての専門家」を招き、その回のトピックについて話し合う。

ボビーのマーケティングおよびコミュニケーション担当バイスプレジデントを務めるキム・チャッペル氏は次のように述べている。「私は自社のD2C店舗を開始するよりも前から、ポッドキャストをはじめることについて話していた。しかし、ずっと『新しいポッドキャストは本当に必要だろうか?』と考えてしまっていた」。

ボビーは昨年起きた調製粉ミルクの不足の矢面に立ち、その後、2022年夏に全国のターゲット(Target)店舗で販売を開始したあとで、親たちとの関わりをさらに深めるために「ミルクドランク」ポッドキャストを立ち上げることにした。「より親密なフォーマットなので、当社のコミュニティがすでにオンラインで行っている対話の拡張として最適だ。また、当社が価値に基づく企業である理由と、子育てのリソースに投資していることを、人々に理解してもらうための方法でもある」と、チャッペル氏は述べている。

ボビーは以前、インスタグラムライブで専門家のパネルを主催していたが、これは、特にビデオリールが廃止になりつつある今、「行き詰まりを感じている」とチャッペル氏は述べる。自社でポッドキャストを持つことは、インスタグラムでライブ配信するのとは違い、ブランドがコンテンツを所有し、コンテロールできることを意味すると、同氏は付け加えた。

「ミルクドランク」の最初の3つのエピソードは、現在Apple Podcasts、Spotify、スティッチャー(Stitcher)で見ることができる。最初のエピソードには、ボビーの共同創業者であるローラ・モディ氏とセアラ・ハーディ氏が出演し、調製粉ミルクブランドを作り上げた方法について話している。エピソード2のゲストはボビーのセレブリティ・スポークスパーソンであるタン・フランス氏で、同氏が親となった最初の1年間について語っている。エピソード3には同じくボビーのアンバサダーであるモデルのアシュリー・グラハム氏が出演し、2人目の子どもを育てる悩みについて語っている。このエピソードにはまた、ボビーと提携している子育てインフルエンサーであるザ・フォーミュラ・マム氏やドクター・シェファリ氏も出演している。

長期的な投資

これらのブランドが音声を推しているにもかかわらず、ポッドキャストは新興企業にはやや長期的な投資のように感じられる。

TikTokやインスタグラムなどのプラットフォームでの一般的なマーケティングキャンペーンとは異なり、ポッドキャストの制作はじっくりと時間をかけて行われる活動だ。ポッドキャストが、オーディエンスを継続的に集めて収益化するには、何カ月、ときには何年も要することが多い。「これは間違いなく多くの時間を必要とする投資で、収録のために、参加者を決められた時間にスタジオに集めるなど、多くのロジスティクスが関与する」と、チャッペル氏は述べている。一方で、「ミルクドランク」はボビーのライフスタイル分野への新たな進出の一環でもあると、待望の店舗が3月に開設されたことも含め、同氏は語っている。

このポッドキャストについては、過去数週間にわたってメールやSMSの登録者に予告されており、チャッペル氏によれば、そのおかげもあってオンラインで評判になっている。「ゲスト出演を希望する経営者や起業家からすでに依頼を受けている」と、同氏は述べている。

「ミルクドランク」のリスナーが確保できれば、マーケティングや顧客獲得のチャネルになる可能性もある。「当社は当面広告を行わない」と、同氏は述べている。「しかし、この春には、創業以来はじめて自社の商品ラインを拡充し、このポッドキャストで短い自社広告を流せることに期待している」。これらのスポットでは、ボビーがどのように調製粉ミルクを開発しているかを示す、研究開発の舞台裏を紹介するコンテンツになる可能性がある。

スライブマーケットのパシャ氏は、ブランドがポッドキャストを立ち上げているという事実は、ほんの数年前と比べても、マーケティングがどれだけ変革したかを示していると付け加える。「当社の構想は、オンラインのウェルネスリソースを探すための最良の場所になることであり、ポッドキャストは、その構想を実現するためにのひとつの手段だ」と、同氏は述べている。

これらの企業にとって、ポッドキャストは、ブランドがどのように運営されているかの舞台裏を見せるための、もうひとつのオウンドチャネルだ。同時に、コミュニティ構築のツールにもなり得る。「当社の目標は、Appleで1位のポッドキャストになることではないが、うまくいけば「ミルクドランク」は将来的にカルト的な信奉者を獲得できるかもしれない」と、チャッペル氏は述べている。

[原文:Brands are launching podcasts as owned marketing channels]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Thrive Market

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