インフルエンサーマーケ 予算を3倍に拡大したアパレルブランドの狙い:「素早く、大規模に発信する効果的な方法だ」

DIGIDAY

1960年代と80年代に高い人気を博したアパレルブランドのリリー・ピューリッツァー(Lilly Pulitzer)が、近代化を推し進めている。

メディアミックスを多様化してより多くの買い物客にリーチするため、TikTokとインスタグラムのインフルエンサーを活用する方向に大きく舵を切ったのだ。

ブランド認知チャネルに予算と労力をつぎ込む

創業60周年を迎えるリリー・ピューリッツァーは今年、ブランドの若返りを図る取り組みの一環として、インフルエンサーマーケティング予算を3倍に増やすなど、これまでで最も野心的なインフルエンサーマーケティング活動に乗り出したと、CEOのミッシェル・ケリー氏はいう。

「ブランド認知度を高め、口コミを増やし、情報を広めるという点で、インフルエンサーの影響力は無視できないものだ」と同氏は述べ、「現時点で、情報を発信するのに最も効果的な方法のひとつであることは間違いない」と語った。

また、ウェルネスブランドのリキッドIV(Liquid I.V.)ペット医療サービスを手がけるスタートアップのファジー(Fuzzy)など、ほかの多くの広告主と同じように、リリー・ピューリッツァーはパフォーマンスマーケティング戦術への依存度を下げ、インフルエンサーマーケティングのような実験的試みやブランド認知チャネルに予算と労力をつぎ込もうとしていると、同氏は付け加えた。同社はこの取り組みを進めるにあたり、デジタルエージェンシーのPMGと提携している。

インフルエンサーマーケティングの効果

新しい有料パートナーシップキャンペーンと戦略の転換でメディアミックスを多様化するために、同社は著名なTikTokインフルエンサーを起用した。たとえば、「@corporatenatalie」というソーシャルメディアアカウントで活動し、50万人超のフォロワーを抱えるナタリー・マーシャル氏、2万人超のフォロワーを抱えるタリー・ダッドリー氏、ミス・ニューヨークとして知られ、100万人超のフォロワーを抱えるタリン・デラニー氏などだ。

「インフルエンサーを大胆に起用しようと考えた理由は、ブランドとのつながりを構築し、ブランド認知度に変化をもたらし、ブランドのスタイルなどを宣伝する力やそのような取り組みをすばやく実行できる能力を持っているのは、インフルエンサーであることに気づいたからだ」と、PMGでインフルエンサーおよびブランドコンテンツ責任者を務めるリンゼイ・レーマン氏はいう。

市場調査会社カンター(Kantar)傘下のビビックス(Vivvix)のデータ(パスマティクス[Pathmatics]の有料ソーシャルデータを含む)によれば、昨年のリリー・ピューリッツァーのメディア支出は1050万ドル(約14億1000万円)と、2021年の700万ドル(約9億4000万円)から増えていた。

従来の戦略から、より進化したかたちに

もっとも、インフルエンサーマーケティングは同社にとって新しい戦略ではないと、ケリー氏はいう。だが、過去のインフルエンサーマーケティング戦略はもっと草の根的なもので、すでに同ブランドをよく知っている人々にリーチする以上のことはできなかった。

一方で、今回の取り組みは同社がこれまでに行ったインフルエンサーマーケティングの3年分の規模だと、ケリー氏は明かしている(ただし、具体的な数字については本記事公開までに回答を得られなかった)。

「さらに範囲を広げ、より多くの人を巻き込む形で、すばやく大規模に情報を発信したいというのが私たちの考えだった」と、同氏は説明する。「これまでも情報を伝えてはいたが、大々的に発信するわけではなく、耳打ちしているようなものだった」。

若者は口コミよりもTikTokに影響を受けている

エージェンシー幹部らにとってインフルエンサーマーケティングは、とくに若い買い物客に関して、メディア予算を確保できればいいものから確保すべきものへと変わっているという。実際、DIGIDAYリサーチによれば、インフルエンサーマーケティングに投資するブランドの割合は、2022年初めの62%から2023年第1四半期の73%へと大幅に増加している。

また、ビジネス・インサイダー(Business Insider)が公開した新しいデータによれば、若者は口コミよりもTikTokに影響を受けているというのだ。

このトレンドに乗ろうと、米国では2022年のキャンペーンでインフルエンサーを活用する見込みだと答えたマーケターが75%近くに上り、2021年の70%から増えていたと、インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)は報告している。なお、2022年にインフルエンサーとの提携にかかると予想されたコストは、41億4000万ドル(約5560億円)だった(デジタルマーケティング全体では2400億ドル[約32兆2100億円])。

フルファネルに近いマーケティングミックスが最優先に

景気の先行き不透明感やTikTok禁止の可能性がマーケティング業界に影を落とすなかでも、インフルエンサーマーケティングはマーケティングのパイを構成する重要な要素になると話すのは、ソーシャルメディアマーケティングを手がけるリーチ・エージェンシー(Reach Agency)の共同創設者であるゲイブ・ゴードン氏だ。

「TikTok禁止令が発動されるかどうか、その影響がどのようになるのかは誰にもわからない」と同氏は述べ、現時点ではマーケターは現在の計画を維持すべきだと付け加えた。「そうなるまでは、先進的な取り組みを行っている(リリー・ピューリッツァーのような)ファッションブランドにとってはとくに、インスタグラムとインスタグラム・リール(Instagram Reels)という素晴らしい手段がほかにある。どちらもマーケティング費を投じるのに適した場所だ」。

ケリー氏によれば、リリー・ピューリッツァーのプランも同じだという。同氏は、インフルエンサーマーケティングのようなブランド認知戦略に加え、パフォーマンスマーケティング戦略を含めたマーケティング戦略が重要になると強調した。

「安全で測定可能だという理由だけで、パフォーマンスマーケティングに完全に逆戻りしてしまうことがないようにしたい」と、同氏はいう。「経済の影響がどうであれ、フルファネルに近いバランスの取れたマーケティングミックスを、常に最優先に維持できるよう心がけたい」。

[原文:Why legacy brand Lilly Pulitzer is tripling its influencer marketing budget

Kimeko McCoy(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)

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