TikTok をめぐる議会公聴会に美容クリエイターらが反応:議員の無知な質問、フェアではない議論

DIGIDAY

3月23日に議員たちが行ったTikTokのCEO周受資(ショウ・ジ・チュウ)氏への質問をあざ笑うリアクションでTikTokがあふれかえるなか、美容インフルエンサーたちは最悪の事態に備えている。

「(木曜日の)証言まで、じつはまったく心配していなかった」と、スキンケアインフルエンサーのロジャー・フー氏(本名ロジャー・マー、@rogerwh0)は述べた。同氏はTikTokに60万人以上のフォロワーがいて、収入のおよそ9割がTikTokのコンテンツによるものだという。「この1週間はそれほど心配していなかった。でもTikTokのCEOが議会から質問を受ける公聴会を見て、大局的な視点で考えたら『ひょっとすると可能性があるかもしれない』と思うようになった」。

米国でのTikTok禁止令の可能性に関するインフルエンサーのコメントは、周氏の5時間に及ぶ23日の証言以降、活発になっており、TikTokのインフルエンサーのグループがアプリの禁止に反対する集会を開くためにキャピトル・ヒル(ワシントンDCの国会議事堂がある場所)へと向かう事態となっている。集会に参加している美容・ファッション・ライフスタイルのインフルエンサーは、ジャネット・オーケー氏(@inmyseams)、グレース・アマク氏(@grace_africa)、クリスティン・トンプソン氏(@trendycurvy)、ナオミ・ハーツ氏(@naomihearts)だ。多くのインフルエンサーの現在の生活の糧が危機にさらされている。

「TikTokに依存しているクリエイターは非常に多い」と話すのは、TikTokに1800万人近いフォロワーがいる皮膚科医のムネーブ・シャー医師だ。同氏はアプリを禁止することは「我々の自由を侵す行為」と語った。シャー医師は来週、自身のポッドキャストで禁止措置の可能性について話す予定だ。

「いまはちょっと不安になっている」とマー氏は言う。「データセキュリティに関連してこうした対話がなされるという理由も理解できるので、厳しい状況だ。だが禁止令が通ってしまったら、クリエイターだけでなく(TikTokの)社員やアプリを利用している中小企業にも影響が及ぶ」。

議会の委員会はコミュニティや若い世代を代表していない

TikTokでは公聴会での証言に関する投稿が拡散、無知な質問をした議員らを批判している。美容インフルエンサーのジェームズ・チャールズ氏も、公聴会のパロディを投稿するクリエイターのひとりだ。

TikTokのフォロワー数が830万人の形成外科医アンソニー・ヨン医師(@doctoryoun)は次のように話す。「今日衝撃だったのは、正直言って、現在のテクノロジーやソーシャルメディアについて何も知らないくせに、米国人の半数近くが利用している企業を基本的に閉鎖する方法として露骨な行動に出る、物事に疎くて上から目線で横柄な老人がこんなにもたくさんいるのかということだ」。

今週、ヨン医師はTikTok禁止令に反対するChange.orgの請願書を作成した。それに関する4日前の彼の投稿は78万6000ビュー以上を獲得し、請願書には現在4万4000以上の署名が集まっている。

「議員たちの質問のなかには、本当に恥ずかしいものもあった」とヨン医師は言う。

たとえば、リチャード・ハドソン下院議員(ノースカロライナ州選出)は、「TikTokは自宅のWi-Fiにアクセスするのか」と質問した。この質問は、議員の無知を揶揄する多くのTikTokの動画に登場している。

一方、インフルエンサーでセフォラスクワッド(Sephora Squad)のメンバーでもあるクーシャ・ヌーリ氏は、「Get Ready With Me」というメイクアップ動画の一部として公聴会へのリアクションを投稿、議員たちがアプリに関する知識がないことを批判している。またヌーリ氏は公聴会当日にCNNに出演し、禁止令に反対する意見を述べた。

「議会の委員会は、私たちのコミュニティや若い世代を代表しているわけじゃないと感じる。メンバーである52人の議員のうち、実際にTikTokを利用していてユーザーの立場からアプリを理解しているのはひとりしかいないという記事を読んだ」。

議会はTikTokに対してフェアじゃない

質問の主要な論点のひとつは、バイデン政権が禁止令を警告する唯一の理由とされる、TikTokの中国資本に関するものだった。同社が米国の所有者に売却されない場合は禁止するという脅しがあったことをTikTok自体が認めているが、バイデン政権はまだコメントを出していない。北京に拠点を置くバイトダンス(ByteDance)は、中国の法律により、要請があれば中国政府にデータを提供することが義務付けられている。Appleなど、中国で活動する米国企業もこの法律を遵守している。同社のファイアウォールプログラムであるプロジェクト・テキサス(Project Texas)は、中国政府がデータにアクセスできないようにするためのものだが、2022年のBuzzFeedの報道で、中国拠点の社員がいまだに米国のデータにアクセスできると同社の社員が述べているリーク音声が明らかになっている。

周氏は証言のなかで、中国のバイトダンスがいまも米国のデータにアクセスできることを認め、「今日、我々が削除する必要があるデータがまだいくらか存在する」と述べた。

また別の一連の質問として、有害なコンテンツの存在や個人情報の収集の範囲など、すべてのソーシャルメディアプラットフォームにも関連するものがあった。TikTokの動画では、ある議員が人々の瞳孔拡張をTikTokは追跡するのかと質問したことを大々的に笑いのネタにしている。TikTokのプライバシーポリシーには「フェイスプリントやボイスプリント」などの生体データの収集の許可が含まれている。一方、TikTokに対するロビー活動の費用を負担したMetaは、視線追跡データを同社のデバイスであるMetaクエストプロの広告に利用しているのだ。

「重要な点は、一般的なソーシャルメディアの仕組みを議会がよく理解していないと思えるところだ。わが国のセキュリティリスクであることがすでに証明されているほかのプラットフォームと比較しても、議会はTikTokに対してフェアじゃないと思う」とシャー医師は述べている。多くのTikTokユーザーは、Metaの過去の問題、たとえばロシアの偽情報キャンペーンやケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルなどを指摘している。

このような禁止令は私の知るアメリカではない

「議員の多くがこのプラットフォームを理解していないと思うと、いてもたってもいられずつらい」と語ったのは、TikTokに8万7000人以上のフォロワーがいるネイルフルエンサーのクリスティン・ドアン氏(@glosshouse)だ。彼女のトッププラットフォームはインスタグラムだが、収入の約4割はTikTokのコンテンツによるものだと推定している。「議員たちはこのアプリをちゃんと確認していないような気さえする。控えめに言っても、とても幼稚だ」。米海軍の退役軍人である彼女は「国家安全保障やデータ保護の重要性も理解している」と語る。

「このような禁止令は、私の知っているアメリカではない。北朝鮮ではそういうことが起きている。ロシアでも起きている。中国でも起きている。だが、これがアメリカ合衆国で起こっているという事実は、まったくもって恐ろしい」とヨン医師は述べた。

現在TikTokのクリエイターにとって、仕事は「平常通り」だとマー氏は言う。彼は、クライアントのために「いまもブリーフィングに取り組んでいる」と語り、「頭上に不安が迫っているのを感じつつも、いまも通常通りコンテンツを作って投稿し続けている」。同時に、YouTubeショートでオーディエンスを構築することにも力を入れている「ほかのプラットフォームにも力を入れ始めるようにと、最近はマネジメントからかなりのプレッシャーがかかっている」と彼は述べた。

インフルエンサーの未来は宙に浮いている状態

一方で多くのインフルエンサーは、2020年の脅威の後、禁止令の可能性にあまり注意を払っていない。当時の脅威はウォルマート(Walmart)とオラクル(Oracle)がアプリに出資し、プロジェクト・テキサスが設立された取引によって軽減された。

ホワイトハウスや対米外国投資委員会からのアップデートがなければ、この禁止令の脅威が実際にどの程度深刻であり、どのようなスケジュールで決定にいたるのかは、依然として不明である。そのためインフルエンサーの未来は宙に浮いている状態だ。

「いまのところ、ブランドのクライアントやクリエイターにTikTokから離れるようにとは助言していない。しかしクライアントには実際にプラットフォーム間の多様化を推奨している。ソーシャルメディアの世界では物事が急速に変化するので、それはつねにビジネス戦略としてはよいことだ」と、インフルエンサーエージェンシーのビリオンダラーボーイ(Billion Dollar Boy)のプレジデント兼共同創業者のパーメル・ドイル氏は述べた。「実際に事態が禁止される方向にまでエスカレートした場合、当然この立場は変わる可能性があるが、今のところは様子見だ」。

しかし今回の証言で一部のエージェンシーは軌道修正をしている。ジ・インフォメーション(The Information)によると、PR会社のゴーリン(Golin)は公聴会の結果を受けて、一部のクライアントにTikTokのクリエイター・ブランド取引を控えるようアドバイスしたという。

ドイル氏は「一部のブランドやクリエイターが、このプラットフォームに対してますます臆病になるのをみても驚かない」と付け加えた。

ドアン氏は「特定のクリエイターグループのあいだで注目度が低い。トランプの禁止令のときほど、いまはあまり注目されていないと思う」と語る。

「私の5倍、10倍ものオーディエンスを抱えるクリエイターがいる。そして、その人たちが何もしていないことに驚いた」とヨン医師。「このような巨大なオーディエンスがいるクリエイターの多くが、現実から目をそむけて何もしていないことにまったくもって当惑している。そうした人たちは私よりもずっと猛烈な勢いでマネタイズしている」。

だが、あえて政治的な問題に参加しないことを選択している人々もいる。

「私はまだ何も投稿していない。悪いことを呼ばないようにしよう、あえて口にしないようにしようという気持ちがある。『タイタニック』みたいな感じだ。ただバイオリンの音楽を奏で続け、船が沈んでいないふりをするんだ」とマー氏は述べた。

[原文:‘Absolutely embarrassing’: TikTok’s beauty creators react to congressional hearing]

LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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