動画 ポッドキャスト のポテンシャルは?:制作の費用対効果を天秤にかけるパブリッシャーたち

DIGIDAY

YouTubeSpotifyなどのプラットフォーム各社が、ポッドキャスターを支援するためのプロダクトに資金を投入している。その目的は、彼らの音声番組と付随する動画を結び付けやすくすることにある。だが、動画制作のコストは、ポッドキャストを手掛けるパブリッシャーにとって、果たして必要な投資なのだろうか? 

今回取材した3人のパブリッシャーのポッドキャスト担当幹部の話によれば、それぞれが現在、動画にかかるコストと、動画を求める多くのオーディエンスにリーチできる可能性とを天秤にかけているところだという。

耳だけか、あるいは目で見て楽しむか

YouTubeの検索/レコメンデーションアルゴリズムには、動画ポッドキャストを浮上させて、ユーザーの目に触れさせる力がある。そのため、動画には新たなポッドキャストリスナーを番組に呼び込めるポテンシャルがあるといえる(ポッドキャスターにとっては、これが最大の課題のひとつだ)。視聴回数の増加は広告インプレッションの増加に繋がり、ポッドキャスターはYouTube広告で動画をマネタイズできる。

最近の調査から、動画ポッドキャストを好んで選ぶ傾向がリスナーに見られることがわかった。モーニング・コンサルト(Morning Consult)が今年1月に発表した世論調査によると、米国人の3分の1近く(32%)が、動画ポッドキャストの方を好んでいるという。この1カ月間に何らかのポッドキャストを聴いたリスナーに限っていえば、その数字は46%に跳ね上がる。

今回のアンケートに回答したポッドキャストリスナーの3人に1人が、最も好きなポッドキャストプラットフォームはYouTubeと回答した。これに続く2位と3位は、それぞれ順にSpotify、Appleだった。

ポッドトラック(Podtrac)が昨年5月に発表した調査によると、ポッドキャストランキングの上位250番組のうちの22%が、カメラに向かって人が話す動画付きのエピソードをYouTubeに投稿しているという。静止画像またはオーディオスペクトラム付きの、音声のみのエピソードを投稿している番組は11%だった。

また、キュミュラス・メディア(Cumulus Media)とシグナル・ヒル・インサイツ(Signal Hill Insights)が昨年11月に発表したリポートによると、調査対象となったリスナーの43%が、番組を動画なしで聞く方がいいと回答したという。それに対して、番組を聞きながら動画を能動的に見ていると回答したリスナーは28%で、番組を聞きながら動画をバックグラウンドで再生している、あるいはデバイス上で最小化して再生していると回答したリスナーは29%だった。

興味深いのは、ポッドキャスト初心者(昨年から聴き始めたリスナー)の方が、目で見て楽しめる番組に興味を示している点だ。彼らのうち、音声のみのほうがいいとと回答したのは、42%だった。一方、4年以上前からポッドキャストを聴いているリスナーでそう回答したのは、47%だった。この調査から、ポッドキャストを「目で見る」ほうが好きなウィークリーリスナーは、音声のみのほうが好きなリスナーに比べると年齢が若く、男性が多いこともわかっている。

動画ポッドキャストにコストに見合う価値は?

音声ポッドキャストに静止画像やオーディオスペクトラムを付けてYouTubeにアップロードするのにかかるコストと、ハイクオリティーな動画ポッドキャスト(収録風景のショットをふんだんに盛り込んだ動画)を制作するのにかかるコストは、まったくの別物だ(ちなみに、YouTubeの広報担当者の話では、そのポッドキャストが動画付きか音声のみかによって、同社のレコメンデーションアルゴリズムが影響を受けることはないという)。

ベッチェス・メディア(Betches Media)の最高収益責任者であるデーヴィッド・スピーゲル氏によれば、同社は現在、動画コンテンツを含んだポッドキャストを今後90日以内に増やす計画を練っているという。完全動画のエピソードを制作するには、プロデューサーを雇用して現場で撮影を行い、動画を編集して録音素材に合わせる必要が出てくる。これによって生じるかもしれない「かさむコスト」にどう対処するかが課題だと、同氏は話す。「それに伴う機会費用と作業については、真剣に考える必要がある」。

「DIGIDAYポッドキャスト(DIGIDAY Podcast)」に出演した同氏は、「ベッチェスは昨年10月、初のスタジオ収録動画ポッドキャストとなる『ユー・アップ?(U Up?)』の公開をYouTubeで開始した」と述べた。同チャンネルの登録者数は現在7000人を突破している。同氏によれば、ベッチェスは今後、YouTubeショート(YouTube Shorts)などのショートフォームのバーティカル動画で自社のポッドキャストのプロモーションを続けていき、「いずれは番組ごとに人員を配置して、フルエピソード動画を増やしていくつもり」だという。

同社はこのひと月で15人のスタッフを採用している。「Zoomでインタビューを収録して、それを番組にするようなことはしたくない。そうした視聴体験がよいものだとは、私には思えない」と、同氏は語った。

費用対効果分析は続く

一方、あるパブリッシャーのポッドキャスト担当幹部(匿名希望)は、「自チームはまだ、動画ポッドキャスト制作の費用対効果分析を行っているところ」だと話す。また、「動画的要素に磨きをかけるために制作費を大幅に増やしているのなら、いずれどこかの時点で、そのせいで利益を生むポッドキャストの制作が困難になる可能性もある」とも語る。

同社のポッドキャストの一部は、静止画像やオーディオスペクトラムが加えられて、YouTubeに投稿されている。また、同社は現在、一部のZoomチャット番組を高画質のウェブカメラで撮影するテストも行っている。

「どんな結果になるのか楽しみだ(中略)しかしその一方で、このようにテストするのはよいことだが果たして徹底してやれているのだろうか、カメラや照明はこれでいいのだろうかという疑問もある」と同氏は語る。「本物のテストとはどのようなものなのか、YouTubeの数字に大きな違いが出るかを確認するために、投入する資金を少し増やす必要があるかどうかなどについて、いま社内で議論しているところだ」。

オーディエンスの心を掴むのは「リラックスしながら聴けるもの」

プッシュキン・インダストリーズ(Pushkin Industries)のマーケティング担当バイスプレジデントであるエリック・サンドラー氏によれば、同社は先日、YouTubeの動画ポッドキャストをオーディオスペクトラムからカスタムアニメーションへアップグレードしたという。同社はオーディオブックとポッドキャストのほかに、トランスクリプション付きのポッドキャスト動画も制作している。

「さまざまな見せ方を試して、何がオーディエンスの心をつかむのかを確かめているところだ」と、同氏は語り、「だが、オーディエンスの心をつかむのは、カスタム動画などではない(中略)それは間違いなく、画面を見つめるリスナーに向けてのものではなく、リラックスしながら番組を聴くリスナーに向けてのものだ」という。プッシュキンが制作するポッドキャスト「ブロークン・レコード(Broken Record)」のYouTubeチャンネルの登録者数は、10万9000人だ。

Spotifyなどのプラットフォームも動画を積極的に取り入れるようになっているいま、そこには「フル動画のエピソードを試せるチャンスがある。実験の場として期待している」と同氏は語る。

ポッドキャストのよさが失われる可能性

今後いっそう、動画ポッドキャストのテストに拍車をかけていくつもりのポッドキャスト担当幹部たちだが、なかには動画へのシフトがポッドキャストというメディアそのものにもたらすかもしれない影響を心配する人物もいる。

ポッドキャストが「くつろげる、気取る必要がないメディアなのは、目の前にカメラがないのが普通だからだ(中略)それが突然、カメラや照明に囲まれて、ヘアスタイルやメーキャップを意識しなければならなくなったら、ポッドキャストのよさがいくらか失われることになるかもしれない」と、ある幹部は語る。

また、「ほかのプラットフォームでの活用法を試しているからといって、そのクリエイティブの根本が損なわれてはならない」と話し、「とはいえ、そのおかげでリスナーが大幅に増えるのであれば、それはその価値があるトレードオフといえるかもしれない。今後の展開に合わせて、両方を天秤にかけることになっていくと思う」と続けた。

[原文:Podcasters weigh the cost-benefit of producing video podcasts

Sara Guaglione(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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