TikTok禁止令 はどうなる? 美容インフルエンサーが議論に参加

DIGIDAY

スキンフルエンサーのクーシャ・ヌーリ氏にとって、キャリアのゲームチェンジャーとなったのがTikTokだ。彼はインスタグラムに1万1000人近いフォロワーがいるが、TikTokでは2年間で15万1000人以上のフォロワーを獲得している。

「TikTokが従来とはまったく違うオーガニックに感じられる参入方法を提供するまで、美容ではソーシャルを横断して(フォロワーを)構築するのが非常に難しかった」と、ヌーリ氏(@kooshaaa)は言う。彼は現在の収入の7割がTikTokのコンテンツによるものだと推測している。フォロワー数を増やしたあと、ヌーリ氏は2022年のセフォラスクワッド(Sephora Squad)のメンバーに任命された。また彼は、TikTokと直接連携して新機能のベータテストを行うインフルエンサーグループの一員でもある。

ヌーリ氏のようなTikTok中心の美容インフルエンサーにとって、TikTok禁止令の可能性の話が再燃したことが、フォロワー数と収益に大きな打撃を与えるのではないかという恐怖をかき立てている。バイデン政権は中国の親会社バイトダンス(ByteDance)に対し、このアプリを米国企業に売却しなければ米国で禁止される恐れがあると警告しており、3月23日には、TikTokのCEOである周受資(ショウ・ジ・チュウ)氏が議会で証言する予定である。

TikTokの使い方すらわかってない人々に禁止されるのは失望だ

2018年にバイトダンスがMusical.ly(ミュージカリー)を買収してTikTokが米国に上陸して以来、このアプリでのスターダムが多くの美容インフルエンサーの人生の軌跡を変えてきた。インフルエンサーたちは、飽和状態のインスタグラムで何年もかけて築き上げてきた数をはるかに上回るフォロワー数を数カ月で獲得し、ときには本業を辞めたり、あるいはフルタイムでコンテンツ制作を行うためにロサンゼルスに移住したりすることさえあった。フォロワー数をほかのプラットフォームに変換していない人々にとって、こうしたすべてが崩壊する可能性がある。

「ほとんどの人は一夜にして成功したわけではなく、オーディエンスやフォロワーを構築するために多くの時間と労力を費やさなければならなかった。TikTokをどうやって使うのかすらもわかってない人たちがTikTokを禁止しようと決めて、それがなくなってしまうのはかなりガッカリする」と述べたのは、メイクアップインフルエンサーのマリアン・タビブザダ氏(@youngcouture)だ。同氏にはTikTokに360万人、インスタグラムに120万人のフォロワーがいる。

「クリエイターとして、私たちはオーディエンスとの関係を築こうと、多大なエネルギーと労力を費やしている。それを一瞬で奪われるのは非常に不公平だと思う」と、スキン&ヘアインフルエンサーのエイミー・チャン氏(@bondenavant)は話す。TikTokに160万人、インスタグラムに40万8000人のフォロワーを抱える彼女は、収入の50%をTikTokから得ていると推定している。だが彼女は「とは言え、なぜこのような議論が行われているのかは理解している」と付け加えた。

ひとつのプラットフォームに依存せず多様化する重要性

2020年にトランプ政権がオラクル(Oracle)とウォルマート(Walmart)がそれぞれこのアプリに出資する契約を受け入れてから、TikTokは数々の論争に直面してきた。TikTokは現在、ジャーナリストをスパイしていたとして米司法省とFBIの調査を受けている。TikTok側はその事実を認め、責任者である従業員を解雇したと述べている。また、ユーザーがサードパーティのウェブサイトを閲覧する際のキー入力を監視しているとの調査結果に基づいて今月提訴された件を含め、米国でデータプライバシーに関する訴訟にも直面している。

「データプライバシーやそれをどう扱うべきかについては、非常に正当な議論になる可能性があるため、所有権の継承という点で何らかの解決策が見つかるよう本当に願っている」とヌーリ氏は述べた。

米国企業に売却されなければ、TikTokを禁止するという2020年のトランプ大統領令では、ほかのソーシャルプラットフォームへとフォロワーを誘導するインフルエンサーの投稿があふれた。しかし、今回の反応はそれよりも穏やかで、ソーシャルメディアを使ってこの状況に関する論争に加わっているインフルエンサーは数人しかいない。

「TikTokが禁止されるのは、私個人のSVB破綻だ」と、TikTokの美容ビジネスインフルエンサー、ダルマ・アルタン氏は3月16日にそうツイートしている。

ただほとんどのインフルエンサーは、TikTokのバイオを使ってインスタグラム、YouTube、Snapchat(スナップチャット)などほかのプラットフォームでもフォローするようフォロワーに促している。

LTK(旧リワードスタイル(Rewardstyle)およびライクトゥノウ.イット(Liketoknow.it)の共同創業者兼社長のアンバー・ヴェンズ・ボックス氏は「クリエイターにとって重要な学びは、成功したクリエイタービジネスを手にするには、ひとつのソーシャルプラットフォームだけに依存してはダメということ」と語る。「2年おきに新たなソーシャルプラットフォームが登場しているのを目にしている。私はこれらのソーシャルプラットフォームを海だと考えている。クリエイターは自分のビジネスに持ち帰るためにフォロワーや顧客を釣り上げているのだ」。同氏は、インフルエンサーがプラットフォームを超えて収益化できるひとつの方法として、LTKによるプラットフォームに依存しないアフィリエイトリンクモデルを強調した。

「多くのクリエイターの友人と、自分の存在をあらゆる場所に多様化することの重要性について話してきた。このコミュニティでクリエイターとして引き続き生計を立てていくには、自分の基盤をカバーすることが重要だ」とヌーリ氏は言う。

リールやYouTubeショートで同レベルの成功は可能か

TikTokが禁止された場合、クリエイターやブランドがインスタグラムのリールやYouTubeショートのような競合プラットフォームで、同じレベルの成功を収めることができるかどうかが問題となるだろう。多くのインフルエンサーが、将来どうなるのかわからないと語っている。

「リールとショートはともに人々の時間を奪う強力なライバルとなっている。現在はまだどちらもほとんどのマーケターが十分に活用していない機会だ。TikTokが利用できなかったら、両チャネルは間違いなくさらに急速に成熟すると予想している」と、クリエイティブエージェンシーのムーバーズ+シェイカーズ(Movers + Shakers)のCEO、エヴァン・ホロウィッツ氏は言う。同エージェンシーは2019年にTikTokで初めてE.l.f.ビューティ(E.l.f. Beauty)のキャンペーンを大成功させた後、TikTok関連のビジネスの流入を目にしている。

「TikTokのコンテンツだけを収入源としているコンテンツクリエイターはたくさんいる。ひとつの投稿につき10万ドル(約約1307万円)以上を稼ぎ、セレブリティの地位を獲得している人もいる。だが、ブランドもTikTokのインフルエンサーマーケティングに非常に依存するようになっている」。そう語ったのは、スリンゴ(Slingo)のブランドマーケティング責任者ドム・オルドワース氏だ。このオンラインゲーミングサイトは、TikTokのインフルエンサーの収益に関するレポートを発表したばかりだ。ひとつの投稿あたりの収益トップは、14万9000ドル(約1948万円)を稼いでいると推定されるチャーリー・ダミリオ氏である。

ヌーリ氏いわく、もっとも成長の可能性を感じているのはYouTubeショートで、そこでの彼の動画は1本あたり平均5000ビューとなっている。TikTokがなくなれば、彼はリールとショートに焦点を移すという。しかし彼は、クリエイターファンドを通じてクリエイターに提供される資金について言及し、「TikTokはブランドレートがもっとも高いので、TikTokで達成した数字を達成できるとは思えない」と語る。「間違いなく引き続き稼ぐことはできるだろう。ただもっと仕事が必要になる」。

今後については静観する姿勢

いまのところ、インフルエンサーとブランドの双方にとって平常通りの業務が行われている。

「ブランドパートナーに関しては、TikTokに対する投資からすぐにシフトしていく傾向は見られない。ブランドはクリエイターを通じてターゲットオーディエンスにリーチする費用対効果の高い手段として、いまもTikTokを活用している」とヴェンズ・ボックス氏は述べた。

米国企業へのTikTok売却には中国政府の承認が必要となるだろうが、専門家はその可能性は低いと述べている。しかし、クリエイターは2020年のように解決に達することを望んでいる。

「TikTok米国には、完全な禁止に頼る前に政府からの懸念を改善するための十分な時間が与えられることを期待したい」とチャン氏は言う。「禁止によって生活に影響が出るクリエイターやTikTok米国の社員が何万人もいる。(そうした人々は)税金を払っている米国市民であり、これを引き起こしている根本的な国家安全保障や政治的な動機とは何の関係もないのだ」。

[原文:TikTok ban redux: Beauty influencers weigh in on the potential impact]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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