景気回復で エージェンシー の2023年は業績改善か:KPIの見直しとブランドビルディングの再開

DIGIDAY

不況からの業績回復の道のりは各社さまざまで、エージェンシーのタイプ、広告主の業種によって状況は大きく異なる。とはいえエージェンシーもそのクライアントも、過去数年間の経験で得た重要な学びを業務に活かしているようだ。

エージェンシー各社は、新型コロナウイルスの世界的流行と広告・メディア業界の不況で業務効率化を迫られた。その改善活動を通じて、クライアントのパートナーとしての地位向上を狙っている。

不況が与えた影響は?

オーシャン・メディア(Ocean Media)のジェイ・ランガンCEOは、不況が自社に及ぼした影響について「業界各社と同程度だ」と述べている。コロナ禍によりデジタル広告と小売分野における変化が加速し、同時に市場が調整局面に入ったことが主な要因だ。

同氏によるとこの時期、クライアントが業績低下を受けてメディア予算を縮小する事態が日常的に起こったという。オーシャン・メディアでは、複数の料金プランを設定したシナリオプランニング・サービスに注力し、業績のモニタリングを徹底した。

「広告主には、景気回復の兆しが見えてきたときに短期間でキャンペーンを拡大できるよう準備しておきたいというニーズがある」と同氏はいう。「業界によって状況は異なるが、実力があり、自己主張がはっきりしたブランドの場合、ただ漫然と事態が好転するのを待ったりはしない。そういった企業は、各チャネルのパフォーマンスに応じてメディアミックスを最適化したり、マーケティングメッセージを調整したり、施策の方向転換を可能にするデータ活用を試みたりする」。

オーシャン・メディアのクライアントの例をあげると、オンライン旅行会社のプライスライン(Priceline)はコロナ禍で大打撃を受け、メディア予算を削減した。一方、eコマースのエッツィ(Etsy)や楽天市場は、広告単価の低下を利用して低コストで施策を打ち、業績を伸ばした。

エージェンシー各社は2023年、企業の広告費増の恩恵を受けて業績改善がみられそうだ。米DIGIDAYの調査によると、「クライアントから預かる広告費の増減」について、エージェンシー幹部の12%が2023年は前年に比べ大幅に増えるとし、47%が若干の増加を見込んでいると答えた。また、「2023年の業績見通しは明るいと思うか」という質問に対し、エージェンシーの32%が「非常にそう思う」と回答した。

AI活用による業務効率化も

テクノロジーを使った社内外の業務効率化に注力するエージェンシーもある。ボートハウス・パロアルト(Boathouse Palo Alto)のプレジデントであるピーター・プロドロモウ氏によると、同社はここ数年「パフォーマンスAI」に投資を続けており、2023年1月には、クライアントのキャンペーン戦略およびチャネルエンゲージメントを支援するAIナラティブツールをリリースした。ツールのダッシュボードには、センチメント、ハッシュタグ、テーマ、情熱といったカテゴリーの情報源から抽出したデータを、自然言語と機械学習AIを用いて分析した結果が表示される。

同氏は米DIGIDAYの取材に応えてこう語っている。「パフォーマンスAIの機能については今後、利用者の変わりゆく期待に応えられるだけの強化が必要だ。機能向上のためには、マーケティングなど業務へのツール導入を増やし、実践活用しなければならない」。

また、「コロナ禍ではクライアント側の期待値も変わった」と同氏は指摘する。企業ではオンラインを取り入れた新たな働き方の普及により労働者の地理的要件が緩和され、海外など遠隔地在住の人材を確保しやすくなった。

加えて、「採用の地理的な制約から解放されて、我々の人材配置モデルも変わった」といい、「当社では従業員のうち25%から30%程度が中核オフィスとは別の都市を拠点として活動しているが、これは成長の大きなチャンスだと思う。クライアントもコロナ禍の影響で、以前ほど直接訪問営業を期待しなくなったからだ」と話す。

企業はいまでもコロナ禍前と同様、RFP(提案依頼書)を取引先候補に送付しているが、企画案のプレゼンや契約締結時の対面の必要性にはもう、さほどこだわっていない。こうした柔軟な対応を同氏は歓迎している。

KPIの見直し

エージェンシーとブランド各社はここ1年、コロナ禍の影響で後回しにされていた業績評価指標の優先順位見直しの必要性を感じているようだ。ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)の最高執行責任者であるエイミー・ランツェ氏が以前述べたところによると、同社は最近、パフォーマンス評価にあたり従来のROAS(広告費用対効果)とは異なる指標に軸足を移そうとしているという。

新たなKPIとしては、新規顧客からの広告経由売上を確認できるニュー・トゥ・ブランド(new-to-brand)指標や、顧客生涯価値(customer lifetime value)が挙げられる。ピュブリシスはコマース事業の拡大に伴い、引き続き複数の顧客接点からデータを収集し新たな広告商品の可能性を探るべく、Amazonのアドテクチームと協業して「マルチタッチアトリビューション」のテストを実施している。

重要なのは、単なるROIを超えて「広告経由の総売上の把握と、クライアントが求める切り口での効果測定」ができる指標を見い出すことだ」と、同氏はいう。「当社の場合、2月あたりからクライアントの活動のスピード感が増してきた。とくにニュー・トゥ・ブランド指標への関心が高まっている」。

ブランドビルディングの再開

独立系エージェンシーであるフィッツコ(Fitzco)のプレジデントであるエヴァン・レヴィ氏も企業活動の回復を認めている。コロナ禍で高パフォーマンスのメディアを追求しがちだったクライアント各社は基本に立ち返り、それまで十分にできなかったブランドビルディングや競合との差別化に向けた施策を再開した。同氏は、「業界の不調によりエージェンシーは、テクノロジーの微調整や延期されたプロジェクトの再評価など、繁忙期に先送りした活動に着手できる」とし、不況がかえってプラスに働く可能性も指摘している。

「エージェンシーにとって、自らの工夫で成功をおさめるチャンスだ」と同氏は米DIGIDAYに語った。「そのためにはクライアントとのパートナー関係強化が欠かせない。エージェンシーの担当者はこんなふうに自問自答すべきだ――クライアントからまだ相談を受けていないものの、自分がすでに気づいている事業上の課題はあるか? クライアントの潜在的なニーズを先読みして施策を提案できるか?」。

同氏は企業経営において柔軟な対応を心がけてきた。フィッツコの場合、顧客基盤の30%がヘルスケアなど景気循環の影響を受けにくい業種であり、その恩恵は大きい。同社が1年前、不況時の広告投資についてアドバイスをしたおかげで、クライアント各社とのパートナー関係もより緊密なものになっている。

「優れたエージェンシーは、業界に吹く向かい風に覚悟を決めて立ち向かう。これまでもそうであり、これからもそうやって難局を乗り切っていくはずだ」という。「クライアントが業績不振と戦っていたら、エージェンシーも一緒に戦う覚悟をしなければならない。大切なのは機動力で、そこにエージェンシーの存在意義がある」と同氏は語る。

[原文:Don’t call it a comeback: How agencies are navigating economic recovery with their clients

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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