先日亡くなった、セブン&アイ(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)名誉会長 伊藤雅俊氏は、著書にて以下のように述べている。
私は、現在の行き過ぎた株主第一主義に対しては、ゆり戻しがあるだろうと、期待を込めて考えています。
(ひらがなで考える商い 伊藤 雅俊/著 日経BP出版センター)
期待通りにはなっていないようだ。セブン&アイは株主に翻弄されている。
「イトーヨーカドーを分割・売却し、セブンイレブンに注力すべき」
「(提案を実施すれば)純利益は中期経営計画の『1.4倍超』、株価は『1.85倍超』になる」
こう訴えるのは、米投資ファンド「バリューアクト(バリューアクト・キャピタル・マネジメント )」だ。
これに対し、セブン&アイ(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)が打ち出したのは「削減案」だ。傘下のスーパー「イトーヨーカドー」の不採算店舗の閉鎖を発表。対象は33店舗。今後3年間で、現在の約7割、ピーク時の「約半分」にまで店舗を減らすという。当然、バリューアクトは納得していない。
論点は、「イトーヨーカドーを持ち続けるメリットがあるか」。具体的には、共同商品開発・共同仕入などの「相乗効果(シナジー効果)」があるかどうかだ。
「セブンプレミアム」の美味しさはシナジー効果
「イトーヨーカドーと離れたら『セブンプレミアム』はどうなるの?」
こう考えた人も多いのではないだろうか。
セブン&アイが強調するのも、セブンイレブンでも販売しているプライベートブランド「セブンプレミアム」におけるシナジー効果だ。
セブンプレミアムの売上額は「1兆4600億円」(2020年度売上)。セブン&アイ国内売上全体(7兆4600億円)の約2割、食品売上の約3割を占める。この強力なプライベートブランドを、イトーヨーカドーなどスーパーストアが持つ、ニーズ収集力や商品開発力、調達力が支える。これが、セブン&アイの主張する「シナジー効果」だ。
一方、バリューアクトは
「小規模で独立した競合他社が強力な競争力を有していることから、(セブンイレブン)単独でもプライベートブランドの開発調達は可能(要約)」
と主張する。だが、「競争力があること」と「勝てること」は大きく異なる。
実際に食べてみるとわかる。あくまで主観だが、競合のローソンやファミリーマートの「ハンバーグ」と食べ比べると、セブンプレミアムが一番美味しく感じる(違いはソースの味と量)。微妙な差だ。だが、同価格帯であれば、この微差が選択の決め手となる。
セブン&アイによると、(立地要因を除き)消費者の約半数(46%)がセブンイレブンを選択し、その理由の3分の2が「食品の美味しさと品揃え」だという。セブンイレブンの優位性は、セブンプレミアムの品質、つまりイトーヨーカドーが源泉、ということになる。
セブン&アイが訴えるシナジー効果は、こういった微差の積み重ねだ。3月9日の「中期経営計画(※)」発表後、株価は4.1%上昇。上場来高値を更新した。市場から一定の評価を得たようだ。
※3月9日発表「中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価の結果について」
アクティビストとは
バリューアクトが保有するセブン&アイの株式は4.4%。大株主とはいえない比率にもかかわらず、圧力をかけることができるのはなぜか。それは、バリューアクトが、他の株主と共同戦線を張る「アクティビスト」だからだ。
アクティビストは、企業価値(彼らにとっては株価)向上策を「提案」し、株価を上げ、売却して利益を得る。
2000年代以前に多かった「企業乗っ取り屋」に比べ、保有する株式は極めて少ない。経営権の獲得を目的としないからだ。多くは、株主提案可能な株数を取得し、他の株主と共同戦線を張り、企業側に自分たちの「改善案」をのませる手法を取る。
共同戦線を張るには、改善案が「私益」ではなく「全株主の利益のため」であることを、他の投資家に納得してもらわなければならない。そのため、ターゲット企業を長期間調査し、分析結果を分厚い提案書にまとめる。今回、バリューアクトが公開した「提案書」(Seven-i-Holdings-Public-Presentation)は75ページ。上述したイトーヨーカドー売却及びセブンイレブンへの注力をはじめ、そごう及び西武の売却完了、そして、国外セブンイレブン運営の見直しなどで構成されている。
株主はどう受け取るか
バリューアクトの提案について、セブン&アイ社長の井阪隆一氏は以下のように述べる。
ファクトに基づかない、ある種、想像に基づいた形で作られたもの。
(セブン、米ファンドとまったく噛み合わない応酬 | 東洋経済オンライン )
一方、バリューアクトは、5月に予定される株主総会において、「井阪社長含む取締役4人の再任」に反対する意向を示している。
株主たちは、どのように受け止めるだろうか。
企業はだれの(ための)ものか
「ユアカンパニー(あなたの会社)」。米国では、株主に対して自社をこう表現するという。
「アワカンパニー(わたしたちの会社)」。お客様や社員、お取引先からそう言ってもらえるのが小売業の理想、と伊藤氏は言う。
スーパーストア事業の利益率を年々悪化させ、アクティビストたちに隙を与えてしまった現経営陣。セブン&アイを「マイカンパニー(わが社)」と考えてはいなかったか。伊藤氏のDNAが、今試されている。
【参考】
ひらがなで考える商い」伊藤 雅俊/著 日経BP出版センター
「アクティビスト-取締役会の野蛮な侵入者」オーウェン・ウォーカー/著 染田屋 茂/訳 日経BP日本経済新聞出版本部
セブン&アイ・ホールディングス グローバルチャンピオンとしての7-Elevenへの変革|ValueAct Capital Management, L.P.
中期経営計画のアップデートならびに グループ戦略再評価の結果について|株式会社セブン&アイ・ホールディングス