こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
中国系eコマース大手のシーイン(Shein)とテム(Temu)は、オーストラリア、ニュージーランド、ラテンアメリカなどの市場でグローバル事業を急速に拡大している。
プロフェショナル向けネットワーキングサイトであるLinkedInの人材募集によれば、シーインはメキシコ、ブラジル、ベルギー、アイルランド、トルコでいくつもの役職を積極的に雇用している。たとえば低コストのファストファッション小売業者である同社は、ブラジルでマーケティング責任者、メキシコでビジネスハンター、アイルランドでマーケティングコーディネーターを求めている。一方、ボストンに本社を置き、ピンドゥオドゥオ(拼多多、Pinduoduo)の親会社であるPDDホールディングスが保有しているテムは、オーストラリアとニュージーランドで3月13日に事業を開始すると報じられた。サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)は、テムがこの立ち上げに伴い、販売者の手数料と保証費用を免除すると報じた。この報道では、オーストラリアとニュージーランドの買い物客は、テムの米国サイトで掲載されている商品も購入できるようになると付け加えている。
Advertisement
シーインとテムではビジネスモデルや歴史が多少異なるが、どちらも同じような経緯をたどってきた。すなわち、両社ともアプリによって買い物客が多くの低価格商品を入手できるようにすることを中心に、事業を構築してきた。また、可能な限り多くの市場において自社ブランドへの認知を作り上げるため、マーケティングに多額の資金を費やしてきた。
中国ビジネスの影響力を拡大する試み
2012年に中国・江蘇省の南京市で創設されたシーインは、2014年にはじめてAppleストアにショッピングアプリを登録し、2015年には社名をシーインサイド(SheInside)から、より短いシーインに改称した。同社のショッピングサイトは、安価な仕入れによる極めて低価格なファストファッションとほぼ同義だ。昨年、同社の評価額は1000億ドル(約13兆3000億円)に達し、従業員数は約100人だった。2021年には、米国のアプリストアからのショッピングアプリのダウンロード数でAmazonを超えた。
一方、昨年9月に米国でサービスを開始したテムも、シーインと同様、現地のインフラを必要としない。同社は中国のベンダーが買い物客に商品を販売し、米国の倉庫に商品を格納することなく、直接買い物客に発送できるサービスだ。米国で創設され、ボストンに本社を構える。
テムとシーインがより多くの国に展開する動きは、中国での成長が鈍化してきたのと時を同じくしている。先月公開されたデータによれば2022年における中国の経済成長は3%で、40年以上のあいだで2番目に低い成長率だ。中国のeコマースを追跡しているアナリストは、テムとシーインは、Amazonのグローバル展開の地理的な流れを追いかけている部分があると語る。ある専門家は、テムのビジネスモデルは、ソーシャルコマースに特化したコミュニティでの共同購入に焦点を当てることで、中国での成功を再現することに重点を移していく可能性があると語る。一方で、シーインがより多くの国々に展開しようとする試みは、米国におけるサステナビリティ実践が、より厳しく問われるようになってきた時期に行われたものだ。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の小売およびeコマースのシニアアナリストを務めるスカイ・キャナバス氏は次のように述べている。「両社とも、より多くの中国製品を海外に輸出することで中国の経済と製造業を支え、低コストの品物を消費者に販売することで中国ビジネスの影響力を国際的に拡大しようと試みている。そのため両社は、世界各地でインフレが消費者の関心を集めている今、低コスト商品への需要を開拓しているのだ。そして、両社の消費者は予算を十分に検討して、可能な限り資金の節約を求めている」。
全世界の消費者とのダイレクトな関係
米国で行われたスーパーボウル(Super Bowl)で高価な広告を出したテムは、新しい市場への参入に伴い、マーケティングに多額の投資を続けるだろうと、同氏は述べている。
ピュブリシス(Publicis)で最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、シーインやテムなどの企業が、歴史的に成功しなかったビジネスモデルで成功しつつあると語る。「20年前、欧米のコマースにおける中国の役割は、無名の工場で商品を作り、米国の小売業者が再販することだった。この5年間で多くの工場が、Amazonのようなマーケットプレイスを通して米国の消費者に直接販売できるようになった」。
「そしてこの数年間で、シーインがブランドを築き上げ、欧米の消費者に直接販売できるようになった。さらにこの3カ月で、テムが初期段階の成功を収めた。このような初期の成功は、両ブランドが採用している方式によって、直販ブランドを築き上げ、ほかの市場において全世界の消費者と直接の関係を持てるようになるということを示していると、私は考えている」と、同氏は付け加えている。
世界各地でのローカライゼーションも
シーインの進化における次の段階は、よりマーケットプレイスに適した形式に事業を拡大していくことだ。同社は昨年11月、アリババ(Alibaba)で長年の経験を持つジェシカ・リュー氏を採用した。「同氏は、世界のeコマースマーケットプレイスに造詣が深い」と、キャナバス氏は述べている。
シーインはいくつかの国で、ローカライズされた取り組みを管理するチームを作り上げてきたと、マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)のCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は語る。「アルゼンチンでは、ローカルブランドのオンボーディングを行っている。米国では、米国の倉庫の管理や、そのほかの作業だ。トルコでは、現地での製造の管理だ」と、同氏はメールの応答に記している。
ゴールドバーグ氏は、両社ともデジタルマーケティングとソーシャルコマースへの急進的な投資によって急速に成長したと述べる。「そして、両社ともインフルエンサーマーケティングやソーシャルコマースについて多くの人員を雇用している」と、同氏は付け加えている。
シーインは、欧州で協業するブランドパートナーも探しており、「おそらくは、欧州でマーケットプレイスをソフトローンチを行う可能性がある」と、キャナバス氏は語る。
これらの企業が中国とつながりを持っている事実は、TikTokに関して提起されたものと同様に、セキュリティ、データプライバシー、国家安全保障の問題を引き起こすだろうと、キャナバス氏は指摘する。「両社が成長して人気が広まるにつれ、この点について監視の目が厳しくなる可能性があると考えている」と、同氏は付け加えている。
[原文: How Shein and Temu are approaching expansion beyond the U.S.]
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via SHEIN,Temu/Youtube