創業40年チコズが デジタルファースト に転換し好調な理由【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

創業40周年となるチコズ(Chico’s)は調子を取り戻しつつある。

3月頭、キャンペーンを派手にローンチして創業40周年を祝う年のスタートを切ったチコズは、今後1年間に向けて予定している4つのテーマのカプセルコレクションの第一弾を発表した。7年間売上が低迷していた同社の過去4年間の軌跡を考えるなら、これはまさしく祝うべき時だ。

チコズ、ホワイトハウス・ブラックマーケット(White House Black Market)、ソーマ(Soma)といったブランドを所有するチコズFAS(Chico’s FAS, Inc.)のCEO、モリー・ランゲンスタイン氏は、「組織のあらゆる部分を再編成した」と語る。ランゲンスタイン氏は、メイシーズ(Macy’s)での11年間の勤務を経て、2019年にチコズFASに入社した。

自己改革に挑戦し続けることが成長へのアプローチ

こうしたアップデートには、チコズの数々の店舗規模の適正化、商品の改善、「ハイタッチ」マーケティングに対する顧客の要望への傾倒、ロイヤルティプログラムの刷新、高度なオムニチャネル接続の確保、新規雇用などが含まれている。

2021年3月からチコズFASのチーフデジタルオフィサーを務めるジェイ・トッパー氏によれば、こうしたことが可能になったのは、同社の軽快なオペレーションと「フラットな」構造のおかげだ。「当社はあまり官僚主義ではない」と同氏は言う。「意思決定が早く、全員が積極的に仕事に携わっている」。

さらに、8月にマーケティング責任者として入社したリアナ・レス氏は、古いものと新しいものが交差する同社のやり方を高く評価している。独自の忠実な顧客層をつねに大切に考えて行動しつつ、チコズは進化しているのだ。

また、最近採用された重要な人材に、かつてカルバン・クライン(Calvin Klein)に6年間在籍していたデザイン担当バイスプレジデントのメロニー・バーケット氏がいる。

「つねに自己改革に挑戦し続けることが成長へのアプローチ」とランゲンスタイン氏は述べた。「昨年成功したことが今年はうまくいかないかもしれないということを、私たちはいつも自らに言い聞かせている」。

他のブランドにはない1対1の密接なコミュニケーション

2月28日、フォートマイヤーズに拠点を置くチコズFASは、2022年の純売上高を18%増の21億4000万ドル(約2926億円)と発表した。1月28日締めの第4四半期の売上高は前年同期比6%増で、小売業全体と同様に成長の鈍化を指摘している。同社が昨年11月に発表した決算報告では、7四半期連続で2桁の売上成長率(14%)を記録していた。チコズはポートフォリオの中で最大のブランドで、グループの2022年の純売上高の49%を牽引している。昨年9月下旬にはハリケーン「イアン」がフロリダ州を襲い、チコズFASの本社は軽度の被害を受けた。同社の声明によると、4店舗が破壊され、109店舗が「影響を受けている」。

同社の決算では、若い顧客層の台頭も指摘されている。ランゲンスタイン氏はGlossyに対し、新規顧客の平均年齢は3年前より10歳若い45歳であると語った。初めて来店した顧客は平均して12年間、チコズで買い物を続けている。ホワイトハウス・ブラックマーケットの場合は9年間、ソーマは7年間だ。

このような粘着性が同社の主要な差別化要因であり、社のリーダーたちはそれを維持するために注意を払っている。その中には、リピーターの客が求める高いレベルのコネクティビティを確保することも含まれている。

「私たちのコンテンツの定義は、業界の定義とは大きく異なっている。つまりどの企業も規模を拡大するためのアルゴリズムの構築に注力しているが、私たちは1対1のコミュニケーションを多く行っている」とレス氏は語り、同社の顧客基盤を表す「逆ピラミッド」について指摘した。「私たちの最大のチャネルは、たまに買い物に来る人たちではなく、ロイヤルティチャネルだ。非常に反応的で、毎日私たちからのハイタッチや親密なやりとりを期待している」。

その一例としてランゲンスタイン氏は、パンデミックのまっただ中にいっそう顕著となった、買い物客と店員との親密な関係を挙げた。「顧客が自分たちの『あの人』は元気かと確認するために私たちに連絡してきた」と同氏は言う。「ほかのブランドでは成長していくにつれて失われていった、地域に根ざしたある種のブティック体験を当社は提供し続けてきた」。

一方、レス氏は、ハリケーンの被害者が、数十年にわたる貴重なチコズのジュエリーコレクションを失ってしまったという話をした。同社はそのジュエリーをアーカイブから取り寄せたという。

また、チコズの買い物客は、顧客が立ち上げたFacebookのグループで活発に活動しているとレス氏は指摘している。そこでは、メンバーたちが入手困難なチコズのスタイルを入手するためのメモを交換したり、本日のチコズの服装をお互いに褒め合ったりしているとレス氏は述べた。

統一的な顧客体験を可能にするデジタルツール

レス氏が言うように、チコズの顧客に効果的なマーケティングを行うということに関しては「古いものが新しい」ものとなっている。だが基本的なマーケティングツールや戦術が成功しても、同社の方向性はあくまで技術主導である。たとえば、チコズFASは社内に強力なパフォーマンス・マーケティングチームを擁している。レス氏いわく、このチームは「そっくりなオーディエンスを見つけることに精通しており」、どの買い物客を「狙う」べきかを理解している。さらに、同社の膨大で高品質なデータへのアクセシビリティによって、チコズFAS全体では高度なプロセスを高速で実行することができる。

トッパー氏によると、現在すべての顧客の「タッチ」の99%がデジタルで、その大部分はソーシャルメディアや各ブランドのeコマースサイトを通じている。ソーシャルメディアでは、最近Z世代がチコズを発見しており、同社はユーザー生成コンテンツを定期的に取り上げている。同社のデジタルチャネルは、顧客の間で43%の普及率を誇る。

デジタルツールは、人と人とのつながりを育むだけでなく、販売チャネル全体での統一的な顧客体験を可能にするために導入されている。チコズFASは、パンデミック時にデジタルプラットフォームのスタイルコネクト(Style Connect)をローンチし、たとえば店舗管理チームがeメールやバーチャルアポイントメントを通じて顧客とつながりを保つことができるようにした。それが顧客データのハブと表現するにふさわしいマイクローゼット(My Closet)と呼ばれるプラットフォームのアイデアにつながった。チャネルをまたいで営業担当者が部分的にデータを追加するマイクローゼットには、その人が何を購入したか、どんなイベントのために買い物をしたか、いつ誕生日を迎えたか、といった情報が蓄積されている。

「これは当社にとって第3の販売チャネルになっている」とトッパー氏。「(店員が)デジタルで、目的の瞬間に顧客のクローゼットに何かを追加することで、顧客にぴったりのレコメンデーションができる」。

またパンデミック時には、チコズFASは「ソーシャルスタイリスト」と呼ばれる、自宅やソーシャルイベントで同社の3ブランドを販売するパートタイムの従業員を導入した。「店舗を持たない場所でもマイクロコミュニティを形成できるという点で強力だ」とランゲンスタイン氏は述べている。

レス氏は、こうしたセラーのイベントのマーケティングをサポートするほか、顧客とのタッチポイントとなるチコズ独自のイベントも主宰している。同氏はブランドのアニバーサリーキャンペーンの顔でモデル兼作家のポーリーナ・ポリスコワ氏と共同で、3月2日の夜にチコズのボカ・ラトン店にて書籍のサイン会を主催した。チコズにはブッククラブがあるため、このイベントはとても適しているのだとレス氏は語った。

ロイヤルティプログラムや商品の刷新

チコズのブランドは、もともと旅行からインスピレーションを受けており、手入れが簡単でシワのできない素材を優先していた。40周年記念にあたり、同社はそのルーツに敬意を表して旅をテーマにした新たな商品コレクションを発表した。それらのリミテッドエディションのスタイルは、フリーダ・カーロ氏の作品とウズベキスタンの民族衣装に見られる模様にインスピレーションを受けている。このシリーズでは、スーツケースを含むトラベルアクセサリーも導入している。「私たちは芯から商売人なので、顧客が気に入ってくれたら、さらに多くのものを目にすることになるだろう」とランゲンスタイン氏は述べた。

チコズは今年、さらに独自のテーマのある3つのカプセルコレクションを発表する予定だ。ロイヤルティプログラムの刷新により、ロイヤルティメンバーはこれらのスタイルをいち早く入手できるようになった。顧客の需要に基づいて、昨年6月の時点でロイヤルティの特典ではプロモーションの代わりに独占性とアクセスに重点を置いている。

ランゲンスタイン氏によると、チコズFASはパンデミック時のダウンタイムを利用して商品の見直しを行っている。それには、より高品質な生地への移行、寸法のアップデート、インスピレーションの再定義、汎用性の優先などが含まれている。

チコズに関しては、あらゆるスタイルの女性に対応することを目指し、ワンピースからデニムやアクティブウェアまで幅広い商品を提供している。一方、ホワイトハウス・ブラックマーケットは汎用性の高いワードローブの定番を専門に扱い、ソーマはランジェリーを販売している。すべてのブランドが創業当初から0~22のサイズを提供している。マーチャンダイジングとデザインチーム以外のチコズFASの社員は、ブランドを超えて仕事をしている。

出店や既存店舗の閉鎖や刷新計画

チコズFASには現在、米国で760万人のアクティブな顧客がいて、もっとも集中しているのは南カリフォルニア、アリゾナ、テキサス、フロリダである。また、メキシコでもライセンスビジネスを展開しているが、カナダでは破産申請ののちパンデミック時に閉鎖した。チコズのロイヤルティメンバーのトップ層は、年間2万5000ドル(約342万円)以上を同社で消費しており、ホワイトハウス・ブラックマーケットには1万9000ドル(約260万円)を使う顧客がいる。45歳以上の年収10万ドル(約1366万円)以上の女性において、両アパレルブランドは2022年に市場平均の4倍の売上成長を遂げたと、ランゲンスタイン氏は述べている。

チコズFASは、2019年に230店舗を閉鎖した後、現在は約600店舗のチコズを含む1300店舗を運営している。ランゲンスタイン氏によれば、閉店の原因は高すぎる賃料と変化するモールにある。現在、店舗は従来のモールやライフスタイルセンター、ストリップモール(小規模ショッピングモール)に均等に分散している。モールは全店舗の25%に抑えるという目標のもと、従来のモールからライフスタイルセンターへの移行を意図的に行っている。

今後は出店とほぼ同数の店舗を閉鎖する計画だ。今年はブランド全体で約20店舗が閉鎖され、新たに15店舗のソーマがオープンする予定である。2022年には、チコズとホワイトハウス・ブラックマーケットの40店舗をリフレッシュするための投資を行った。今後数年間で、すべての老舗店舗をアップデートする計画で、什器からフィッティングルームにいたるまで、すべてを近代化する。

また、ブランドは顧客のセグメンテーションを極めており、デジタルチャネルからダイレクトメールまで顧客に合わせたコミュニケーションが可能ではあるが、さらなるパーソナライゼーションが必要だとレス氏は述べた。トッパー氏は、同社のeコマースサイトでそれを実現するためにチームと一緒に取り組んでいると話す。また、同社が収集した「何十億、何百億」ものファーストパーティやサードパーティの顧客データをさらに活用することにも、引き続き注力していく。

40年経った今、「私たちはまだ始まったばかりだ」とランゲンスタイン氏は述べている。

[原文:Fashion Briefing: Inside the digital-first brand refresh of 40-year-old Chico’s]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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