バス&ボディワークス VS アクティビストの 委任状争奪戦 。注目すべき理由とは?【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

資本市場の分野における委任状争奪戦(プロキシーファイト)の季節になった。つまり、アクティビスト投資家が業績不振の企業を狙って、株価パフォーマンスを活性化させようとしているということだ。

あなたが仮に私と同じようなタイプの人であれば、委任状争奪戦とアクティビスト投資家(かつては「コーポレート・レーダー、いわゆる乗っ取り屋」と呼ばれていた)についての知識は、HBOのドラマ『メディア王 〜華麗なる一族〜(原題:Succession)』のセカンドシーズンと映画『プリティ・ウーマン』のリチャード・ギアくらいなものだろう。だが、それは物語をドラマチックな展開にするだけでなく、現実世界にも、特に小売業のように現在苦境にある分野に影響を及ぼしている。そのよい例が、バス&ボディワークス(Bath & Body Works)だ。同社は最近、ヘッジファンドのサードポイント(Third Point)との委任状争奪戦が差し迫っていると大きく報道された。

サードポイントとバス&ボディワークスが委任状争奪戦の構え

サードポイントは、昨年12月にバス&ボディワークスの株式を6%以上保有していることを初めて明らかにした。その際、バス&ボディワークスが抱える問題として、幹部に支払われる報酬額などを強調している。アクティビストであるサードポイントは、バス&ボディワークスが暫定CEOのサラ・ナッシュ氏に対し1年未満の職務に約1800万ドル(約24.5億円)を支払っていたと指摘した。約1年にわたる人材探索の結果、ジーナ・ボスウェル氏が昨年12月にCEOに就任している。また、昨年のタイミングを逸した自社株買い入れや、美容やパーソナルケア分野での経験不足を理由にナッシュ氏を暫定CEOに決定したことなど、バス&ボディワークスのお粗末な資本配分についてもサードポイントは批判している。

「今年はアクティビスト投資にとって最悪の状況だ。前年比でリターンが悪いと投資家は不満に思うが、特に小売に関してはそうなっている」と述べたのは、サウスカロライナ大学ダーラ・ムーア・スクール・オブ・ビジネスの財政学教授オースティン・スタークウェザー氏だ。株価が上昇していた2021年11月と比較すると、SPDR小売ETFは約35%下落している。このインデックスファンドに含まれているのは、スティッチフィックス(Stitch Fix)、サリービューティホールディングス(Sally Beauty Holdings)、ノードストローム(Nordstrom)、ディラーズ(Dillard’s)といった企業だ。その一方、S&P500は2021年11月の高値から約15%下落している。

バス&ボディワークスは第4四半期および年末決算説明会の前日である2月22日水曜に、サードポイントの取締役指名の意向への回答を発表しているが、これは委任状争奪戦が行われる初期の兆候である。同社は次のようにコメントした。「当社はバス&ボディワークスの全株主の視点を大切にし、価値創造と強力な業績を推進するというコミットメントを支持する機会を受け入れている。過去数カ月にわたって取締役会が誠実に取り組んできた努力にもかかわらず、サードポイントが費用のかかる公開委任状争奪戦を行う意向を表明したことは遺憾である」。

サードポイントは、今春に予定されている年次総会でどの取締役の交代を意図しているのかについては公にはまだ決定していない。バス&ボディワークスの取締役会に候補者を推薦する期間は2月11日から3月13日までとなっている。サードポイントは、コメントの要請に応じなかった。

2月23日木曜日、バス&ボディワークスの報告書によると、会計年度第4四半期はトップラインとボトムラインでアナリストの予測を上回ったが、1月28日に終了した第4四半期の純売上高は前年比5%減の28億9000万ドル(約3931億円)となった。純利益は、昨年の5億9260万ドル(約806億円)に対して4億2820万ドル(約582.5億円)だった。同社は2021年8月に旧Lブランズ(L Brands)がヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)とバス&ボディワークスというふたつの事業体に分割されて誕生した。

バス&ボディワークスのCEOジーナ・ボスウェル氏は決算説明会で次のように述べた。「厳しいマクロ経済環境にもかかわらず、チームは予想を上回る業績を達成しており、これはこの組織の強みを証明している。当社のカスタマーベースは、現在3300万人を超える会員数を誇るロイヤルティプログラムに支えられていることもあり、ホリデーシーズンによい反応を示した。さらに、当社では経費や在庫の管理も引き続きしっかりと行っている」。

株価が低迷し、アクティビストの数が増えている

バス&ボディワークスのこのような状況は孤立して存在するものではなく、インフレなどのマクロ経済状況において小売業は業績が低迷している分野であるため、特に脆弱なのかもしれない。ノードストロームも2月上旬に、投資家のライアン・コーエン氏が同社の株式を大量に取得し、競合他社にくらべて業績が低迷している同社に対し取締役会の交代を迫る計画があることが明らかとなり、騒動に巻き込まれている。この高級小売業者は、2022年に別のアクティビスト投資家をポイズンピルを使用して撃退したことがある。「ポイズンピル(毒薬条項)」とは、ここ数カ月の間に飛び交った用語で、取締役会の承認なしに大量の株式が購入された際に実施される株主計画を指す。その計画では、既存の株主に対して大幅な割引価格で新株を放出するため、脅威となるのに十分な株式をアクティビストが買いあさることが難しくなり、またその費用も高くつく。2022年には、コールズ(Kohl’s)もアクティビスト投資家と対決しており、ポイズンピルによって委任状争奪戦の回避に成功している。

株価パフォーマンスが低迷しているため、アクティビストの数が増えており、そうした投資家は業績不振の企業に変革を促す機会を伺っている。ウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)が引用したラザード・キャピタル・マーケッツ・アドバイザリー・グループ(Lazard Capital Markets Advisory Group)のデータによると、2022年に米国で行われたアクティビストキャンペーンは135件で、前年比41%増となっている。

だが、インサイティア(Insightia)のデータでは、委任状争奪戦はアクティビストが負けることが多い。2022年に米国を拠点とする企業にて投票が行われた17件の委任状争奪戦のうち、アクティビストが少なくともひとつの取締役会の席を獲得したのは4件だけだった。またそれとは別に、インサイティアの推測によると、コンシューマープロダクツのドライバー(Drybar)を所有する企業で、レブロン(Revlon)のホットツールのライセンサーでもあるヘレンオブトロイ(Helen of Troy)が2023年にアクティビストのターゲットとなる可能性があるという。

最後まで戦わないほうが株主のためになる

しかし委任状争奪戦が投票にいたらないからといって、ターゲットとなった企業がネガティブな結果を緩和するために方針を変えないということではない。バス&ボディワークスはすでにサードポイントが提案したルーシー・ブレイディ氏を含め、取締役会を2席拡大するなどの対策を取っている。さらに同社は決算説明会で、事業における経費削減と作業能率向上のための全社的な取り組みを行っていると述べた。同社は年間2億ドル(約272億円)の経費削減を目標としており、その半分以上は2023年の見通しで期待され、主に下半期に影響を与える。今年、バス&ボディワークスは50店のモール店舗を閉鎖し、モール外の場所、実質的にはストリップモール(小規模のショッピングモール)に90店をオープンする予定だ。2022年にはすでに北米のモール外店舗を新たに95店舗オープンしている。いくつかの研究では、委任状争奪戦は最後まで戦うよりも、それによって脅かされたり中止したりした方が株主のためになるという考えが支持されている。

小売の客足を調査する企業プレイサー・エーアイ(Placer.ai)のマーケティング・シニアバイスプレジデント、イーサン・チェルノフスキー氏は次のように述べた。「顧客が好む製品を店内でのパワフルな体験とともに提供できれば、屋内モール、屋外ライフスタイルセンター、さらには小規模ショッピングセンターなど、場所を問わずさまざまな小売形態でブランドが成功するはずだ。こうした多様性は、新たな地域や郊外での機会に恩恵を与える移動パターンの変化によっても支えられるべきだ」。

それに対しコールズは委任状争奪戦の時点でセフォラ(Sephora)のショップインショップ事業を拡大し、2025年までに20億ドル(約2720億円)に成長させる計画があった。これはその年のコールズの予想収益のおよそ10%に相当する額だ。また2022年から2026年にかけて、より小型の店舗を新たに100店舗オープンする計画も発表している。

バス&ボディワークスからの公開書簡

スタークウェザー氏によると、サードポイントをなだめるため、あるいは委任状争奪戦が成功した結果として、会社はさらなる行動を起こす可能性がある。店舗の追加閉鎖、レイオフ、会社資産の売却、あるいは事業に対するそのほかの長期的な変更などがあるかもしれない。バス&ボディワークスは2月27日、株主に向けて「グローバルなオムニチャネルのリーディングカンパニーに変身する」ための計画に関する別の声明を発表した。この書簡では、同社は2020年5月から2023年2月までの間に416%の株主還元を実現し、小売の同業他社を凌駕したと詳述している。

さらにバス&ボディワークスは、サードポイントの提言やフィードバックは歓迎するが、ムニーブ・イスラム氏を任命するというサードポイントからの「最後通牒」には「応じない」だろう。イスラム氏はサードポイントの元社員であり、またサードポイントの億万長者のオーナーであるダニエル・ローブ氏の弟子でもある。バス&ボディワークスによると、イスラム氏はLTSワンキャピタルマネジメントLP(LTS One Capital Management LP)のマネージングパートナーを務め、その後バス&ボディワークスの株式を蓄積した。同氏は2022年6月の同社経営陣との会合で取締役会への参加に関心を示したが、その立場はオファーされなかった。その代わりイスラム氏はLTSのポジションを裏切り、「かつての上司であるダン・ローブ氏に自分の投資テーゼを売り込み」、その後ローブ氏がバス&ボディワークスの株式を購入した、とその書簡には書かれている。

その書簡によると取締役会は、イスラム氏よりも大手上場企業のCFOの方が適切な資本配分と財務経験を経営陣にもたらすと結論づけている。「簡単に言えば、それは最悪の縁故主義である」と書簡にはある。

今後予想される展開は?

「委任状争奪戦が行われるのには理由がある。争奪戦を行う人々は、そうすることで自分の株式の価値を高めることができると考え、経営陣に特定の行動を取ってもらいたいと思っている」と述べたのは、ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネスの財政学教授ジェイムズ・エンジェル氏だ。「サードポイントが提示した内容はかなり一般的なものに聞こえる。サードポイントは何が業績向上につながると考えているのだろうか。間違いなく具体的なアイデアがあるはずだ」。

めまぐるしい報復的な公開書簡に続いて、委任状争奪戦の最初の大きなステップとしては、どちらかがバンガード(Vanguard)やブラックロック(BlackRock)といった、バス&ボディワークスの大株主に接触し、説得するか支援を確約することになるだろう。アクティビスト投資家は、他の投資家が閲覧できるように、コミュニケーション、計画、プレゼンテーションを掲載するウェブサイトを作成することもよくある。両者とも、コミュニケーションチームやプロキシスペシャリストと連携することになるだろう。全体としては、双方にとって何百万ドルもかかる高価な企てとなる可能性があり、現経営陣の時間や集中力が本業から削がれるのはいうまでもない。ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスの財政学教授ナディア・マレンコ氏は、委任状争奪戦の新たな動きとして、2022年にアクティビスト投資家の障壁を低くするユニバーサルプロキシカードが導入されたことを挙げた。これは株主が全体としてではなく、各取締役に個別に投票できるようにするもので、アクティビスト投資家が選んだ候補者をより簡単に取締役に据えることができるようになると考えらえる。

「(委任状争奪戦は)眺めているぶんにはいつでも楽しい」とエンジェル氏は言う。「ポップコーンを用意して椅子に座ってビールを数本開けて、ショーを楽しもうじゃないか」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Why it’s worth paying attention to the Bath & Body Works proxy]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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