オープンAIがデベロッパー向けに ChatGPT とWhisperのAPIを公開:見覚えのある戦略で活路を開くことはできるか?

DIGIDAY

2007年にFacebookがサードパーティのデベロッパーにAPIを公開したとき、それは当時SNS新時代の幕開けを席巻していたマイスペース(Myspace)の裏をかく秘策と見られていた。それから15年、オープンAI(OpenAI)は今、同じシナリオでGoogleをはじめとする巨大企業と戦っていくことができるだろうか?

2023年3月1日、オープンAIは、ChatGPTをサードパーティ製アプリに統合するためのデベロッパー向けAPIの公開を開始すると発表した。これにより、デベロッパー各社が新たなAIツールを採用する際の方法が、加速的な広がりをみせる可能性がある。また同社は、ChatGPTとともに、まださほど知られていないWhisperの統合も許可する。これはオープンソースプラットフォームを通じて音声から文字への書き起こしを可能にする音声認識モデルである。

新たな用途の開拓へとつながる

オープンAIのAPIはつい先ごろ広く利用可能になったばかりだが、スナップ(Snap)、買い物代行を手がけるインスタカート(Instacart)、eコマースプラットフォームのShopify(ショッピファイ)などの注目すべき企業がいち早くこれを利用しており、マーケターやテクノロジストは、今回のサードパーティ製アプリのためのAPI公開によって、デベロッパーによるアプリ開発にいっそう拍車がかかるだろうと話している。

大規模言語モデル(LLM)のポータビリティは、デベロッパーがより簡単にAPIを利用し、新たな用途を開拓するのに役立つと、調査会社ガートナー(Gartner)のシニアアナリストであるニコール・デンマン・グリーン氏は述べている。今回新たにオープンAIによるChatGPTとWhisperが統合されるが、これは今後も続くであろう多くの統合の1つに過ぎない。だがグリーン氏によれば、AIが言語のニュアンスを理解する能力はジェネレーティブ(生成)コンテンツにとって厄介な部分であり、今後も困難であると同時にリスクを伴うものであることに変わりはないだろうという。

「今回の場合、音声をテキストに変換する機能はコンテンツやエクスペリエンスの向上のために文字起こし機能を使いたいマーケターにとっては実用的なアプリだ」とデンマン・グリーン氏はいう。「だが、学習データに組み込まれる内在バイアスをチェックするためには人の目による監視を確実に行う必要があり、その点で利用者は慎重を期すべきだ。新しいコンテンツを理解し生成するためにChatGPTとWhisperをつなぐのであれば、この問題はさらに複雑化するだろう」。

「低コスト戦略」は功を奏するか?

オープンAIのAPIを活用するもうひとつの方法は、顧客からのフィードバックの感情(センチメント)分析だ。eコマースサーチ&アナリティクスプラットフォームであるジャングルスカウト(Jungle Scout)のチーフテクノロジーオフィサー、スティーブン・キュリアル氏は、ある販売会社がChatGPTを使って犬のレビューを分析し、バイヤーの希望に合わせたサイズ調整を行った事例を挙げている。

APIは「時間を節約できる」と、キュリアル氏は述べている。「時間をかけて詳細を把握する必要はないし、実際に実行するのにアルゴリズムを理解したり微調整を行う必要もない。専門家でなくとも、すでにきちんと調整されたバージョンを手にすることができる」のだという。

より多くのデベロッパーに魅力を感じてもらうため、オープンAIはコストの引き下げも行っている。デベロッパーは1000トークン(約750ワードに相当)に対して0.002ドル(約0.3円)を支払うが、これだと10分の1のコストですむ。この戦略は、ウーバー(Uber)がタクシー料金を安くするために初期価格を低く抑えたことや、Amazonが街の書店から離れた読者を引き寄せるために本の価格を安く設定したことと、どこか似ているといえるかもしれない。

独自のLLMを持ち、ジェネレーティブコンテンツを扱うライター(Writer)は何千人もの顧客を抱えるスタートアップ企業だが、同社の創業者兼CEOのメイ・ハビブ氏によれば、ジェネレーティブモデルがすぐに無料もしくはほぼ無料で提供されるようになったとしても、驚くにはあたらないという。そしてそれは「社会にとって良いこと」である一方、まだ必要な作業はたくさんあると付け加えた。

「ChatGPTがほぼ無料というのは、まさに『濡れ手で粟』ともいえる素晴らしいオファーだが、ジェネレーティブAIを活用して大規模な効率性の向上を実現するには、まだまだ多くのことが必要だ」と同氏は語っている。

生産時間の短縮を実現

企業各社がすでに行っているChatGPTの活用方法は実に多岐にわたる。インスタカートの場合、買い物客は食品について質問することで、食料品プラットフォーム上の7万5000を超えるパートナー小売店からの商品データに基づいたレシピのアイデアを生成できる。またShopifyのアプリでは、ChatGPTを使った新しいショッピングアシスタントが商品検索や新製品の紹介をサポートしてくれるので、望む製品やブランドを見つけ出すことができる。

オープンAIはすでにいくつかのガードレールを設置し、ChatGPTを微調整しているので、マーケターはより安心してAPIを利用できるだろうと、ピュブリシス・ノースアメリカ(Publicis North America)のマーケティングテクノロジー担当ディレクターであるライアン・コットレル氏はいう。

同氏は「かつてはどうしても自分でカスタムモデルを訓練するという必要があったが、今はすべてのユーザーに安全なコンテンツを保証する既成のものが存在する。これはより大きなスケールでみて、魅力的だ」といい、「安全なコンテンツを生み出すだけでなく、市場に投入する際の生産時間も短縮できるだろう」と話している。

[原文:With developer APIs for ChatGPT and Whisper, OpenAI is opening the floodgates with a familiar playbook

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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