AppleのMRヘッドセットはティム・クックCEOがデザイナーの「準備不足」という警告を押し切って発売されるとの報道

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Appleはおよそ7年の開発期間を経て、早ければ2023年6月にVR(仮想現実)とAR(拡張現実)を体験できるMR(混合現実)ヘッドセットを発表するとみられています。このヘッドセットの発売タイミングはApple内でも激しく議論されており、ティム・クックCEOは「まだ準備不足だ」というデザイナーチームからの異議を却下して2023年中の発売を迫ったと、ニュースメディアのFinancial Timesが報じています。

Tim Cook bets on Apple’s mixed-reality headset to secure his legacy | Financial Times
https://www.ft.com/content/86b99549-0648-4c23-ab6e-642a4ba51dff


Report: Apple CEO Tim Cook Ordered Headset Launch Despite Designers Warning It Wasn’t Ready – MacRumors
https://www.macrumors.com/2023/03/12/cook-ordered-headset-launch-despite-warning/

Appleが開発中とされるMRヘッドセットは、視線追跡(アイトラッキング)やカメラを用いた手の動きの追跡(ハンドトラッキング)が可能で、外部端末なしにiOS風のUIを操作するVR・AR対応デバイスとみられています。価格は3000ドル(約39万円)前後と見られているこのMRヘッドセットは、2023年6月のWWDCで発表される可能性が報じられています。なお、Financial Timesは、AppleがMRヘッドセットの出荷台数を最初の1年間は約100万台に絞ると予想しています。

AppleのMRヘッドセット「Reality Pro(仮称)」は2023年6月のWWDCでお披露目される可能性 – GIGAZINE


Appleの主力製品であるiPhoneやiPad、Apple Watchはすべて2011年に亡くなったスティーブ・ジョブズの下で考案されたものです。Financial Timesは「Appleの時価総額は2011年に約3500億ドル(約47兆円)だったのが今や約2兆4000億ドル(約322兆円)にまで成長しました。しかし、Appleは新境地を開くというよりも、過去のアイデアを反復してきたと非難されています」と評価しています。

そして、AppleのMRヘッドセットはクックCEOの指揮下で開発された初めてのコンピューティングプラットフォームになるとのこと。MRヘッドセットの開発に携わったAppleの元エンジニアは、「MRヘッドセットは過去数年にわたって毎年発売を延期してきました。Apple社員はMRヘッドセットのリリースに大きなプレッシャーを感じています」と述べています。


MRヘッドセットの発売タイミングについては、2016年初頭に開発プロジェクトがスタートした時から議論されていたそうです。Appleのオペレーションチームは、すでにスキーゴーグル型のヘッドセットをイメージしており、早く出荷したいと考えていたとのこと。

一方で、Appleの製品デザインチームは「より軽量なARグラスが技術的に実現可能になるまで発売を待ちたい」と、オペレーションチームに対してストップをかけていたそうです。この軽量なARグラスについては、2023年1月に技術的な問題で開発が延期されたことが報じられました。

Appleが軽量ARグラスの開発を技術的な問題で延期したと報じられる、代わりに安価なMRヘッドセットをリリース予定 – GIGAZINE


Financial Timesによれば、クックCEOはオペレーションチーフのジェフ・ウィリアムズ氏の味方につき、「技術がまだ追い付いておらず準備不足である」というデザイナーチームからの反対を押し切って、2023年中の発売に踏み切ったとのこと。

Financial Timesは、クックCEOがデザイナーからの警告を無視してMRヘッドセットの発売を急かした背景に、Apple社内でデザイナーチームの力が弱まりつつあることを指摘しています。

AppleではiMacやiPhoneなどの製品のデザインを手がけてきたジョナサン・アイブ氏が最高デザイン責任者を務めていましたが、アイブ氏は2019年にAppleを離れ、独立しました。

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アイブ氏が離れたあと、Appleの最高デザイン責任者の役割はハードウェア部門をエヴァンス・ハンキー氏、ソフトウェア部門をアラン・ダイ氏が務めていました。しかし、ハンキー氏はデザイン部門のスタッフの入れ替わりが激しくなっていることを理由に「半年以内に退社する」と2022年10月に発表しています。ジョブズ氏がCEOを務めていた頃は、Appleの製品の方向性を主導していたのはデザインチームでしたが、記事作成時点だとデザインチームはオペレーションチーフであるウィリアムズ氏の直属となっているとのこと。

Appleの元エンジニアはFinancial Timesに対して「Appleで働く事の最もいい部分は、デザインチームの非常識な要求をエンジニアリングで実現するようなソリューションを考案することでした」と述べており、そういった魅力が今のAppleから失われていると語っています。

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