異なる 美容企業 3社の決算報告にみる、景気回復に懐疑的な消費者【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

美容業界の一連の決算発表が2月初旬に行われた。その後、経済が好調であるとは感じていない消費者の不信に直面している美容業界がどのような立場にあるかについてより明確なイメージが浮かび上がってきた。消費者が倹約しているため、収益報告からは美容業界がどのように影響を受けて反応しているかを垣間見ることができる。

異なる美容企業の3社の比較

マスビューティ企業、E.l.f.ビューティ(E.l.f. Beauty)、高級コングロマリットのエスティ ローダー カンパニーズ(Estée Lauder Companies、以下ELC)、小売業者のサリービューティホールディングス(Sally Beauty Holdings)は2月初旬に、四半期決算を発表した。これらの企業間には明らかに違いがあるので、ほとんど一貫性は見られなかった。だが、それぞれが各市場の実態を浮き彫りにしている。まずはE.l.f.ビューティだが、同社はマスブランドの底力を見せつけた。一方、ELCの売上は主に中国が原因で減少したが、米国の売上もスキンケアの小売販売が原因で伸び悩んだ。サリービューティは小売業者の観点から、環境を意識する購入客が期待するようになった販促販売にフォーカスしていた。

底力を見せたE.l.f.

E.l.f.のCEO、タラン・アミン氏はGlossyとのインタビューで次のように述べている。「数字は間違いなくストーリーを物語っている。大衆向けのカラー化粧品には高い回復力があり、(このカテゴリーは)かつてないほど健全だ。この分野はいろいろなテーマによって推進されている。消費者は外出して自分自身を表現したいと思っており、カラー化粧品はその実現には素晴らしいカテゴリーだ」。

E.l.f.ビューティの2023会計年度第3四半期は16四半期連続の売上成長であり、同社は収益発表に合わせて通期見通しを再び引き上げた。純売上高は前年比49%増の1億4650万ドル(約195億円)に達し、その結果、同社は2023会計年度の見通しを更新し、純売上高が前年比で38~39%増加すると予想している。これは、11月に発表された22~24%を上回っている。

アミン氏は、E.l.f.ビューティの強みには3つの柱があるという。それらは、価値提案、メイクアップ・スキンケア製品のローンチパイプライン、強力なマーケティングのROIと消費者を関与させる能力だ。同氏はさらに、クリーンでビーガン、クルエルティフリー、フェアトレード認定の製品により、同社の価値観が顧客に共感されているとも語っている。

米国の経済状況

株式市場以外にもいくつかの要因が米国経済に貢献していることを覚えておくべきだ。これには、失業率と雇用率、インフレ、GDP成長率などがある。しかし、消費者向け企業の収益は、消費者のセンチメントやトレンド、信頼を知るのに役立つ。

労働統計局の最新の雇用報告によると、米国の雇用者は1月に51.7万人の雇用を追加した。これは、前月のほぼ2倍である。失業率も予想に反して3.4%に後退し、1969年以来の最低水準である。これは、メタ(Meta)、Google、Twitter、Amazonなどのテック業界の大企業や、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、ブラックロック(Black Rock)、BNYメロン(BNY Mellon)といったウォール街の巨大企業が頻繁にレイオフを発表しているにもかかわらずである。

全体として年間消費支出は13兆ドル(約1725兆円)を超え、アメリカのGDPの約70%を占めている。2022年第4四半期のGDP成長率は2.9%で、予想を上回った。また、インフレ率は6カ月連続で減速している。1月に発表された消費者物価指数レポートによると、12月の消費者物価は前年からは6.5%の上昇だったが、11月の7.1%から下がっている。減速の原因はガソリンが安くなったことによるエネルギーコストの低下だ。だが、住宅費は上昇し続けている。

消費者信頼感指数の変動

それでも、景気後退の恐れは迫っている。それは、依然としてあらゆることが悪く感じられるからだ。そして、消費者の信頼は気まぐれである。1月の月例消費者信頼感調査では2022年12月から約2%の低下であるが、それでも2022年の最低月であった7月のレベルを上回っている。消費者信頼感指数は収入が1.5万ドル(約200万円)未満の世帯と35歳未満の世帯でもっとも低下した。

この消費者信頼感は、大衆向け企業を後押しする一方でプレステージ企業をさらに蝕んでいるようだ。ELCは2月2日、2023会計年度第2四半期の純売上高が46億2000万ドル(約6133億円)で、前年同期の55億4000万ドル(7355億円)から17%減少したと報告した。これは、コロナ禍による制限とトラベルリテールの減少により中国での売上が低迷したことが原因である。同社のポートフォリオ全体ではヘアケアとフレグランスが伸びた一方で、スキンケアとメイクアップの売上は減少した。しかし、南北アメリカ地域でも第2四半期の売上高は3%減少し、12億ドル(約1593億円)となった。ELCは、米国の小売業者からの補充注文の減少が主にスキンケアに影響を及ぼしたことによる悪影響を挙げている。これに対して、フレグランスとメイクアップの両カテゴリーで米国の売上高は伸びている。

小売業者は消費者が財布を締めていることに対応して、注文頻度を引き締めるだろう。景気悪化の雰囲気が漂っているがゆえに、顧客はよく考えて割引やプロモーションコードをもっと利用したり、手頃な価格の(小売業者の)自社ブランドを選択している。ターゲット(Target)の幹部は2022年1月の第3四半期決算発表でこの傾向に注目していた。

ELCの計画

ELCのCEO、ファブリツィオ・フリーダ氏は先週の同社の収支報告で次のように述べている。「北米では当社はこの四半期でシェアを失い続けている。全体的に株価回復の計画を加速させたいと考えている。しかし、良いニュースは(第2四半期]に)非常に大きな進展があったのは良いニュースだ。10月、11月、12月と、毎月、トップラインの売上の加速が見られた」。

ELCは、エスティ ローダー(Estée Lauder)やクリニーク(Clinique)、ラメール(La Mer)、トムフォード ビューティ(Tom Ford Beauty)などのポートフォリオのブランドで、今後6カ月間で米国での新製品のローンチを加速する計画があると述べている。また、メイシーズ(Macy’s)とディラーズ(Dillard’s)で高級フレグランスの流通を拡大し、ノードストローム(Nordstrom)でジ・オーディナリー(The Ordinary)をローンチする予定もある。

サリービューティホールディングスの現状

ELCの収益報告と同じ日に、ある美容小売業者が現在の小売のダイナミクスに対する見解を共有した。サリービューティホールディングスは、2023年第1四半期の収益を報告し、同社の小売店部門であるサリービューティサプライ(Sally Beauty Supply)が同四半期の純売上高が前年比で2.1%減少、5億4950万ドル(約730億円)になったことが示された。ただし、eコマースの売上高は14%増加して9100万ドル(約121億円)であり、純売上高の9.5%を占めている。

特に、同社はサリービューティサプライでのプロモーション活動が「適度に」増えたと述べている。販売促進活動の増加はブランドパートナーらから資金提供を受けて、サリービューティサプライは約50%という強力な粗利益を維持することができた。2022年11月に行われた前回の収支報告以来、サリービューティホールディングスの幹部は将来のビジョンについて語っている。それには「顧客中心主義」の強化、サリービューティでの利益率の高いプライベートレーベルブランドの成長、イノベーションの強化、運用の効率化と技術力の最適化などがある。

サリービューティホールディングスのCEO、デニース・ポーロニス氏は2月2日の2023年第1四半期決算発表において次のように語っている。「当社は忠実な顧客にフォーカスするだけではなく、マーケティングプログラム、プロフェッショナル用カラー・ケアにおける差別化した製品の提供、戦略的イニシアチブを通じての新規顧客の獲得にも注力している」。サリービューティは米国とカナダで1700万人のアクティブなロイヤルティメンバーを保持しており、ロイヤルティメンバーの購入は第1四半期の売上高の77%を占めている。

小売業者とブランドパートナーとの関係

サリービューティサプライ、ホールフーズ(Whole Foods)、ターゲットなどの量販店は全体的にサプライヤーを頼って価格を引き下げ、落ち着いてきたインフレを活用しようとしている。小売業者はコストの上昇に対抗するのではなく、ブランドパートナーの削減を推進している。さもなければ、パートナーには(小売業者からの)注文の遅れや店舗での不利な配置などのリスクがある。つまり、小売業者は利益を維持、または拡大できる一方で、ブランドは売上の損失を吸収することになる。

インフレに伴う値上げを経験している多くの消費者は、購入量を減らし、次に購入するまでの時間を延ばしている。2022年12月の連邦データによると消費者支出は1カ月で0.2%減少し、ホリデーシーズンのショッピングシーズンとしては弱い結果だった。小売売上高は1.1%の減少だった。

バークレイズ(Barclays)の株式アナリスト、ローレン・リーバーマン氏は2月3日の調査報告書で、「昨年(2022年4月)、エスティ ローダーの米国事業の『回復』に注目した際、我々は先走りしていたのかもしれない」と記している。当時、アナリストらはプレステージビューティの成長が回復すれば中国やトラベルリテールの変動から同社を守ることができると示唆していた。

リーバーマン氏は次のように記している。「報告書以来、(南北アメリカ)地域における同社の有機的売上高は3四半期連続で我々の予想を下回った。もちろん、同業他社と比較して、エスティ ローダーの(あまり多様化されていない)チャネルミックスは(同地域の売上高の3分の1強がデパートであり)部分的に責任があるが、同地域に対して以前明確にしていた再生計画の一部がうまく機能していないのではと疑問視せずにはいられない」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Beauty consumers are not convinced the economy is good

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

Source

タイトルとURLをコピーしました