「Shopifyは支援企業をどのように選んでいるのか」:進化する投資戦略に対する開発者たちの声

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Shopify(ショッピファイ)のアプリのエコシステムが成長するにつれ、eコマース大手である同社が投資した新興企業の数も増え続けている。

2月2日木曜日、創設から2年のアトリビューションベンダーであるトリプルホエール(Triple Whale)は、Shopifyから資金的な支援を受けたことを発表した最新の新興企業になった。プラットフォームである同社は、トリプルホエールの2500万ドル(約32億8000万円)のシリーズBに参加した。ただし、トリプルホエールはShopifyの小切手の金額を明らかにしていない。トリプルホエールのラウンドは、NFXとエレファント(Elephant)により主導された。

Shopifyの投資の多くは、これらの新興企業を自社事業の特定のセグメントについて推奨または独占ベンダーにすることと平行して行われてきた。たとえば、クラビヨ(Klaviyo)は昨年、Shopifyから1億ドル(約131億円)の投資を受け、現在はShopify Plus(ショッピファイプラス)の推奨メールソリューションになっている。一方で、Shopifyのプラットフォームに依存する多くの企業からは、これによって、自社のShopifyストアにどの統合機能を追加するか、マーチャント(加盟店)が悩まなくて済むという声がある。またShopifyは、投資した先の新興企業と、より密接に協力して機能を開発するようにもなった。

Shopifyの投資が他社に及ぼす影響

しかし、Shopifyの投資活動は、Shopifyのアプリストア内にソリューションを保有している8000企業のあいだからお気に入りを選ぶため、その投資がどれだけ重要な役割を果たしているのかについての疑問も引き起こしている。また、これらの企業のいくつかについて、それらのアプリがすでにマーチャントのあいだでデフォルトとして組み込まれている場合でもShopifyは投資するのかという疑問もある。さらに、Shopifyが初期の新興企業に対して優位性を与え、Shopifyのアプリストアを同様に使用しているほかの企業に不利益をおよぼしていないか、という疑問も考えられる。

Shopifyが新興企業への投資に強権を振るうところまで達したことに対するeコマースの世界の反応は、GoogleやAppleなどのアプリストアを持つほかのテック大手企業と比較して、同社がどれほど異なった見られ方をしているかを示している。Shopifyのアプリのエコシステムは、ブランド、Shopifyのアプリストア向けに統合機能を構築するB2B企業、それらのB2Bソリューションを使用してShopifyのウェブサイトを構築するブランドを支援する代理店という、いくつもの異なる関係者で構成されている。Shopifyが、ブランドや代理店に対して、そうしたB2B新興企業への投資を増やすことでより良いアプリストアの体験が得られると説得できれば、同社はShopifyの投資に対する競合からの不満を食い止めることができるだろう。

開発代理店のプログレスラボス(Progress Labs)のCEOを務めるパトリック・ジョンソン氏が述べたところでは、Shopifyのマーチャントが、たとえば15の異なる顧客サービス統合機能のうち、どれがベストなのかを知りたいと開発者や代理店に問い合わせてくることは、よくあることだ。Shopifyがある新興企業に他社よりも多く投資している場合、「将来的にその企業は、いろいろなものへのアクセスに有利になることが想定される。それはたとえば、急速に成長するコースに乗ることかもしれないし、開発の統合がよりシームレスになることかもしれない」。

ベンチャー投資家としてのShopify

Shopifyは合計で何社の新興企業に投資したのかを明らかにしていない。同社は、自社の投資戦略について、経営陣による電話インタビューも拒否している。

しかし、インサイダー(Insider)の推定では、Shopifyは2021年に7つの新興企業に投資し翌年には9社に投資した。

トリプルホエールへの投資が示すように、Shopifyによる新興企業への投資の多くは、より多くのマーチャントがShopifyで事業を開始して成長することを阻害する、重大な固有の課題に対処するためのものだ。それはたとえば、顧客獲得コストの高騰や、プライバシーを重視した新しいデジタルマーケティングの状況に適応することの難しさなどだ。

注力セグメントに呼応する企業との取り組み

これらのパートナーシップの多くは、Shopifyのエンタープライズ向けサービスであるShopify Plusサービスから、越境ECツールのShopify Markets(ショッピファイマーケッツ)にまで、同社が成長させようとしている特定の事業セグメントに対する新興企業の取り組みから生まれたものだ。

たとえば、APIベースのコンテンツプラットフォームであるサニティ(Sanity)の共同創設者のひとりは、同社とShopifyとのパートナーシップは、2021年に始まり、「Shopifyが当社に対し、彼らが当時構築していた新しい開発者エコシステム用のコンテンツアプリケーションを作成するよう依頼してきた」ときにはじまったと書き記している。これに対してShopifyは、同社が2022年に新しいヘッドレスフレームワークであるハイドロゲン(Hydrogen)をリリースしたとき、サニティをアプリストアで唯一のCMS統合にした。同年、Shopifyはサニティに非公開の金額を投資した。

多くの場合、Shopifyの保有する権利の正確な規模は、これらの新興企業が株式を公開したときのみ公開される。Shopifyは後払いプロバイダのアファーム(Affirm)について、アファームを自社のShop Pay決済サービスの独占後払いプロバイダにしたあとで、約8%の権利を保有した。Shopifyとアファームは昨年、両者のパートナーシップの複数年にわたる「延長」を発表したが、金額は明らかにされていない。

Shopifyは依然として、アフターペイ(Afterpay)やシズル(Sezzle)などほかの後払いプロバイダをサポートしてはいるが、これらのプロバイダはShop Payほどシームレスではない。利用者がShopifyのサイトから、アフターペイで注文への支払いを行うと、アフターペイのサイトに転送され、そこで取引を完了する必要がある。

Shopifyが特定の業者を選んだあとに起きること

Shopifyが今日までに行ったなかで、最大かつ株式を公開している新興企業への投資のひとつは、昨年8月にMA(マーケティングオートメーション)新興企業のクラビヨに投資した1億ドル(約131億円)だ。この投資の一環として、Shopifyは開発中である特定のShopify機能への早期アクセス権もクラビヨに与えると語った。

Shopifyがクラビヨに投資したのは、MA新興企業のメールチンプ(Mailchimp)が何年にもわたってShopifyと不安定な関係を続けたあとであることも特筆に値する。メールチンプは2つのプラットフォーム間で顧客データを共有する方法をめぐって争ったのち、2019年にShopifyとの統合を取りやめた。それから2年後、2つのプラットフォームは和解した

クラビヨのShopify担当責任者を務めるジェイク・コーエン氏は、Shopifyのクラビヨへの投資は、すでに両社のあいだに存在していた「より大きな関係の象徴」だとする。同氏はかつてクラビヨのコンテンツ担当バイスプレジデントを務めたこともあるが、この投資が行われたあとで、Shopify関係の一切を扱う担当者になった。

Shopifyのクラビヨへの投資によって、両者はより密接な協力が可能になり、Shopifyのマーチャントがその恩恵を受けられると、コーエン氏は語る。同氏は、Shopifyとクラビヨが共同で行うべき作業が2つあり、そのひとつはすでにShopifyとクラビヨを使用しているマーチャントのサポートに関係すると見ている。

同氏は次のように述べている。「Shopifyのマーチャントサクセスチームと、当社のカスタマーサクセスチームは、互いに話し合っている。我々は互いに内部的なプレゼンテーションを行い、何が可能なのかを全員が理解するようにしている。また、特定の垂直市場に属するマーチャントに利益があると考えられるトレンドについて意見を交換している」。また同氏は、Shopifyとクラビヨが「多くのイベントを行い、マーチャントの業績を改善するために2つのプラットフォームでほかに何を行えるかについて教育する予定だ」とも述べている。

企業への投資をセールスポイントに

2つ目の作業は、Shopifyがクラビヨのような新興企業と密接に協力していることにより、エコシステムがどれだけシームレスになっているかを売り込むことで、まだShopifyやクラビヨを使用していないマーチャントを集めることに関すると、同氏は述べる。たとえばクラビヨは、フットウェアブランドのクル(Kuru)がマジェント(Magento)からShopify Plusへの切り替え、そして間接的にリストラック(Listrak)からクラビヨへの切り替えを決定した理由について語るケーススタディを、自社のウェブサイトに掲載した。

Shopifyが行っているのは本質的に、同社が自社のアプリストアに属する企業の多くに投資しているという事実を、ほかのeコマースプラットフォームと比べたセールスポイントとして利用するということだ。

この方法にどれだけ利益があるかは、Shopifyのエコシステムの誰に質問するかによって異なる。Shopifyや、同社の投資を受けた企業が見るところでは、より密接な協力によって、Shopifyを使用するブランドやマーチャントは自社のウェブサイトをより簡単に運営できるようになる。

「我々が信じているのは、極めて深く豊富な統合を行っているプロバイダを選ぶことができ、ユーザーエクスペリエンスへの投資を明確に重視すれば、より少ないリソースとコストで多くの機能をより短時間で実運用に移行できるということだ」と、コーエン氏は述べている。

ブランドやマーチャントが「悩む」時間を短縮

Shopifyと協力しているいくつかの開発者は、Shopifyが特定の新興企業に投資する方法によって、同社のeコマースプラットフォームを使用するブランドやマーチャントは、自社の事業に適切な統合は何かについて悩む時間を減らすことができると主張する。また、少なくともShopifyは自社のアプリストアに頼る企業に対し、それらの統合を社内で開発して損害を与えようとはしていないとも主張している。

一方でAppleは、新しい広告商品を静かに推進しており、自社のiOS 14アップデートでメタ(Meta)やスナップ(Snap)などのデータプラットフォームがユーザーから収集できるデータを制限され、結果的にこれらのプラットフォームの広告事業に損害を与えた後、需要重視のプラットフォームの構築を模索していると報じられている。

「これによって、多くのカスタムコードを作成する必要がなくなるので、当社の仕事の一部が楽になる。当社はクライアントに、すべての機能をゼロから作成するのではなく、統合されたシステムにおいて、戦略レベルで助言できる」と、代理店ネタリココマース(Netalico Commerce)の創設者であるマーク・ウィリアム・ルイス氏は語る。

プログレスラボスのジョンソン氏は、開発者として、Shopifyが、支援する新興企業をどのように選んでいるのかについて、さらに多くの情報を望むと語り、クライアントにどの統合を推奨するのかを決定するうえで、この支援が「影響していることはたしかだ」と認めている。「成功した企業を支援するのか、それともその分野で将来性がもっとも見込まれる企業を支援するのか、といったことだ」と、同氏は付け加えている。

[原文:DTC Briefing: How Shopify’s investing strategy has evolved]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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