ドバイへの インフルエンサー の旅予算への疑問:タルトのCEOモーリーン・ケリー氏が語る

DIGIDAY

1月18日、29人のインフルエンサーとその同伴者たちが、ドバイのアル・ワディ砂漠にあるザ・リッツ・カールトン・ラス・アル・ハイマ(the Ritz Carlton Ras Al Khaimah)に集結し、世界の旅をスタートした。そのなかには、いま一時的に注目を浴びているアリックス・アール氏(TikTokのフォロワー数390万人)、メレディス・デュクスベリー氏(TikTokのフォロワー数1670万人)、エリー・ザイラー氏(TikTokのフォロワー数1080万人)といった大物を含む、13人の米国人インフルエンサーがいる。

これらの女性たちはエミレーツ航空のビジネスクラスで移動し、1月21日にドバイを離れて、最新の#TrippinWithTarteを締めくくる。このブランドは豪華なインフルエンサートリップ(2015年以来、現在までに20回以上開催している)で悪名高い。こうしたインフルエンサートリップはTikTokを愕然とさせ、一体いくら使っているのか、どうすればそのような旅行をする金銭的な余裕があるのか、不況下で適切なのか、またオーディエンスに自分たちとは「関連性がない」ブランドだと感じさせてしまうのではないか、などと疑問を持たれている。

インフルエンサートリップに対する誤解

つまり、こういうことだ。ソーシャルメディアとインフルエンサー(ベッドから起き上がるだけで料金を取ることができる人々)によって、ブランドの旅行は確かに高価で贅沢な様相になってきているが、過去にも実際にこうしたことは存在していた。特にソーシャルメディアの黎明期、美容エディターたちがブランドの金で旅行をしていたとき、たとえばシャネル(Chanel)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitto)、YSLボーテ(YSL Beauty)、あるいはタルト(Tarte)などとの旅行を楽しんでいたとき、インフルエンサーが起用される今日とは違い、その経験が一般に広く公開されてはいなかった、というだけのことなのだ。

しかしまたブランドは、現在のようなROIを見出すこともできなかった。今回の場合、ハッシュタグ #tartedubaitrip は現在TikTokで210万ビューを記録している。バーストゥール(Barstool)のブロガー、ジャック・マグアイア氏(TikTokではジャック・マック氏、フォロワー数39万7000人)は、その旅行を「調査する」投稿を何度も行っているうちのひとりだ。

一方、TikTokerのサラ・マッコード氏(フォロワー数1185人)は、ブランド戦略家である彼女にとって、この旅行が理にかなっている理由を説明する動画を投稿している。

1999年にタルト・コスメティックス(Tarte Cosmetics)を創業したモーリーン・ケリー氏は、人々が今回の旅について抱いているあまりにも多くの疑問を解消すべく、Glossyの独占インタビューに応じてくれた。

マーケティング予算は、広告ではなく人間関係の構築に投入

ケリー氏は、世間の騒然とした反応について、「これは当社にとって最初の旅行ではないが、人々がこのような過剰なコンテンツを目にしたら、条件反射的なリアクションを取るかもしれないということは、もちろん理解できる」と述べた。とはいえ、タルトはすでに長いあいだ、マーケティング予算をインフルエンサーとの関係構築に投入することを優先してきたと、ケリー氏は言う。

「毎日、ブランドはマーケティング予算をどう使うか決断している。それがスーパーボウルの巨大コマーシャルである企業もあれば、有名スポーツ選手やセレブとの数百万ドル規模の契約を意味する企業もあるだろう。当社ではこれまで従来のような広告は行っておらず、その代わりに人間関係の構築やコミュニティの形成に投資している」。ケリー氏は、今回の旅行にタルトが投資した総額については言及を避けた。

複数のTikTokの動画で語られている説に関して、ケリー氏は「そうした陰謀論のいくつかには笑ってしまう。想像力が豊かだなと思うが、当社はいかなる観光局からも一切援助を受けていないと、きっぱりと断言できる」と述べた。人々はタルトが旅行のスポンサーとしてドバイ政府観光局と提携したと憶測していた。しかしタルトは実際にはセフォラ・ミドルイースト(Sephora Middle East)と提携している。

実際のコスト総額は動画制作に支払うよりも安い

また、多くのTikTokのコメントでは、ドバイへの航空料金に莫大な金額がかかると指摘されている。マグアイア氏の動画では、エミレーツのファーストクラスの航空券は2万2000ドル(約284万5000円)すると言っていた。「エコノミーの真ん中の席で数え切れないほどの海外旅行を経験した者として、確かに気持ちはわかる」とケリー氏。「しかし考えてもらいたいのは、当社は人々を招待しているという点だ。その人たちは、仕事や生活の時間を割いて、3日間という短いイベントに参加するために、長いフライトに乗らなくてはならない。どんなにその旅行が楽しみでも、これは誰にとってもかなり大きな負担になる。私たちは参加する全員にとって最初から最後まで快適な体験にしたいのだ」。

美容やインフルエンサーマーケティングに携わる人など、ほかのTikTokerたちは、リッツの施設に宿泊する料金を考慮し、こうした旅行にかかるコストをざっと集計している。リッツのウェブサイトによると、1泊約1000ドル(約13万円)からとなっている。これらのクリエイターが1本の動画に請求する料金を考えると、おそらくタルトはもっとも賢い美容マーケターだろうと多くの人が述べている。思い出してほしいのは、この旅行を企画したのは、3万人のソロリティ(女子学生クラブ)の希望者に製品を送り、2022年8月の#RushTokを席巻したチームでもあるということだ。

新製品ローンチのための戦略

タルトがなぜクリエイターをドバイに連れて行くのに何十万ドルも費やしたかというと、簡単に言えば、新しいファンデーションのためだ。マラクジャ・ジューシー・グロウファンデーション(Maracuja Juicy Glow Foundation、40ドル、約5000円)と呼ばれるその製品は近日ローンチされる。買い物客は現在、タルトのサイトでウェイティングリストに参加できるが、製品は2月10日まで入手できない。この処方は完成に2年かかり、ケリー氏が特に情熱を注いでいる。「ゴージャスで輝くみずみずしい肌と、光り輝くカバレッジの間で完璧なバランスを提供する。誰もが求めているバイラルでクリーンな輝きのための、チューブに入ったジューシーな肌だ」と、ケリー氏は述べている。

タルトの担当者によると、今回の旅行はブランドが新しいファンデーションの販売のために行うことのほんの始まりに過ぎないとのことだが、それ以上の計画については明らかにしなかった。

提携している小規模な企業にも、またとない機会を提供

タルトが #TrippinWithTarte と名付けたこの短い休暇は、無料の航空券や食事、宿泊だけが注目されたのではない。その部屋の「ドロップ」でも話題になった。すべての参加者の部屋が、旅行中に使用するための何百ものタルトの製品で埋め尽くされていただけでなく、タルトが長年提携している、志を同じくする他の多くのブランドからのギフトであふれていた。これらのブランドは製品を無償で提供している。つまり影響力のある著名なゲストに製品を贈る機会となっているのだ。ドバイでは、クローゼットの中に洋服がぎっしり入っていたようで、参加者は手ぶらで来ればよかったと投稿している。

「実際には、私はこのことをとても誇りに思っている。当社は、ザ・ポスト(The Post)やエレクトリックピックス(Electric Picks)のような、女性が創業した数多くの小さな企業と提携している。これはそうした創業者たちが、自分たちが気に入っている影響力のある人々と才能をシェアするためのすばらしい機会となっている」とケリー氏は述べた。

インフルエンサーやセレブリティのなかには、無料の旅行に行くことで報酬を得ている人も存在するのは事実だが、タルトは参加者に対してこれまで報酬を支払ったことはないし、今回もそうだ。アリックス・アール氏に対しても支払いはしていない。「私たちは何も要求しないし、参加する人にお金を払うこともない」とケリー氏は言う。むしろタルトはその旅行を、自然の美しさ(ラクダ! 砂漠! ジープでの遠出!)、魅力(ファーストクラスのフライト! リッツのヴィラ! まったく新しいワードローブ!)、独占性(少人数のグループでタルトの新商品を最初に見る!)と、コンテンツクリエイターにしてみれば、本質的にたまらないほど盛りだくさんなものにしている。まさにこれは、ブランドとの一体感を作り上げる上でのマスタークラスなのだ。

[原文:Exclusive: Tarte CEO Maureen Kelly sets the record straight on the brand’s influencer trip to Dubai]

SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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