欧州、新変異株でダブルパンチ?

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オーストリアでは今月22日から4回目のロックダウン(都市封鎖)が3週間の予定で実施されているが、27日の土曜日、オーストリアの第2都市グラーツ市はじめ、クラーゲンフルト市、サンクト・ぺルテン市、インスブルックでは政府のコロナ規制や来年2月1日実施予定のワクチン接種の義務化に反対する抗議デモ集会が行われた。

バチカンのサン・ピエトロ広場で28メートルの高さのクリスマス・ツリーが立てられた(2021年11月23日、バチカンニュース独語版から、写真ANSA通信)

先週末は首都ウィーンで約4万人の市民が抗議デモを行ったが、今回はグラーツ市で3万人余りの抗議デモ集会参加者があったという。プラカードには「我々の自由を奪うな」、「コロナ規制に反対」から、子供を「ワクチン接種から守れ」まで、さまざまな要求が書かれていた。デモ集会の参加者の多くはFFP2マスクを着用していなかったが、相対的に平和裏に行われた。警察側の発表によれば、27日のグラーツ市の抗議デモ集会は1945年以来、最大規模のデモ集会だったという。デモ集会の終わりには、手を挙げるヒトラーのあいさつをする参加者もいたという。クラーゲンフルト市では約3000人が参加。集会最後はケルンテン州政府建物前で行われ、クラーゲンフルト市の極右「自由党」代表が演説した。インスブルック市でも同様、1500人余りの市民が参加して集会が開かれた。

オーストリア通信(APA)配信のコロナ規制反対の抗議デモ集会の記事を読みながら、「多くの新規感染者が出、死者も増えてきているのに、どうしてコロナ規制に反対し、ワクチン接種を拒否するのだろうか」と考えてしまった。今回は5歳から11歳までの子供にもファイザー製のワクチン接種が25日、欧州医薬品庁(EMA)から認可されたこともあって、抗議デモ集会では「子供をワクチン接種から守れ」と書かれたプラカードが多くみられた。

コロナ問題のニュースとしては、オーストリアの野党、極右自由党のヘルベルト・キックル党首はコロナ感染から回復し、隔離期間から解放されたことが伝わってきた。同党首は15日、フェイスブックで、「残念ながらコロナウイルスに感染したので、自宅で養生する」と報告していた。同党首は議会内でのマスクの着用を拒否し、政府のコロナ規制に強く反対、ワクチン接種も拒否してきた政治家だ。「山登りをして新鮮な空気を吸い、ビタミンCを飲んでおれば、ワクチン接種は必要ない」と豪語してきた。その党首が感染したというニュースは大きな波紋を投じた。

幸い、入院もせずに自宅治療で回復したわけだ。キックル党首はその直後、「シャレンベルク首相、ミュックシュタイ保健相よ、気をつけろよ」というメッセージを投じ、今後も政府のコロナ規制に強く反対していく意向を表明している。同党首の回復は朗報だが、「それ見ろ、コロナウイルスは風邪と同じだ。ワクチン接種など必要ない」と国民に向かって叫ぶようだと、ワクチン接種に消極的な国民に影響を与えることが懸念される。実際、キックル党首が隔離中、寄生虫退治用の薬を飲んでいるというニュースが流れると、多くの国民が薬局に行ってその薬を買う人が増えた。その中の1人は、薬を大量に飲んで亡くなっている。キックル党首の言動の影響は大きいだけに、感染回復後の同党首の言動は要注意だ。

そうこうしている時、また新型コロナウイルスの変異株が見つかったというニュースが飛び込んできた。同変異株は「オミクロン」と呼ばれ、欧州でもベルギー、オランダ、英国、ドイツ、イタリア、チェコなどで既にアフリカから帰国した国民の間で感染者が出ている。世界保健機関(WHO)は26日、オミクロン株を最も警戒レベルの高い「懸念される変異株」に指定している。

そのニュースが流れると、主要国の株価指数が軒並み大幅安となった。従来のワクチン接種の有効性が不明なうえ、年末年始にかけての経済活動に大きなブレーキがかかる懸念が出てきた。特に、ワクチンの接種を呼びかけてきた国としても、「従来のワクチンがオミクロンに効果があるか不明だ」として、多くの国民がワクチン接種を控えるかもしれないからだ。ワクチン学者によると、「オミクロン関連のデータを慎重に分析しない限り、現時点では何も言えない」と慎重な姿勢を崩していない。ワクチン製造側によると、「オミクロンにも有効なワクチンの製造には数週間かかる」という。mRNAワクチンの場合、短期間でオミクロンにも有効なワクチンを製造できるという。

キリスト教社会の欧州では各都市で既にクリスマス・ツリーが飾られている。しかし、新規感染者が増加する欧州ではクリスマス市場も閉鎖されるなど、寂しいクリスマス・シーズンとなってきた。そのうえ、ウイルスの新たな変異株が広がるようならば、状況は最悪となる。欧州の国民はその懸念を薄々感じながらコロナ規制の解除の日を願っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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