収益化が始まった YouTubeショート、他プラットフォームより報酬獲得が容易に

DIGIDAY

YouTubeはクリエイターの味方だ。そして、それを彼らに知ってもらいたいと切望している。クリエイターがYouTubeショート(YouTube Shorts)を収益化するための新たなプログラムの登場が、それをはっきりと物語っている。

YouTubeは2月1日、ショートに収益化プログラムを導入した。これにより、条件を満たしているクリエイターは、ショートに表示された広告から売上の45%を得ることとなり、残りの55%がYouTubeの取り分となる。

それでもこの比率は、メタ(Meta)やTikTokが実施するレベニューシェアプログラムの比率に比べると、そこまでいいとはいえない(メタの場合、インストリーム広告に関しては、クリエイターが売上の55%、メタが45%を得ることになっている。TikTokの場合は、両者の取り分は50/50だ)。そんな声も聞こえてきそうだが、YouTubeがほかと決定的に違うのは、パートナープログラム(Partner Program)参加の敷居を下げることにより、クリエイターのコンテンツ収益化を著しく容易にしている点だ。

収益化の容易さで勝るYouTube

YouTubeによると、チャンネル登録者数が1000人以上で、過去90日間のショートの視聴回数が1000万回以上の場合、そのクリエイターはショートから広告売上を得られるという。

それに対してTikTokの場合は、フォロワー数が10万人以上でないと、クリエイターが収益を得られる見込みはない。Facebookでも、クリエイターが収益を得るには、フォロワー数が1万人以上、自分のページ内のアクティブ動画数が5本以上、過去60日間の総視聴時間が60万分という条件を満たす必要がある。

YouTubeがショートに導入したこの収益分配モデルが、ライバルたちにプレッシャーを与える可能性は十分にある。いまのところ、TikTokのレベニューシェアプログラムを利用できるのは、人気の高いクリエイターに限られている。メタは、リール(Reels)での広告のテストを行いながら、クリエイター向けのプログラムの内容をいまも検討している。

これだけはいえるが、クリエイターたちの前にはいま、新しいチャンスの扉が開かれている。TikTokやメタに対する彼らの不満の声は、大きくなりつつあるようだ。事実、TikTokなどは、クリエイターたちに報酬をほとんど払っていないことで、非難の的になっている。フォーチュン(Fortune)によると、同誌が取材した7人(全員が10万人以上のフォロワーを抱えている)のうち、5ドル(約650円)を超える収益を上げているインフルエンサーはひとりもいなかったという。

「競合他社のポテンシャルをしのぐ」

トップユーチューバーのミスター・ビースト(YouTubeのチャンネル登録者数:1億3100万人)によると、もしYouTubeショートで視聴回数が10億回に達すれば、それが10万ドル(約1300万円)の収益につながるが、同じ視聴回数をTikTokで稼いでも、1000ドル(約13万円)しか手にできないという。

フォーエバーサミー(フォロワー:TikTokが2万5000人、インスタグラムが5000人、そしてYouTubeが1000人)は、フォーチュンらが今回取材したクリエイターに比べるとフォロワー数で劣るものの、YouTubeショートの収益化に関するこのニュースは、同氏の期待を上回るものだったと話す。プラットフォームが視聴回数に十分見合う報酬を支払うケースは滅多にないからだ。実際、ほかのクリエイターと同様に、同氏は「YouTubeがショートに導入したレベニューシェアプログラムは、TikTokのそれよりも間違いなくいい」と認めている。

広告とはそういうものだが、タイミングがすべてだ。YouTubeショートにとって、これほど絶好のタイミングはない。クリエイターたちは、ほかのプラットフォームのプランに関心を示していない。YouTubeの新しいプランが付け入ろうとしているのは、まさにそこだ。おそらく、このピッチの絶大な効果は、少なくともしばらくは続くだろう。YouTubeがクリエイターに向けて放つ新たなコマーシャルピッチにすぐさま対抗しようとすれば、事態は悪い方向へ進むことになるかもしれない。こうした考えには、メタやTikTokの首脳陣も同意するだろう。

ビリオン・ダラー・ボーイ(Billion Dollar Boy)でヨーロッパコミュニティ担当ディレクターを務めるソフィー・クラウザー氏は、次のように語る。「YouTubeの新たなレベニューシェアモデルが秘めるクリエイターが収益を上げるポテンシャルは、今後、TikTokのクリエイター・ファンド(Creator Fund)や、メタがインスタグラムやFacebookで提供する高度な収益化のための機会といった、競合他社のポテンシャルをしのぐものになるだろう」。

ショートのレベニューシェアの仕組み

計算には売上の分配よりもより多くの要素が含まれているが、その前提はシンプルだ。ショートのパフォーマンスがよければ、クリエイターが手にする金もそれだけ増える。もしショートが成長すれば、クリエイターの稼ぎも成長する。

YouTubeは次のように説明している。「あるショート動画が100万回視聴された場合、そのクリエイターにクリエイタープール(Creator Pool)の1%(900ドル[約11万7000円])が割り当てられる。クリエイターはその後、この総額の45%、この例では405ドル(約5万2500円)ドルを受け取れる」

控えめにいっても、大きな興奮がこの動きを取り巻いている。このレベニューシェアプログラムが2022年9月に正式に発表されて以来、この興奮は大きくなってきた。その渦中にいるのが、ビリオン・ダラー・ボーイだ。同社にはすでに、エージェンシーやブランドからこのプログラムに関する問い合わせが寄せられており、その多くが、いまではYouTubeとそのショートフォーマットを優先させつつある。

このレベニューシェアプログラムが登場する前にあったのが、YouTubeショートファンド(YouTube Shorts Fund)であり、コンテンツの収益化に取り組むクリエイターのためにYouTubeが確保していた、1億ドル(約130億円)の資金だ。

しかし、こうしたファンドの問題は、一般的に投稿内の広告からクリエイターが得られる金額に上限が設けられているという点だ。「クリエイターコンテンツに関しては、YouTubeは口先だけではなく、実際に行動で示しているような印象を受ける。この支持にクリエイターたちは勇気づけられるのではないか」と、クラウザー氏は語る。

報酬のYouTubeか、バイラル化しやすいTikTokか

新たなマネタイズポリシーや敷居の低さによって、YouTubeショートは幅広く視聴されているよう。ブルームバーグ(Bloomberg)が昨年夏に発表したリポートによれば、ショートは現在、月間15億ビューを獲得しているという。この視聴回数で思い出すのが、バイラル化が容易と思われるTikTokのアプローチだ。また、視聴回数が増えれば、長めの動画を作成する気になるクリエイターも現れるようになり、これがYouTubeエンゲージメントの統計データによい効果をもたらすことも考えられる。

ラウンド(round.)のエージェンシーリードであるサイモン・フレンド氏は、「YouTubeがショートのマネタイズに乗り出したことによって、今後はクリエイターがショートで獲得する視聴回数が伸び、これが彼らのメインチャンネルの登録者数を押し上げて、数字全体のアップにつながる可能性がある」と話す。そうなれば、基本的には、彼らが得る報酬は大きく増えるだろう。

とはいえ、YouTubeショートはどのクリエイターにとっても扱いやすいものではない。ビリオン・ダラー・ボーイなどのエージェンシーは、エージェンシーやブランドがYouTubeの最新プログラムから利益を上げることに乗り気になっていると断言しているが、それだけではクリエイターを納得させるには不十分かもしれない。不安材料は、報酬にではなく、ショートの機能にある。

フォーエバーサミー氏によれば、TikTokに比べると、YouTubeショートにはいまも編集機能に限りがあるという。「編集のスタイルやフォーマットに関しては、TikTokのほうがはるかにバラエティに富んでいる」。

さらには、TikTokなら、誰もがコンテンツをバイラル化できる。この機能があったからこそ、クリエイターたちが大挙してTikTokへ流れ込んできたのだ。フォーエバーサミー氏が指摘するように、YouTubeショートでバイラル化をめざすとなれば、TikTokよりもはるかに長い時間がかかる。

フォロワー数=報酬ではない

それでもこの事実は変わらない。今日までショートフォーム動画のクリエイターをもっとも集めてきたのはTikTokかもしれないが、フォロワー数=報酬ではない。そして、結局のところ、報酬こそがクリエイターが求めているものなのだ。

「もし私がTikTokインフルエンサーなら、すぐにコンテンツをYouTubeショートへ回すだろう」と、ザ・ソーシャル・スタンダード(The Social Standard)の創業者でCEOのジェス・フィリップス氏は語る。「クリエイターが放っておいてもYouTubeから報酬を得られるようになれば、TikTokが厳しい戦いを強いられるのは必至だ。TikTokでの彼らは、わずかばかりの報酬を手にすることやブランドが手を挙げてくれることを期待してコンテンツ制作に励んでいるのだから」。

[原文:In the platforms’ arms race for creators, YouTube Shorts splashes the cash

Krystal Scanlon(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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