プライバシーは現代のデジタルメディア部門が直面する唯一かつ最大の課題だ。広告主がアクセスできるオンライン情報の範囲について国民の不安が高まるなか、各国政府が対策を急いでいる。
この世界的な動きは、CPRA(カリフォルニア州プライバシー権法)やGDPR(EU一般データ保護規則)といった略語を生み出し、インターネット最大のプラットフォームが、初期の頃のデジタルの正統性を覆すような変化を遂げ、今やマーケティング情勢に忘れがたい刻印を刻み込んでいる。
「Google Chrome」に搭載されている広告ターゲットツールの「代わり」を探求することを目的とした、Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)への取り組みは、多くの批判にさらされている。だが、Googleを手厳しく批判する人たちさえ、よりプライバシーを重視した時代を切り開いてきたAppleのアプローチのほうが、はるかに痛手となることを認めるだろう。
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実際、Appleのプライバシーポリシーを策定した人々は、1月下旬、業界団体の主要な年次集会で、IAB(インタラクティブ広告協議会)のCEOであるデビッド・コーエン氏によって、「広告業界を潰す」ことを使命とする「政治的なご都合主義者」というレッテルを貼られたと報じられている。
もっとも、このような対立的な表現に全員が完全に同意しているわけではない。
業界関係者が匿名で本音を語るDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、大手メディアの幹部が、この大きな反響を呼ぶ問題に対する考えを語ってくれた。記事は、わかりやすくするために編集を加えてある。
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――業界関係者たちはAppleについてどう考えているのか?
Appleは内なる敵だと公言する人もいるが、私はそこが難しいところだと思う。多くの人がこのようにいう。「Appleユーザーとして、彼らが行っていることが好きだ……」と。
つまり、データプライバシーに真剣に取り組むという点では、ユーザー基盤との信頼関係を構築するうえで、彼らははるかに優れたやり方をしてきた。皮肉なのは、業界のほかの部分が長年にわたってもっと真剣にプライバシーに取り組んでいれば、このような混乱は起きなかったはずだということだ。だから、彼らに敵というレッテルを貼るのは行き過ぎかもしれない。
誰もが彼らの考え方や関わり方を知りたいと思うはずだが、それが実現するかどうかは怪しいものだと私は思っている。
――こうしたプラットフォームは、その規模からして事実上のグローバル規制当局だという人は多いが、それについてどう考えるか?
米国全体、いや、理想をいえば全世界で機能する単一のデータ保護とアイデンティティのソリューションを考え出すのは容易なことではなく、多くの深い考察が必要となるだろう。
最新の情勢について行くことは困難であり、どこかの州や国が法案を可決するたびに、その中身が現実と一致していることはまったくない。業界が解決しようとしている課題は、将来起こりうることを予測できるほどに、十分な範囲と具体性を持つものとのバランスをどのようにとるかということだ。
――現在、業界をリードしている企業に対して、Appleがどのように挑戦していくのかが注目されているが、それについてどう考えるか?
FacebookとGoogleの2大企業だけが大もうけできる時代はもう終わりを告げたという感じがする。それは断言してもいい。しかし、これらは大企業であり、一夜にして消滅することはないし、そう考えるのは馬鹿げている。
だが、彼らには気まぐれに誰でも雇える力があると考えることは、もうないだろう。いま、マイクロソフト(Microsoft)が「ChatGPT」のようなものに投資していることが、検索ビジネスに対する本当の脅威になるかもしれないという議論が盛んに行われている。
そして、TikTokがYouTubeを脅かし、ソーシャルメディアの側面をより強化することで、今後1年間(または数年にわたって)、独占企業が自分たちのビジネスモデルをじっくり検討し始める姿を目にすることになると思う。
[原文:Confessions of a media executive: ‘As an Apple user, I love what they’re doing’]
Ronan Shields(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)