Twitter 、広告枠を無料で「特売」も出稿は戻らず:「今後、継続的なインパクトが期待できるかもしれない」

DIGIDAY

スーパーボウルのおかげで一部の広告主はTwitterに戻ったかもしれない。しかしスーパーボウルが終わった後も、そのままとどまると考えるのは早計だ。

Twitterとその主な収入源たる広告主との緊張関係は、徐々に緩和に向かいつつあるものの、完全に解消されたわけではない。何かと騒がしいイーロン・マスクのTwitter支配が生んだ両者の亀裂は、ビッグイベントひとつで修復できるものではないのだ。

それでも、数カ月前の状況よりはずっとましだ。広告主たちはこの苦境にあえぐ大手SNSを敬遠するかわりに、警戒しながらも再び距離を詰めようとしている。

Twitterによる「特売」

デジタルエージェンシーのハイトデジタル(Hite Digital)でパートナーの肩書きを持つモリー・ロペス氏は、「あるクライアントが弊社のアドバイスでTwitter広告を再開した」と打ち明ける。「Twitterはこのクライアントのブランドイメージとも合っており、ターゲットオーディエンスの規模も指標を上回る。しかも現在、クリックもインプレッションも激安なので、非常によい投資先なのだ」。

大幅な値引きはその種の効果を発揮しうる。実際、Twitterは広告主を呼び戻すために法外な値引きを実施した。その最たるものが無料の広告枠で、スーパーボウルの開催期間中、25万ドル(約3360万円)を上限に出稿した金額と同額分の広告枠を無償で追加提供した。大会期間中のCMにかかるコストに比べれば、大した額とは思われないかもしれない。しかし、Twitterでプレロール、テイクオーバー、動画スポンサーシップなどの広告を出稿すれば、通常、広告主の費用負担は1日あたり35万ドル(約4703万円)から60万ドル(約8062万円)にのぼる。このことを考えれば、スーパーボウルの週末に使った広告費の大半は、この値引きで賄(まかな)うことができる。

この「特売」により、大企業がTwitterで出稿したスーパーボウル広告のうち、実際に彼らの広告予算で賄われたものはほんの一部に過ぎないことになる。

クリエイティブエージェンシーのメカニズム(Mekanism)でメディアとコミュニケーションの戦略を統括するキャリー・トロピアーノ・ディノ氏はこう話す。「弊社では、2月の1カ月間、出稿額と同額分の無償広告枠というTwitterの提案を、多くのクライアントに提示した。ハイテクとCPG分野のクライアント数社がこれを機にTwitter広告を再開し、目下その反響を探っている」。

Twitter広告再開の経済学

Twitterへの出稿は(少なくともいまのところは)マーケターにとって掛け金の小さい投資だ。それでも、彼らの多くは依然としてTwitter広告の再開に釈然としない気持ちを抱えている。イーロン・マスク氏がTwitterを混乱に陥れても、ユーザーの大規模なTwitter離れは起きていない。それどころかまったくの逆だ。マーケターたちもこの事実は承知している。それでも、自称「言論の自由絶対主義者」たちがTwitterに監視の目を向けるなか、自社の広告を危険にさらすわけにはいかない。

トロピアーノ・ディノ氏もこう明かす。「いくつかの保守的なクライアントは、ブランドセーフティの問題やTwitter広告の再開が自社の評判に与える影響を懸念して、Twitterの提案するボーナス広告枠を利用していない」。

Twitterとしても、新たなチェックアンドバランスの仕組みを設けるなど、こうした懸念の払拭に努めてきた。しかしこれまでのところ、彼らの取り組みが奏功しているようには見えない。広告主の関心を集めることはできても、完全な出稿再開までの道のりは険しそうだ。

「イーロン・マスクは馬鹿ではないし、Twitter自体も以前よりよくなるだろう」。そう話すのは、Twitterとの取引関係を考慮して、匿名で取材に応じたあるメディアエージェンシーの投資担当役員だ。この人物の見立てでは、マスク氏が立て直しの取り組みから一歩身を引いて以降のここ数週間、Twitterの広告事業は安定に向かっているという。「ブランドが安全に出稿できる状態に戻れば、広告事業もうまく回るようになるだろう」。ほかのマーケティング関係者もこの見立てに同調する。

広告主は今後の大型イベントでのユーザー動向に注視

一方、デジタルマーケティングエージェンシーのインフルエンシャル(Influential)で最高経営責任者(CEO)を務めるライアン・ディタート氏は、「広告主たちのあいだでTwitterが復権するのはまだ先のことだ」と話す。同社と取引のある広告主たちも同意見のようだ。「実際に出稿するか、あるいは傍観を決め込むかは別として、広告主たちはアカデミー賞をはじめ、このさき数カ月におこなわれる大きなイベントに目を向けて、そのまわりに発生する会話の動向を注視している。ヘイトスピーチや政治的論争といった懸念材料が、イベントをめぐる会話に広く波及するのか否かを見極めたいのだろう」。この傾向は当面続くものと思われる。

Twitterの広告販売を統括するクリス・リーディ氏は、「限られたリソースでできることは、むろん限られている」と話す。いまのところ、広告主に出稿再開を促すTwitterの取り組みは、広告主の出費を最低限に抑える大幅値引きと、予約型広告を購入した広告主への高額な広告クレジットの提供に終始する。洗練された売り方ではないが、マスク氏にとっては目的を達成するための手段である。そして、その目的とはキャッシュフローや売上の向上であり、収益性の改善ではない。もちろん、いずれこの状況は変わるだろう。

しかし当面、マスク氏から広告主へのメッセージは、明確に発言されたわけではないが、黙示的には明確だ。そのメッセージとは、「これは新しいTwitterだ」というもの。マスク氏の新しいルールに従うなら、広告主にもチャンスはある。従わないとしても、同氏にとってはどうでもよいことなのだ。

ハイトデジタルのロペス氏はこう話す。「これぞマスク氏だ。彼には失うものが何もなく、Twitterもそのような姿勢で運営している。大手広告主の支援の有無にかかわらず、Twitterに対する自らのヴィジョンを貫き通すつもりだ。賛否はともかく、少なくとも、興味深い現象が起きていることは確かだ」。

Twitter支持派の声

一部の広告主は間違いなくTwitter支持だ。マスク氏の型破りな経営手法をよそに、彼らはTwitterへの出稿を続けてきた。

「客観的に見て、イーロン・マスク氏がTwitterを掌握して以降、Twitterに大きな変化があったかどうかと聞かれたら、『なかった』と答えるだろう」。そう語るのは、アボカドス・フロム・メキシコ(Avocados From Mexico)でマーケティングとイノベーションを担当するバイスプレジデントのイヴォンヌ・キンザー氏だ。「確かに、有益でないコンテンツ、あるいはTwitterに備わる各種の機能でもっとうまく規制できるはずのコンテンツも一部にはある。しかし、この状況はマスク氏以前からあるものだ」。

アボカドス・フロム・メキシコは、マスク氏がTwitterのトップに就任し、まず間違いなく同氏のせいでヘイトスピーチとフリースピーチの線引きが曖昧(あいまい)になってしまっても、安易な逃避に走らなかった広告主のひとつだ。逃げる代わりに、同社はTwitterへの出稿を続けた。その金額は年間のデジタル広告予算の20%に相当する。キンザー氏にとって、大型のイベントでインパクトの強いアクティベーションをおこなうには、やはりTwitterが最適の場所なのだ。同氏はこう説明する。「弊社がブランドとしてすべきことは、世論を二分するような論争とは距離を置き、あくまでも自社のブランドと製品に注力することだ」。

分断を招く会話を遠ざけたいなら、Twitterでは伝統的な入札形式による広告購入を避けるべきだ。実際、一部のマーケターは入札を避けて、厳選したパブリッシャーコンテンツ、もしくはブランドセーフティ違反が起こりにくいトラフィックの多いスペースに広告を出稿している。もちろん、このような買いつけは割高になりがちだが、値引きのおかげで余分なコストも相殺しやすい。

スーパーボウルでも、広告主たちはこの方針を実践した。彼らのプレロール広告は、過去のスーパーボウルの名場面を集めた75の動画クリップ、および試合に至る1週間の映像とその解説動画に表示された。さらに、生中継と翌日配信のハイライト映像10本でも、広告を配信することができた。

ベイシステクノロジーズ(Basis Technologies)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるカエラ・グリーン氏はこう語る。「エンゲージメント率の高さもさることながら、その料金にはいつも驚かされる。もちろん、地域やパブリッシャーにもよるが、エンゲージメントにかかるコストはインフィード広告よりも90%低く、CPMは最大で20%改善した。その一方で、リーチが伸びていること、さらには広告購入と並行しておこなったKPIの改善度調査の結果を見ると、Twitterの強みを十分に活かすことで、将来有望で継続的なインパクトが期待できることもうかがえる」。

[原文:Despite a surge in Super Bowl ad dollars, Twitter’s ad rehab is a work in progress

Krystal Scanlon and Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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