市販薬乱用の子どもが増える背景 – 不登校新聞

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 不登校でも本当に大丈夫なの?不登校の子どもを持つ親であれば、誰しもが抱える悩みの根本について、精神科医・松本俊彦さんは「不登校は子どもたちが生き延びるための戦略であると捉えることが重要」と指摘します。松本俊彦さんが語る「不登校の意味と必要性」について、松本俊彦さん自身の研究調査を踏まえて解説するとともに、「まずは親が大丈夫」と思えるようになるためのコツについても紹介します(※写真は松本俊彦さん)。

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 本日は「不登校でも本当に大丈夫なの?」というテーマについてお話するわけですが、私は「不登校でも大丈夫」という前に「不登校はときに必要である」と考えています。その点について、いくつかのデータを示しながらお話したいと思います。



【スライド1】

 まずは、スライド1を見ていただければと思います。

 これは2016年から2020年までの児童生徒の自殺者数を示した折れ線グラフです。上から総数、高校生、中学生、小学生の順です。みなさんご承知の通り、わが国の自殺者数は1998年に年間3万人を越え、10年以上に渡ってそれを下まわらない状況が続きました。2012年に3万人を切ってからは減少傾向にありますが、それはあくまでトータルの話です。折れ線グラフを見ていただくとわかる通り、子どもの自殺はじわじわ増え続けています。しかもコロナ禍以降、急激に増えています。とくに2020年、高校生の女子生徒の増え方は前年比の2倍です。

 そうしたなかで、週刊誌でも特集が組まれるなど、社会問題となっているのが「トー横キッズ」です。コロナ禍でステイホームが叫ばれるなか、以前から家族関係が悪かった子どもたちが居場所を失い、新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビル近辺に集まっているんです。子どもたちはそこでリストカットをしたり、市販薬を乱用したりしています。なかには、死にたいと思う者どうしで意気投合し、集団自殺をする事件も起きており、安心してすごせる居場所がない子どもたちの存在が大きな問題になっています。

10代の薬物依存、市販薬が約6割

 つぎに、私の専門が薬物依存症ですので、さきほどお話した市販薬の乱用をめぐる子どもたちの現状についてお話したいと思います。私は2年に1回、全国の精神科で治療を受けている患者さんの資料をすべて収集して研究する取り組みを続けています。そのなかで10代の患者さんのみに絞り、どんな薬物を乱用しているのか。年代別・種類別に分類したものがスライド2です。



【スライド2】

 2014年のデータを見ると、もっとも多いのは脱法ハーブなど、いわゆる「危険ドラッグ」(48%)であり、全体のおよそ半分を占めています。その後、危険ドラッグに対する規制が強化されて入手しづらくなるにつれ、2016年には16・7%までに減少し、2018年には0%になりました。

 他方、2016年から増えているのが「市販薬」(25%)です。2018年には41・2%、2020年には56・4%と急激に増加していることがわかります。ここでいう「市販薬」とは、ドラッグストアで誰もがかんたんに入手できるもの。たとえば「エスエスブロン錠」「パブロン」「ルル」といった、みなさんも1度は服用したことがあるであろう咳止め薬や風邪薬です。

 変わってきたのは薬物の中身だけではありません。薬物を乱用する子どもたちの背景も変わってきています。2014年と2018年を比べてみます。2014年に危険ドラッグを乱用していた子どもたちを見ると、高校を卒業した者は1割にも満たず、大半が高校を中退しているか、あるいはそもそも高校に通っていません。非行歴がある子どもも半数に達することから「危険ドラッグイコール非行問題のひとつ」と捉えることができました。

 かたや、2018年に市販薬を乱用していた子どもたちを見ると、半数が高校に在籍中か、高校を卒業しています。非行歴もまったくと言ってよいほどありません。つまり、はた目には、まじめな子・よい子・学校になじめている子のように見えるわけです。

 ただし、実際はそうではありません。彼らのなかには、適応障害やトラウマなどのメンタルヘルスに関係する問題を抱えていたり、「自閉スペクトラム症(ASD)」などの発達障害に起因する生きづらさを抱えていることがわかっています。つまり、市販薬を乱用している10代の子どもたちは、がんばって学校に通い、しんどい状況にも過剰に適応しようと無理を重ねている子どもたちである可能性が高いのではないか、と私は考えています。

 しかし、その行動には大きな心の痛みを伴います。それをすこしでもやわらげるために市販薬を大量に服用しており、結果として薬物依存症になっているのではないか、と私は見ています。これが薬物医療の臨床現場で私たち医師が出会っている10代の子どもたちの現実です。「市販薬の乱用なんてもってのほか」と、大人が頭ごなしに叱責することで解決するような問題ではないとつくづく感じています。

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