新しいオーディエンスを求めて TikTok に押し寄せるニュースパブリッシャーたち

DIGIDAY

TikTokに魅了されているのは広告主だけではない。ニュースパブリッシャーも仲間に入れてほしいと考えている。

TikTokでコンテンツを制作するニュースパブリッシャーはひたすら増え続けているが、いくつか名前を挙げるとすればウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)、ワシントンポスト(The Washington Post)、スカイニュース(Sky News)などがある。コムスコア(Comscore)のニュースパブリッシャー上位50社のほとんど(78%、正確には39社)が、過去2年の間にTikTokにアカウントを新設している。

各社のコンテンツ戦略の意図

ただしこれは「動画への転向」と呼ぶべきものではない。もっとローリスク・ローリターンな動きだ。たしかに、パブリッシャーはコントロールの効かないプラットフォーム向けの動画の制作を増やしているが、それは広告収入を狙ったものではない。狙っているのは新しいオーディエンスだ。その投資にリスクやリターンがあるとすれば、それは試行やマーケティングでのものに限られる。この点は、ニュースパブリッシャー各社がTikTokで展開するさまざまなコンテンツ戦略を見ても明白だ。

たとえばCNNの例をみると、2021年9月以来846本、週平均14本の動画を公開している。これまでのところ、これらの動画のおかげもあってかCNNは130万人のフォロワーと1130万のいいねを獲得している。

米国のニュースサイトであるデイリー・ワイヤー(The Daily Wire)の例もある。CNN同様、2021年10月から全部で812本の動画を制作している。ただ、TikTok開始はCNNに1カ月遅れるものの、その存在感ははるかに大きく、現時点で280万人のフォロワーと6300万のいいねを誇る。

いいねやエンゲージメントがより重要

この2社の違いは何か。コンテンツの種類と長さだ。

CNNが、日々のニュースから新着情報を抜粋した、長いものでは約10分の動画が中心であるのに対し、デイリー・ワイヤーは面白ニュースに的を絞った1分ほどの動画でTikTokのトレンドやフィルターを活用する。TikTokで精力的に発信するだけでは効果は限られる。本当に生き残っていけるパブリッシャーとなるには、動画そのもののコンテンツで差をつけていかなければならない。

とはいうものの、そのために何をすればよいのか、答えを見つけるまでには時間がかかる。とくに、ニュースはTikTokにとって本来必ずしも相性のよいものではない。相性がよいのは娯楽コンテンツだ。このため、ユーザーの動画投稿に対するいいねやエンゲージメント(コメント投稿や共有)がより重要になる。最終的には、何がFor Youページに掲載されるかに影響するからだ。

エンダーズ(Enders)のシニアメディアアナリストであるジェイミー・マキュアン氏は、次のようにコメントしている。「パブリッシャーは、TikTokではほかのプラットフォーム以上にコンテンツに対するコントロールが効かないことを覚悟する必要がある。動画をアップロードした当日にそれが広く共有される保証はない」。

ワシントンポストの進出

それは、ワシントンポストのTikTok動画担当者たちが、相手の目線で考えることやTikTok用のコンテンツを制作することを常に口にする理由でもある。同紙では、オリジナルシリーズやコメディ投稿、あるいは硬めの内容のものなど、長短混ぜてTikTokに動画を公開している。たとえば、不正確なニュースに対抗するため、「Misinformation Mondays(偽情報の月曜日)」と名付けられたトレンドに参加している。

さかのぼること2019年5月にアカウントを開設したワシントンポストは、コーリー・ブッカー上院議員とワシントンポストのデイブ・ジョーゲンソン氏(シニアビデオレポーター)が出演する15秒のコメディ動画からもわかるように、TikTokに力を入れた最初のパブリッシャーのひとつだ。この動画はかなり話題を呼んで拡散し、やがてアトランティック(The Atlantic)誌にも取り上げられた。以来、ジョーゲンソン氏と彼のチームは1918本の動画を投稿し(毎週約11本の計算になる)、フォロワーは150万人、いいねは6990万に上っている。

ジョーゲンソン氏によれば、彼のチームは1日に約2本の動画を、だいたい米国東部標準時の午後12時から午後6時の間にTikTokにアップロードする。西海岸の朝の早い人々に、東海岸では日中を通して、ワシントンポストにとって2番目に大きな市場である英国では夜くつろいでいる人たちに見てもらうためだ。「ワシントンポストが撮影した横長の映像など、ほかからの映像をTikTok用に加工することはほとんどない。TikTokのためにiPhoneで撮影されたかのように見せたいからだ」とジョーゲンソン氏は語る。

対象オーディエンスに対して、適切なトーンであること

このようなコメントは想定内だ。多くのパブリッシャーにとって、これは初めての試みではない。パブリッシャー幹部たちが、新しいプラットフォームが登場するたびに繰り出すお決まりの言葉を並べ立てるのは当然のことだ。だが、TikTokは普通のプラットフォームではない。ほかのプラットフォームとは異なり、コンテンツに基づくアルゴリズムが備わっている。つまり、前面に押し出す価値のある動画だとアルゴリズムに認識してもらうには、動画が視聴者にウケなければならないのである。

英国パブリッシャーのラッドバイブル(LADbible)は、ユーザーが作成したコンテンツやオリジナルコンテンツを織り交ぜて、TikTokに1日約5回から10回投稿している。ラッドバイブルグループのTikTok担当責任者のレベッカ・タイレル氏は「適切なトーンであることが極めて重要なので、グローバルなクリエイティブはTikTokで当社の調査パネルに見てもらい、メッセージが対象オーディエンスに対して可能な限り効果的であるかどうか確認することが多い」と話す。

常にテスト、学び、改善のサイクルを繰り返すことで、成功するコンテンツに磨きをかけ、制作でのリスクを取り除き、ラッドバイブルのグローバルなオーディエンスに対し成功を収められるようにしている」と続け、「ただし、クリエイターのコンテンツを公開しなおすだけでは十分ではない。オーディエンスは何がバイラルに拡散しているのかを知り、新しい話題を発見して、全体の会話に参加したいと思っている」という。

TikTok用のコンテンツに注力

TikTokで目を引くコンテンツを制作する鍵は、作り物ではないTikTok用のコンテンツに注力すること、そしてパブリッシャーのブランドに忠実であることだ。それは、ベテランのパブリッシャー幹部であっても簡単にできることではない。とはいうものの、BBCの計画が示すように、成功者が出てくる兆候は明らかに見られ始めている。

たとえば、BBCにとって大きく重要なニュースとその背景・解説は、TikTokでも成功する。こう話すのはBBCニュース(BBC News)のデジタルディレクターであるナジャ・ニールセン氏だ。同氏は9月9日の英国女王エリザベス2世の葬儀を例として挙げた。

リニアTVで葬儀までの様子が放送されるかたわらで、BBCはTikTokで当日までの英国内と英国周辺の様子をつぶさに発信した。「あまり加工されていない生の映像のライブ配信に関連してフォロワー数が大きく増えた」とニールセン氏は話す。

多くのパブリッシャー同様、BBCもTikTokに関してはまだ学習中だと考えている。そのデジタル担当チームは、TikTok戦略の詳細をまさに詰めているところだ。だがこの状態はそう長く続かないだろう。BBCは社内のソーシャルニュース部門にTikTokのチームを設置するため、ジャーナリスト4人の求人広告を1月第二週に出している。ニールセン氏は「増員は、TikTokでの最初の年に学んだことを通常業務のなかに取り込んでいくため」と話す。

実際、このような認識はほかのパブリッシャーでも同じである。ラッドバイブルではすでに30人ほどの幹部が、オリジナル作品からブランドコンテンツのプロデュースまで、TikTok用のコンテンツ制作に従事している。ワシントンポストも、2021年に社内横断的なタスクフォース「Next Generation」を立ち上げ、全体的なTikTok戦略の一部としている。最初にTikTok用のコンテンツを制作するレポーターもいるそうだ。その後、そのうちのどれを紙面に掲載するかを検討する、というわけだ。

[原文:News publishers are flocking to TikTok as they continue to search for new audiences

(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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