2023年の到来とともに美容業界規制の新しい時代が幕を開けた。
美容業界を規制する新しい法律が成立
バイデン大統領は、2022年12月30日、1兆7000億ドル(約217兆円)に相当する4155ページの膨大な歳出法案に署名した。これにより米国政府は9月まで資金を維持できる。うち約3500ページをカバーしているのが「2022年の化粧品規制近代化法(Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022)」で、美容業界に対するより大きな権限が米国食品医薬品局(以下FDA)を通して連邦政府に与えられることになる。これは、規制や要件の基準を引き上げるスタンダードの多くを推進するための、議会内のクリーンビューティセクターと公的領域からの長年にわたるアドボカシー活動の集大成である。
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ビタミンブランド、リチュアル(Ritual)の最高影響責任者、リンジー・ダール氏は次のように述べている。「化粧品やパーソナルケア製品の製造方法を変える実質的な政策ができたことは有意義な前進であり、アメリカ国民が特定の化学物質に暴露している状況も変わるだろう。化粧品が消費者にとって安全であることを保証するためにほかの規制を可決すると同時に、この法律で多くの前進があったことは励みになる」。ダール氏はリチュアルで働くずっと前からこの法律を支持していたと述べている。
拡大するFDAの権限やテスト要件
この改正法にはいくつかの重要な変更と更新がある。例を挙げると、FDAには消費者にとって安全ではない製品の強制的なリコールを発令する権限や、香料アレルゲンの開示に関する企業向けの規則を設ける義務がある。さらに、プロのサロン用製品は新たに成分を開示しなければならず、また企業は安全性証明がアクセスできるようにして特定の成分が安全に使える根拠について示さなければならなくなる。
そのほかのマイナーな変更には施行後1年以内に国内外の美容製品メーカーの登録義務がある。これは、FDAがリコールを発令したりほかの問題を調査したりする際に役立つ。また、FDAは化粧品の適正製造基準(GMP)を確立する予定だ。GMPは日焼け止めやフケ用シャンプーなどのOTC医薬品に対してはすでに義務付けられている。GMPにより製品が品質基準に従って一貫して製造・管理されることが保証される。FDAは2024年末までに提案された規制を公開して、2025年末までに最終決定が提案される予定である。
新しい法律の下で、FDAは身体や環境によって処理・除去できない「永遠の化学物質」と呼ばれるPFAS化学物質の安全性も研究しなければならない。ペルフルオロアルキル物質とポリフルオロアルキル物質の略であるPFASは、洗浄製品、ノンスティックの調理器具、パーソナルケア製品など一般的な製品の一部に含まれている。これらの化学物質はグリースや水や油脂を取り除き、熱に抵抗するのに役立つものだ。また、FDAは、タルク内で自然に発生するアスベストを検査するための標準検査要件を確立しなければならない。
美容製品の成分と健康への悪影響
過去10年間で美容製品の成分に関して多くの情報が知られるようになり、メディアに大々的に取り上げられている。2017年と2019年にはジャスティス(Justice)とクレアーズ(Claire’s)の小売業者2社のアイシャドウパレット3点からアスベストが検出された。しかし、FDAはその時点では製品を使わないようにと消費者に忠告することしかできず、2社は自発的に製品を店舗から撤去した。2022年の調査ではケミカルヘアストレートナーに子宮がんのリスクがあることが示唆されており、特に黒人女性は影響を受けやすい。その調査ではヘアストレーナーを使っていると報告した参加者の60%が自分は黒人女性であると答えていた。しかし、もっとも物議を醸している最大の話題はジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)のベビーパウダーと、そのタルク処方にがんやほかの病気を引き起こすアスベストが含まれているかということだ。ジョンソン・エンド・ジョンソンは2020年、米国とカナダにおいてタルクが含まれたベビーパウダーの販売を中止、消費者からはコーンスターチで作られた製品が好まれていると述べている。同社はほかの国々ではまだタルクベースのベビーパウダーを販売している。
成分の禁止や制限は今回の法律に含まれておらず、サプライチェーンの透明性は義務付けられていない。ダール氏はマイノリティコミュニティは美容製品の悪影響にさらされることが多いと指摘している。しかし、特にBIPOC(黒人、先住民、有色人種)の消費者を保護したり、彼らが使用する可能性が高い製品に影響を及ぼす法規定はない。
法律遵守のためにブランドが受ける影響
化粧品化学者で化粧品化学者協会(the Society of Cosmetic Chemists)の元会長であるケリー・ドボス氏は、「率直に言って、この法律の大部分は米国で事業を展開している責任あるブランドやメーカーがすでに行っていたことに対して権限をFDAに与えているものだ。小規模なインディブランドにもっと大きな影響があるだろう。そのようなブランドは契約メーカー、特に米国外のメーカーに法律のコンプライアンスを確認する必要がある」。
しかし、特に「クリーン」なインディブランドの多くは、セフォラ(Sephora)、デトックスマーケット(Detox Market)、クレドビューティ(Credo Beauty)といった小売パートナーによって決められたクリーン基準を遵守しているか、同様の基準を独自に実践していることを考えるとそれほど影響がないかもしれない。クレドビューティの持続可能性・インパクト担当バイスプレジデント、ミア・デイヴィス氏は、クレドビューティのクリーン基準を順守する責任を負うのはブランドであり、これはメーカーに対して影響力があまりない小規模なブランドにとっては課題だと述べている。この法律は責任の一部をメーカーに負わせているため、インディブランドや小売業者には支援になる。デイヴィス氏によると、新しいFDA基準を順守・更新するためのコストに関してはケースバイケースである可能性が高いという。
「クレドクリーン(Credo Clean)基準はすでにこの法律よりも堅牢なのだが、法律はシステムを強化して体系化しており、それはいつでも助かるものだ」とデイヴィス氏は述べ、さらにこう続ける。「この法律は多くのイノベーションを直接義務づけたり促進するものではないが、(その代わりに)業界の基準を良い方向にさらに高めるのに役立つ。ハードルを高くなったので(よりクリーンな)未来に向けて前進すべきだというシグナルが業界に向けて送られている」。
[原文:Welcome to a new era of cosmetics regulations]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)