美容YouTuberのコラボモデルが TikTok で苦戦する理由

DIGIDAY

TikTokの美容インフルエンサーは、主な売上の急上昇を牽引していることで知られている。だが、それは必ずしも自分のブランドというわけではない。

過去数年間で、美容関連のYouTuberたちが多大な損失を招くような修羅場に巻き込まれたことで、ブランドは照準をTikTokerへと移行した。比較的健全で、バイラルな商品トレンドを生み出す能力が証明されているTikTokインフルエンサーは、明らかに新たなコラボレーションのパートナーとして台頭した。だがこの1週間、TikTokerと提携したビューティコラボやサブブランドは、相応な挫折を味わっている。近年、YouTubeインフルエンサーからTikTokインフルエンサーとのコラボに軸足を移していたモルフィ(Morphe)は1月上旬、米国内の全店舗を閉鎖、親会社のフォーマ・ブランズ(Forma Brands)は1月12日に破産申請を発表した。また、セルフレス・バイ・ハイラム(Selfless by Hyram)とアディソン・レイ氏のアイテム・ビューティも、セフォラ(Sephora)から撤退することが1月上旬に明らかになった。

インスタグラムやYouTubeとは完全に異なるTikTok

「TikTokのアルゴリズムは、ひと握りのインフルエンサーだけに投資するのではなく、『For You』ページを通じて新しいコンテンツを探索するよう、ユーザーを駆り立ててきた」と語るのは、ソーシャルメディアプロダクションエージェンシーのハローゼアコレクティブ(Hello There Collective)の創業者、ジェシー・ルービンスタイン氏だ。「(これは)インスタグラムやYouTubeでのインフルエンサーとのインタラクションとは完全に異なっている」。

複数の物議を醸した事件を受けて、モルフィは2020年にジェフリー・スター氏、そして2021年にジェームズ・チャールズ氏との関係を断った後、TikTokで最大のインフルエンサーたちにコラボモデルを持ち込んだ。2020年のモルフィ2のローンチにはダミリオ姉妹を起用、最近ではチャーリー・ダミリオ氏によるフレグランス、ボーンドリーマー(Born Dreamer)を販売している。そのほかにも、2021年にアバニ・グレッグ氏、2022年3月にメレディス・デュクスベリー氏、2022年10月にアビー・ロバーツ氏といったTikTokのインフルエンサーコラボを行っている。一方、アディソン・レイ氏のアイテム・ビューティは2020年にイプシー(Ipsy)からローンチされ、翌年セフォラに進出した。スキンフルエンサーのハイラム・ヤーブロ氏のブランド、セルフレス・バイ・ハイラムは、セフォラ独占として2021年にジ・インキー・リスト(The Inkey List)が売り出している。

ヤーブロ氏はGlossyに対しメールで、「方向性の変化と小売りの調整により、セルフレス・バイ・ハイラムの製品はセフォラでは終わりに近づいている」と認め、「製品ラインを消費者がもっと手にしやすい新たな小売りに進出する計画がある」と述べた。セフォラとイプシーはアイテム・ビューティについてコメントしていないが、Business Insiderのレポートでは、業界関係者がセフォラから撤退することを確認したと述べている。Sephora.com上のアイテム・ビューティの全商品は、1月12日の時点で50%以上割引されている。

現在、ダミリオ姉妹はもはやモルフィ2には関与していない。 ヤーブロ氏のインスタグラムとTikTokのプロフィールは、彼の新しいコーヒーブランドを宣伝しているだけである。レイ氏のバイオにはアイテム・ビューティの紹介はないが、TikTokのプロフィールでは彼女のフレグランスブランドにリンクしている。

ただインフルエンサーと組み合わせて成功できる時代は終わった

新たなTikTokブランドやコラボの波は、多くのYouTuberコラボや美容ブランドが著しく減少したタイミングで現れた。モルフィの企業プレゼンテーションを引用したブルームバーグ(Bloomberg)のレポートによると、モルフィがチャールズ氏やスター氏との関係を断ち切る決断を下したことで、チャールズ氏やスター氏、ジャクリン・ヒル氏に関連する製品は、2021年の最初の10カ月で66%の収益減少につながったという。美容ユーチューブ初の「ドラマゲドン」と呼ばれるスキャンダルの火種となったことで知られるタティ・ウェストブルック氏は、2021年11月に自身の美容ライン、タティ・ビューティ(Tati Beauty)を閉鎖した。美容系YouTuberのマリーナ・ステル氏が創業したメイクアップギーク(Makeup Geek)は2022年4月に閉鎖している。

「ジャクリン・ヒル氏やジェームズ・チャールズ氏のようなインフルエンサーとのコラボレーションは、忠実なファンベースがあるため、非常に特定のデモグラフィックに向けたものだった。そうしたインフルエンサーが美容業界におけるレレバンスを失い、市場がほかの人々で飽和するにつれ、信憑性が失われていく」と、デジタルマーケティングエージェンシーのハイヤーヴィジビリティ(Higher Visibility)共同創業者、アダム・ハイツマン氏は指摘している。

一部の専門家によれば、近年、インフルエンサーやセレブリティによる美容ブランドが大量に出現しており、全体的に市場での競争が以前にも増して激化している。

「この分野はすでに混雑しており、新しいインフルエンサーブランドがローンチされるたびに、消費者の疲れと懐疑心が高まっている」と述べたのは、ベンチャーキャピタルスタジオ兼ブランドインキュベーターのジョビ(Jobi)の共同創業者でセレブリティブランド専門家、ライアン・ネルソン氏だ。「平凡な製品をローンチして、それを誰でもいい、たまたま取引したインフルエンサーと組み合わせて成功できるという時代は終わった」。だが、彼はセレブリティブランドのモデルが完全に終了したとは感じていない。ジョビはコートニー・コックス氏のホームコート(Homecourt)のローンチに携わり、ケイト・ハドソン氏のインブルーム(Inbloom)に投資している。

TikTokはスピードが早く、忠実なファン層を築くのは困難

専門家は、従来のYouTubeインフルエンサーのブランドモデルが、TikTokのインフルエンサーに必ずしも通用するとは限らない点を指摘している。TikTokインフルエンサーがバイラルトレンドを通じて売上に大きな影響を与えているのは間違いない。たとえば、デュクスベリー氏とミケイラ・ノゲイラ氏の投稿がバイラルとなったおかげで話題を呼んだMACコスメティックス(MAC Cosmetics)のマスカラ、マックスタック(MacStack)は、エスティローダーカンパニーズ(Estée Lauder Companies)の第3四半期決算報告にて売上を牽引したとされている。

TikTokerのブランドも、バイラルな商品となった瞬間が見られた。アイテム・ビューティのリップグロス、リップクイップ(Lip Quip)は、2022年7月にレイ氏から始まったバイラルトレンドで売り上げが伸びたが、それでもセフォラにこのブランドを留めておくことはできなかった。

「TikTokはスピードが速いという性質があるため、忠実なファンという安定した感覚を生み出すのは困難だ」とハイツマン氏は言う。「動画は、次の動画に移る前にすばやくエンゲージされるように投稿される。更新するたびに新しいユーザーの波に動画を紹介するアルゴリズムになっているので、フォロワーのクリエイターとのエンゲージメントが低くなりがちだ。他のプラットフォームでは、フォロワーを増やすのにもっと長い時間がかかり、深い関係性を築かなければならないのに対し、TikTokはフォロワーをすばやく増やすように準備されていて、もっと希薄なつながりで済んでしまう」。

モルフィからはこの記事に対するコメントをもらえなかったが、過去に同社の幹部は両プラットフォームの違いを認めている。2021年のGlossyとのインタビューで、フォーマ・ブランズの当時のCEOマイルス・マコーミック氏は「TikTokはもっとディスラプティブなコンテンツになる傾向があり、コンテンツクリエイターも違う」と述べている。彼は2022年1月に同社を退職した。

TikTokでのインフルエンサーコラボの戦略

専門家は、ブランドがTikTokのインフルエンサーコラボに飛びつく前に、戦略をじっくり考え抜くよう勧めている。ネルソン氏によると、多くのインフルエンサーブランドは「差別化のポイントが欠けており、中途半端にしか実行されていないことがある 」。企業はこの差別化ポイントに加え、新しいブランドとの「オーセンティックなブランドフィット」と「強力な実行」を確実にする必要があると、彼は述べた。あるいは、ブランドはほかの方法でTikTokインフルエンサーと協力することができる。

「コンテンツを『For You』ページに押し出すTikTokのアルゴリズムにより、マイクロインフルエンサー戦略はTikTokにとって最高のリターンをもたらす」とルビンスタイン氏は言う。「YouTubeからのこうしたアルゴリズムの転換によって、美容ブランドは幅広いアプローチを取り、多様なクリエイターのグループと大規模にリーチを促進することができるようになっている」。

[原文:Why the beauty YouTuber collab model has struggled to translate to TikTok]

LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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