アドテク分野の大部分は、長期的かつ大幅な景気後退の気配へと急降下している。その前兆は積み重なりつつあり、成長減速が予測される。投資家の圧力、キャッシュフローの維持、そして、レイオフ。企業のこれらの見通しは、つまるところ悲観的だ。それを示す最も揺るぎないサインは、レイオフかもしれない。
その一例が、ビジネス・インサイダー(Business Insider)による2022年12月の報道だ。報道によると、アドテクベンダーのバイアント(Viant)は従業員13%のレイオフを計画しているという。このレイオフは、これまでに相次いで行われてきた人員整理の最新の例となる。インフォサム(Infosum)は従業員の12%、タブーラ(Taboola)は6%、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)は13%を削減した。ユニティー(Unity)とアップラビン(AppLovin)も、それぞれ従業員の4%と13%をレイオフしている。
これらを合わせると、ここ数カ月で約780人が職を失ったことになる。そして、すべての兆候が指し示すのは、今後もこれが続くということだ。
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さらなる人員整理の可能性
「今年は我が社でも人員整理が行われた」と、あるアドテク系非上場企業の幹部は語る。「しかし、これで済むかどうかはわからない。社内の予算要求に関しては、財務担当者にこれまで以上に念入りに調べさせている。おかげで、私の賞与制度も修正されてしまった。ここ2年間は明らかに雇用過剰の状態だったが、報いを受けることになるのではと心配している」。
テック分野ではよくあることだが、成長期間を持続しているときには増員が行われる。広告業界の減速は、こうした採用ラッシュがどれほど的外れなことだったのかを物語っている。おそらく、さらにこれが当てはまるのがアドテク分野だろう。そこでは、収益を上げる手段の大半が、分け前を与えてくれるプラットフォームへ流入する金額に基づいているからだ。
確かに、アドテク企業の幹部が減益を受け入れるケースもあれば、収益性を守るために広告費からの分配を増やすケースもあるだろう。しかし、これらの企業が人件費の削減という選択をしたというのは、その解決策が現実的でもなければ(ウォール街や投資家たちに激しく非難されることを望んでいないのであれば)、実現可能でもない(ただでさえ高いテイクレートを引き上げようとしようものなら、恥知らずもいいところだからだ)ということかもしれない。
株式公開しているアドテクベンダーの営業担当取締役(匿名希望)は、次のように語る。「我々が見るかぎり、パブリッシャーに対するバイヤーのコミットメントは、我々が仲介したアップフロントコミットメントと同様に、いまのところは100%を優に下回っている」。
しかもこの発言の主は、(少なくとも、いまのところは)人員整理など行ったことがないアドテク系上場企業の幹部だ。最大手のプレイヤーといえども、危機感を抱いているのだ。「我が社のようなビジネスでは、低迷期にはこのようなことが起こる」と、同幹部は語る。「我が社のサービスを通じてインプレッションを売るパブリッシャーは、デマンドへのアクセスを改善してくれる企業を優先しつつある。もちろん常にそうなのだが、間違いなくいえるのは、広告費を確保することに緊急性が高まってきているということだ」。
現金を保持することが苦境をもたらす
アドテク企業にとっては、かつてそうだったように、キャッシュが表に出てこなくなってきている。支払い期限が引き延ばされ、支払いの遅れも散見されるようになりつつあるのだ。ある関係筋(正式な取材許可が降りなかったため、匿名希望)によれば、一部の企業は流動性の維持に全力を尽くすようになっており、これがアドテク分野に苦境をもたらしているという。
その根拠はこれだ。金利が「基本ゼロ」のときなら、現金を保持するインセンティブはほとんどない。しかし、金利が歴史的低水準から上がり始めているいまは、現金を保持することが「基本的には利益を」もたらしうる。
メディア業界最大級の決済ソリューションプロバイダーでの勤務経験を持つ同関係筋によれば、メディア業界大手ホールディンググループ各社の経営モデルが意味するところは、彼らはできるだけ長く現金を持ち続けるように動機付けられていることだという。そして多くの場合、これが支払いサイクルの延長という結果を生み(つまり「押し出される」)、その後の苦悩がエコシステム全体に広がる。これは「よい時代」が終わりに近づきつつあることをはっきりと示すインジケーターだ。
「ある大手ホールディンググループの財務担当取締役と話したときのことを覚えている。自分の報酬は、会社(エージェンシー)の銀行口座に入っているキャッシュで会社が稼ぐ利子の額に直結していると、その人はいっていた」と、同関係筋は語る。
また、「大手のホールディンググループなら、自社の銀行口座に常時、100億ドル(約1兆3290億円)ぐらい入っていてもおかしくない」といい、「その金の大半はベンダーへの支払いに使われるべきだが、もし支払いを遅らせることができれば、さらに1カ月分の利子が得られることになる。金利が2~4パーセントの高水準なら、その額は数億ドルにも達する」という。
広告業界はどこまでシビアになるのか
もしアドテクの成長見通しが健全なら、この現状も必ずしも大きな懸念ではないだろう。問題は、その短期見通しがバラ色とはいい難いことだ。広告業界はこれから本格的な低迷に滑り落ちていくのか? それとも、広告費のこの収縮は平均水準への逆戻りに過ぎないのか? 広告業界は何カ月も前から、その見定めに頭を悩ませてきた。
さまざまな予測の修正版が出揃ったいま、本当の疑問は「この低迷は今後、どこまでシビアになっていくのか?」だ。それが明らかになるまでは、この変動期をなるべく無傷で乗り切るべく、アドテク企業は支出を抑えることになるだろう。
「昨年のM&A活動は記録的な高水準だったが、それが終わったと思ったら、今度は難しい決断を下すことを多くの企業が余儀なくされている」と、オンライン広告売上エクスチェンジのオアレックス(Oarex)でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるニック・カラビア氏は語る。「リスクが上がり、クレジットが引き締められているいまこそ、回復の前の事態の悪化に備えるべきときだ」。
たとえば、長きにわたるアドテク分野の資金源であるプライベートエクイティ投資家は、さまざまな資産で損失をこうむっている。このまま金利が上昇を続ければ、その損失は膨らむ一方だ。カラビア氏によれば、こうした投資家はしばしば自身のポートフォリオ企業に負債を負わせることが多いため、景気後退期の人員削減やリストラの影響を受けやすいという。同氏がいうように、こうした企業の多くがいるのは、滑りやすい坂道の上なのだ。「金融引き締めが続けば、それに応じて悪影響が広がり、レイオフや倒産も続くことになる」。同氏の見解は、アドテクベンダーがはまっている泥沼の広さと深さを物語っている。
損失を埋め合わせるのは困難
広告費の減速は始まりに過ぎない。CTVもリテールメディアも、広告費の損失を完全に埋め合わせることはできない。それを和らげるのが関の山だろう。またその一方には、広告主がサードパーティCookieに代わる識別子への支出を渋っているという現実もあり、ひいてはこれが一部の大手アドテクプレイヤーが設立したマーケットプレイスの収益性をむしばんでもいる。
このほかにも、Appleによるアドテクサプライチェーンの一部から収益を奪い取ろうとする取り組みや、アドテクスタックの統合など、さまざまな問題がある。そして、これらの企業が抱える流動性の問題はいうまでもない。
つまり、多くの企業にとって、回復の前の事態の悪化は必至だということだ。
コンサルティング会社のレモネード・プロジェクツ(Lemonade Projects)でエコノミストを務めるトム・トリスカリ氏は、次のように語る。「当てずっぽうしなければならないなら、おそらく段階に分けて行うことになるだろう。まず、第4四半期の広告支出がどうなったのかを確認して、第1四半期の展開を読む。これがステージ1。1月は12月よりもレイオフが増える月だが、2022年の12月はよい状態ではなかった。アドテクに関していえば、まだ終わっていないのではないだろうか」。
業界は本物の減速に飲み込まれつつある
オアレックスが先日発表したレポートには、そのことがはっきりと示されている。
アドテクにとっては、不吉以外の何物でもないが、数字を細かく見ていく前に、このレポートの重要点に触れる。過去のレポートで提出されたデータは、コロナ禍前のトレンドに沿った「巻き返し」、つまり反発の可能性を示しており、そこに減速の前兆はなかった。ところが、第3四半期の売上結果は2018年と2019年の成長水準を下回り、業界が本物の減速に飲み込まれていることが、データによってはっきりと示されている。
肝心の数字については、第3四半期の成長率の中央値はわずか5%で、コロナ禍の直撃を受けた2020年第2四半期を除くと、過去4年間でワーストだった。増収を記録したのは調査対象企業の約10分の6(63%)で、これもコロナ禍以前に比べて、かなり悪い結果といえる。そうしたなかにあって、それでも大幅増収を記録した企業も一定数ある。
オアレックスによれば、AC/インタラクティブ(AC/Interactive)とダブルベリファイ(DoubleVerify)、ゼタ・グローバル(Zeta Global)、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)、ペリオン・ネットワーク(Perion Network)、ハブスポット(Hubspot)、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)は、対前年同期比で25%超の成長率を記録したという。その対極にあるのがメディアアルファ(MediaAlpha)で、その成長率はマイナス42%だった。
[原文:Ad tech firms focus on layoffs as ad recession fears build]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)