TikTokの影響力が広告主やユーザーのあいだで強まるに伴い、議会では政府所有の端末でTikTokの使用を制限する動きが出てきたが、一部の企業やセキュリティの専門家はこの取り組みに歓迎の声を挙げている。
2022年12月中旬、連邦および州の議会では、政府職員が政府所有の端末およびコンピュータネットワークを介して、TikTokアプリを使用することを禁止する法案の可決が相次いだ。米上院での同法案可決に加え、サウスダコタ州、テキサス州、メリーランド州、さらにはアラバマ州とユタ州でも政府支給の端末を使ったTikTokの利用が禁止されている。一方、新たに発表された超党派の法案では、米国内で同アプリの利用を全面的に禁止する提案までなされている。
2年以上前から禁止措置が叫ばれる
TikTokの広報はコメントの要請にすぐには応じなかった。一方、アヴリル・ヘインズ国家情報長官やクリス・レイFBI長官らを含む米政府の高官は、中国政府が同アプリを使ってデータを収集したり、コンテンツを介してユーザーに影響を与えたりするなど、米国民に対する諜報活動を展開する可能性について新たな懸念を表明しており、これが相次ぐ立法措置のひとつの背景にもなっている。問題の多くはTikTokの親会社であり中国企業のバイトダンス(ByteDance)に端を発するもので、バイトダンスと中国共産党との深いつながりを指摘する声は一部に根強い。連邦レベルの法規制は前途遼遠だが、TikTokがマーケティングプラットフォームとして急成長を遂げる反面、こうした立法措置は長年の懸案だという声も一部にはある。
Advertisement
TikTokをめぐる懸念はいまに始まったことではない。2020年、ドナルド・トランプ大統領(当時)は、米国企業に事業を売却しない限り、同アプリを禁止するという大統領令に署名した。しかし、潜在的な買い手に関する報道はあったものの、TikTok側が米政府を提訴したことで、大統領令による禁止措置は実施されなかった。昨年、ジョー・バイデン米大統領はトランプ氏の出したこの大統領令を撤回する一方で、商務省に対して中国で設計・開発されたアプリの精査を進めるよう指示を出した(2022年6月、TikTokは米国ユーザーのデータをすべてオラクルのクラウドプラットフォームに移管すると発表した)。
連邦議会議員からも懸念の声が上がっている。たとえば、民主党のマーク・ワーナー上院議員は、「こうした禁止措置はトランプ氏がこれを提案した2年前のほうが容易だった」とさえいっている。さらに先週、米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員(共和党)は、TikTokの全面禁止を求めるマルコ・ルビオ上院議員(共和党)の超党派法案を称賛した。
カー氏は声明で次のように述べている。「TikTokは我が国の安全保障ならびに何百万という米国民の安全とプライバシーに容認しがたい危険を突きつけており、それはいまや国民の一致した見解でもある。実際、ここ数週間、幅広い分野の安全保障問題の専門家が、TikTokが米国内で精査のないまま営業していることに相次いで懸念を表明している。問題はもはや、TikTokが現在の事業を終了するかどうかではなく、いつ終了するかだ」。
セキュリティ専門家に加え、一部のマーケターも懸念
TikTokは広告主への訴求力を急速に拡大しているが、その反面、米当局が国家安全保障上の措置を講じることは賢明だというマーケターも一部にはいる。クリエイティブメディアエージェンシーのメカニズム(Mekanism)でメディアディレクターを務めるケヴィン・レンウィック氏は、政府の端末でTikTokを禁止する案に賛同するひとりだ。「政府支給の端末でコンテンツを閲覧する人々に一定の制限をかけるのは当然だ」と同氏は述べている。
「TikTokの不正行為はいくつも指摘されてきた」とレンウィック氏は話す。「もっと大きなエコシステムで、とくに地政学的に、未だ露見しないままどんなことがおこなわれているのか想像もつかない」。
マーケターは広告の配信面に限らず、もっと広い視野でブランドセーフティを考えるべきだ。そう語るのは、Facebook、モンデリーズ(Mondelez)、ニューヨークを拠点とするエージェンシーであるヒュージ(Huge)などでコンテンツとクリエイティブの責任者を歴任してきたミア・コール・テフカ氏だ。TikTokは創造性、コミュニティの構築力、使いやすさなどの面で優れているが、TikTokのプラットフォームデータ全体に対するアクセス性についても関心を向けるべきだと同氏は指摘する。
「データがどう活用され、エンゲージした結果に何が起こるのか。そこには倫理的な問題がある」とテフカ氏は話す。同氏は現在、フリーのコンサルタントとして企業によるオンラインコミュニティの構築を支援している。「グローバルブランドは中国共産党の検閲やプロパガンダをビジネスの機会とは切り離して是々非々で評価するが、TikTokに関しては、水はひどく濁っており、透明性の欠如が最大の関心事だ」。
TikTok内のAIも懸念に。 AIが人間に影響を与える?
米国でのユーザーデータの収集に関する懸念に加え、政府関係者はTikTokのアルゴリズムと動画のレコメンデーションに使うAI(人工知能)についても問題視している。
新興のAI企業であるIV.AI.の共同創業者であり、CEOを務めるヴィンス・リンチ氏は、「AIが人々に影響を与える可能性は、当事者が承知しているかいないかに関わりなく、政府がTikTokの利用を禁止する理由のひとつだ」と述べている。リンチ氏によると、AIを活用するテクノロジー企業は、これを活用する意図についてより高い透明性を確保し、どのような人々に、どのような理由でコンテンツを配信するのか詳しい情報を開示しなければならない。また、倫理的なデータモデルの構築を従業員に教育することも義務づけるべきだと主張する。
「AIが人間に影響を与えるというのは現実の話だ」とリンチ氏は話す。「中国製であるか否かは問題ではない。メタでもTwitterでも同じことがいえる」。
フリーのセキュリティ研究者であるザック・エドワーズ氏によると、議員たちはTikTok以外の脅威についても考慮する必要があるという。一例として、同氏はプッシュウーシュ(Pushwoosh)の名を挙げた。米国企業を装ったとされるロシアのソフトウェアプラットフォームで、同社が開発したコードは数多くのモバイルアプリに実装されており、なかには米国の政府機関が使うアプリも含まれているという。
「ほとんどの米国人を守るのは最小限のデータプライバシー法だ」とエドワーズ氏は指摘する。「その観点からだけでも、米国の消費者をターゲットに商品を販売する企業が外国政府と深いつながりを持つ場合、多くの人々がそのような企業に懐疑の目を向けるべきであり、潜在的に避けるべきでもある」。
一方でユーザーは拡大。TikTokの透明性が求められる
コムスコア(Comscore)の調べによると、こうした懸念をよそに、TikTokを利用するブランドは増え続けている。たとえば、2022年11月に米国のブランドとパブリッシャーが獲得したエンゲージメント(いいね、シェア、コメントなど)は前年比206%増、動画の再生回数は166%増、フォロワー総数は427%増だった。なお、コムスコアは具体的な数字は公表していない。
TikTokの人気はユーザーのあいだでも拡大している。コムスコアによると、2022年10月にTikTokを訪問した米国ユーザーは、2021年10月から12%増えて、1億1900万人を超えた。しかも、基本的には若者に支持されるアプリでありながら、最速で成長している年齢層はTikTokユーザーの平均年齢よりも高いという。コムスコアの調べでは、65歳以上のユーザー総数が27%増で、35歳から44歳が23%増だった。
サイバーセキュリティ企業のトレンドマイクロ(Trend Micro)でグローバルコンシューマエデュケーション担当バイスプレジデントを務めるリネット・オーウェンス氏は、訴訟は変化の触媒とはなりうるが、ユーザーの安全を完全に担保するものではないと述べている。オーウェンス氏によると、消費者はデジタルリテラシーの向上と、TikTokのようなプラットフォームがどのように機能し、どんなデータを収集しているかに関する透明性を求めている。
「こうしたプラットフォームの利用と引き換えに要求されるプライバシーやデータの量に納得がいかなければ、多くの消費者は利用しないという選択をするかもしれない」とオーウェンス氏は話す。「たとえていうなら、食品のパッケージに原材料、カロリー、栄養成分を表示すれば、この情報提供に基づいて、消費者は食生活を改めようと考えるかもしれない」。
[原文:A bill to ban TikTok is gaining traction in Congress, and with some marketers]
Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)