気候変動や食糧不足に対処したり暗号化を破ってインターネットを破壊したりするのに役立つレベルの「量子コンピューター」開発競争、アメリカと中国のどちらが最初に実現するのか

GIGAZINE
2022年12月24日 19時00分
メモ



「0」もしくは「1」の状態しか取れない「ビット」ではなく、「0」と「1」両方の状態をとることができる「量子ビット」を用いて計算を行う量子コンピューターは、ビットを使う従来のコンピューターよりも指数関数的に協力で、ビットではできないような計算を行うことができます。この量子コンピューターの開発がどこまで進んでいるのかについて、ライターのスティーブン・ウィット氏が解説しています。

The World-Changing Race to Develop the Quantum Computer | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2022/12/19/the-world-changing-race-to-develop-the-quantum-computer?currentPage=all

量子コンピューターは従来のコンピューターでは実現不可能な大規模な計算を行うことが期待されていますが、ハードウェアやソフトウェア、プログラミング言語まで、すべてを開発し直さなければならないという課題があります。

本格的な量子コンピュータが実現すれば、現在の暗号化プロトコルが解読され、インターネットは実質的に破壊されることになります。金融取引や一般的なテキストメッセージのプラットフォームなどほとんどのオンライン通信が従来のコンピューターでは解読に数百万年かかる暗号鍵で保護されているものの、量子コンピューターが動作すればおそらく1日もかからずに解読できると考えられています。この、いずれ訪れる量子コンピューターによる革新の日は「Y2Q」と表現されます。

量子コンピュータの開発競争には何年もの月日と膨大な資金がつぎ込まれていますが、現在の量子コンピューターはほとんど機能せず、技術革新にはほど遠い状態といえます。IntelやIBM、Microsoft、Amazonといった名だたるテクノロジー企業が量子コンピュータの製造開発に躍起になっています。

量子コンピュータの量子ビットは精密な制御を必要としますが、実現することはいまだ困難です。しかし、来たるY2Qを前に、既存のシステムを保護するプロトコルは一度解体して入れ替えなければなりません。アメリカのジョー・バイデン政権は量子的な耐性を持つ新しい暗号化規格に向けて動き出したと発表していますが、その実装には10年以上かかり、数兆円規模の費用がかかると予想されています。

量子コンピュータの攻撃に備えるための4つの暗号化アルゴリズムをアメリカ国立標準技術研究所が採択 – GIGAZINE


Y2Qを見越して、スパイ機関は既存の暗号化されたデータを読み取ることを望んでいます。バイデン政権が掲げる暗号技術のアップグレード期限は2035年ですが、基本的な量子コンピューターは早ければ2029年にも登場すると見込まれており、早急な対策が望まれています。

Googleはアメリカのカリフォルニア州サンタバーバラに研究所を置き、Amazonはカリフォルニア工科大学のキャンパス内に研究所を開設することを発表しています。大手ハイテク企業だけでなく多くの新興企業が量子コンピューターを作ろうとしており、業界誌の「Quantum Insider」によると600以上の企業が量子コンピューターの分野に参入しているとのこと。世界中で300億ドル(約4兆円)が量子技術の開発に投資されているとみられていますが、これらの多くは投機的なものだそうです。


最も楽観的なアナリストでさえ、量子コンピューティングが今後5年間で意味のある利益を得ることはないと考えており、悲観論者は10年以上かかる可能性があると警告しています。利益を得たい企業、暗号解読を優先する国家の思惑などが渦巻く中、Googleの元量子コンピューティング責任者のジョン・マーティニス氏は「高品質の量子ビットを作るという点では、中国がリードしているといえるかもしれない」と述べています。

中国科学技術大学のLu Chao-Yang氏らは、自分たちのプロセッサーが最高のスーパーコンピューターよりも数百万倍速く計算課題を解決したとする論文を「Science」に掲載しましたが、当のLu氏は「中国が最高の量子ビットを作っているという」という主張には異議を唱え、「実際にはGoogleがリードしていると思う」と話したそうです。いってみれば、どの国も着々と進歩を進めているものの、いずれも革新的な技術開発に向けて滑り出したばかりだということです。

Googleの量子コンピューティング研究所の創設者であるHartmut Neven氏はウィット氏の面会に応え、「2023年中には、アメリカで完全にフォールトトレラントな量子ビットを初めて作れると思います」と語り、そこから先はコンピューティングの規模を拡大していくのが計画だと話したそうです。量子コンピューターの処理能力は暗号解読や気候変動・食糧不足の問題に対処する新しい工業用化学物質の開発にも拍車をかける可能性がありますが、まずは、量子コンピューターを動作させることが喫緊の課題なのです。

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