最近発表されたアドテク上場銘柄の決算を見ると、企業によって業績の好不調に濃淡がある。メディア業界に漂う緊縮ムードのなか、アドテク企業の活発な成長が過去のものとなったことは明らかだ。
アルファベット(Alphabet)、メタ(Meta)、スナップ(Snap)といった業界大手は今回、株式市場の期待に応えられていない。誰もが知る有名企業だが、行く手に暗雲が立ちこめ始めたか。ただし、メタとスナップの業績不振については、Appleのプライバシー保護機能強化の後遺症という見方が大勢を占めている。AppleのSKAdNetworkなどの新機能導入の影響でROI(投下資本収益率)の計測が難しくなった結果、新型コロナ感染拡大の初期、2社の収益に大きく寄与したD2Cブランドの広告主が広告支出を抑制したためだ。
しかしその一方で、業界内の持株会社は増収を計上し、電通を除き、来期の業績予想を上方修正している。
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アドテク銘柄は2021年の最高値に比べ下落傾向の一方で、増収の企業も
では、業界全体としてはどうか? アドテク企業ははからずも、一部の投資家のあいだに広がった悪評と闘ってきた。パンデミック明けの2021年にナスダック(Nasdaq)とニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したアドテク企業に目をつける投資家が続出したが、なかには2010年代半ばにロケットフューエル(RocketFuel)をはじめとするアドテク銘柄に入れこんで痛い目にあった投資家もいる。
いわゆる「2021年の卒業生」の前に上場を果たした企業も含め、アドテク銘柄の株価は2021年の最高値に比べ軒並み下落傾向にあるが、直近の決算は企業により明暗が分かれる結果となった。
たとえば、デマンドサイドプラットフォームを運営するザ・トレードデスク(The Trade Desk)は一時、フォード(Ford)を上回る時価総額を記録した。売上高では2022年第3四半期、前年同期比で31%増の3億9500万ドル(約553億円)、第4四半期には5億ドル(約700億円)に達する見通しだ。
同社は、ウォールド・ガーデンの代替となるプラットフォームをうたって業績を伸ばしてきた。決算発表後の証券アナリスト向けカンファレンスコールでジェフ・グリーンCEOは、CTV広告が新規案件拡大の最大の原動力となったと述べた。ちなみに、同時期におけるYouTubeの売上高は減少している。
アドテク上場企業では古株のマグナイト(Magnite)も独立系で、CTV広告(アドサーバー)向けサプライサイドプラットフォームとして自社を位置づけている。第3四半期の売上高は前年同期比で11%増と、伸び率を2桁台に乗せ、1億4580万ドル(約204億円)を計上した。
ダブルベリファイ(DoubleVerify)とIAS(Integral Ad Science)は、2021年のIPOブームに乗って上場した。この2社は、「メディア企業」や「アドテクベンダー」でなく、ソフトウェアプロバイダーとしての位置づけを狙っており、第3四半期の売上高はダブルベリファイが前年同期比35%増で1億1230万ドル(約157億円)、インテグラル・アド・サイエンスが28%増で1億130万ドル(約142億円)となった。
ライブランプ(LiveRamp)は、メディア業界向けSaaS製品を提供する企業として株式市場にアピールしているが、広告主のキャンペーン予算の変動の影響を比較的受けにくい収益モデルで、投資家には好評だろう。前四半期、同社は1億4700万ドル(約206億円)の売上高を計上し、前年同期比16%の伸びを示した。
それとは対照的に、クリテオ(Criteo)は売上高で前年同期比12%減の4億4700万ドル(約626億円)に終わった。同社CFOのサラ・グリックマン氏によれば、AppleのIDFAなど従来型の広告識別子とサードパーティCookieの利用規制がデータ収集の足かせとなり、「データシグナル不足により1400万ドル(約20億円)相当のマイナス影響があった」という。
ただし、経営陣は「リターゲティングのクリテオ」というイメージからの脱却をめざす決意を表明しており、向こう3年間でリテールメディア事業の売上(直近の四半期は4100万ドル[約57億円])を3倍にまで増やす計画だ。
これらのアドテク企業の大半が、(例年、業績が上向く)第4四半期には2桁成長を見込んでいる。しかしその一方で各社とも、市況が軟化する懸念を示した。
広告主は広告支出よりも経済的課題を優先する傾向か
上場の先鞭をつけたサプライサイドプラットフォーム運営のパブマティック(PubMatic)は第3四半期、前年同期比11%増、6450万ドル(約90億円)の売上高を記録し、第4四半期の売上高を7800万ドル(約109億円)と予測している。
パブマティックは収益報告書で、市場の成長を上回る自社業績の伸びを期待する一方で、広告主が「経済をめぐる数多くの課題」に対処せねばならず、そのため広告支出を控える傾向が2023年も続く可能性があるとした。
アドテク業界では非上場企業も新規上場企業も緊縮経営で、株式市場の期待に応えるべく、一時解雇や業績予想の下方修正などを実施している。おそらく今後しばらくは、IPOが途絶える端境期が続くだろう。
[原文:Ad tech’s journey on the public markets is approaching its awkward adolescence]
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)