ラグジュアリーファッションブランドがAmazonに抵抗するのはもう終わりだ。
10月20日、Amazonのラグジュアリーストア(Luxury Stores)は、ニューヨークを拠点とするワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンド(What Goes Around Comes Around)との独占提携を開始、10人のトップデザイナーの名前がマーケットプレイスに公式に登場した。ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、創業29年となるラグジュアリーリセール会社で、主にエルメス(Hermès)、ディオール(Dior)、シャネル(Chanel)のクラシックなハンドバッグを扱っており、現在このプラットフォームで300点近くの商品を販売している。そのなかには、1万ドル(約149万円)のロレックス(Rolex)や5万ドル(約745万円)のエルメスのバーキンが含まれている。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のスタイルが商品の大半を占めており、150点以上のスピーディとポシェットが容易に手に入る。また、eコマース嫌いで有名なシャネルの商品も90点以上ある。そのほかのデザイナーのリストをまとめると、「ヴィンテージの」グッチ(Gucci)、ゴヤール(Goyard)、ディオール、プラダ(Prada)、フェンディ(Fendi)、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)などとなっている。
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品揃えを充実させつつあるラグジュアリーストア
Amazonは、ラグジュアリーブランドと消費者により高いショッピング体験を提供するため、2020年9月にラグジュアリーストアをローンチしている。当時は、ラグジュアリーパビリオン(Luxury Pavilion)を持つTモール(天猫、Tmall)の成功を模倣した動きだと広く言われていた。だが唯一のブランドパートナーであるオスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)でデビューして以降、LVMHとケリング(Kering)のブランドからは距離を置かれており、パンデミックの最中にデザイナー企業が流通に関してあまり神経を尖らせなくなったにもかかわらず、このバーティカルはトップファッションレーベルを引き寄せるのに時間がかかっている。33のファッションパートナーのなかには、ミッソーニ(Missoni)、アルチュザラ(Altuzarra)、セルジオハドソン(Sergio Hudson)などのインディーズブランドが入っており、その多くは入手しやすいラグジュアリーカテゴリーに属している。そしてラグジュアリーストアは、2020年10月のクレ・ド・ポー(Clé de Peau)を含む13の美容ブランドで品揃えを充実させた。今回のワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドとの提携により、全体のブランド数は約20%増の57ブランドとなった。
高いレベルのアクセシビリティを誇るリセールプラットフォーム
2020年に小売店が閉店に追い込まれたとき、多くのラグジュアリーブランドがeコマースの価値を実感した。そして、ほとんど店舗でしか販売していないブランドで、一時的に主要な売上の所有者となったのがリセールプラットフォームだ。ヴァレンティノ(Valentino)、グッチヴォールト(Gucci Vault)経由のグッチ、そして9月にはバレンシアガ(Balenciaga)など、いくつかのブランドはその後、自社サイトでのリセールを開始している。
「我々がブランドの独占的な目標に反するような、かなり高いレベルのアクセシビリティを作っていることを、間違いなくブランドはあまり喜んでいないはずだ」とワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの共同創業者でCEOのセス・ワイザー氏は述べている。「だが、これは前進なんだ」。
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、ブランドとの直接的な提携はしておらず、ほとんどの商品を世界中の「トップディーラーやコレクター」から仕入れているとワイザー氏は言う。
ラグジュアリーリセールに関心を寄せるAmazon
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドとAmazonは、ワイザー氏によれば半年ほど前からこの提携について話し合ってきた。しかし両者はすでに一緒に仕事をしていた。ワット・ゴーズ・アラウンドの収益の大半を占める卸売事業の顧客には、Amazon傘下のファッションeテイラーであるショップボップ(Shopbop)も含まれている。ワイザー氏いわく、ショップボップがワット・ゴーズ・アラウンドから仕入れた商品をAmazonの「ザ・ショップ・バイ・ショップボップ(The Shop by Shopbop)」ストアに少しずつ掲載するようになり、Amazonはラグジュアリーリセールの機会に関心を持つようになった。ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、自社のeコマースサイトに加えて、ニューヨークとロサンゼルスの旗艦店で直接販売を行っている。卸売りのパートナーには、ディラーズ(Dillard’s)、キス(Kith)、ディズニー(Disney)、ホテルなども含まれる。
ホリデーショッピングを狙った戦略的ローンチ
Amazonファッションの広報は、ラグジュアリーストアの買い物客層、売上高、成長率については言及せず、その売上高はAmazonの収益には計上されないとしている。報道発表のなかで、昨年からAmazonファッションのプレジデントを務めるムゲ・アーディリック・ドーガン氏は、ワット・ゴーズ・アラウンドとの提携により、Amazonの顧客が「自分自身や愛する人のために買い物する選択肢が増えた」と述べている。そして彼女はラグジュアリーストアが「品揃えを拡大し続けている」ことを強調した。
また、アーディリック・ドーガン氏は、ホリデーショッピングが始まるこのタイミングでのローンチは戦略的なものだったとも指摘している。
ワイザー氏によると、ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの売上は第4四半期に「大きく偏って」おり、通常、年間総売上の35%を占めるという。「経済の逆風に対する消費者の懸念が落ち着き、消費意欲が戻ってきた」ため、今年はこの数字が高くなると彼は予想している。ラグジュアリーは今のところ比較的無傷で済んでいるが、今年のホリデーシーズンの販売全体の伸びは鈍化すると予想されており、多くのブランドが第4四半期の見通しを引き下げている。
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、これまでサードパーティのマーケットプレイスで販売したことはなかったが、Amazonとの提携により成長の機会が得られた。毎年、同社は通常2桁の売上成長率と収益性の向上を実現しているとワイザー氏は言う。だが同社の売上は昨年から「横ばい」であり、パンデミックが始まってからは店舗を閉鎖している。
ラグジュアリーブランドにとってよい店舗展開の機会
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの小売・顧客サービスバイスプレジデントのジュリアン・ゲバラ氏は、Amazonは快適なレベルの顧客体験のコントロールを提供してくれていると話す。同社は、ラグジュアリーストアのストアフロントを「カスタマイズ」することができ、販売した商品はAmazonの倉庫ではなく自社の倉庫から梱包し発送している。だが来年初めには、Amazonトゥデイプログラムに参加し、2時間以内の配送と店舗近くの顧客に対する店頭ピックアップを可能にする予定だ。
「Amazonはとにかく最大手だ」とワイザー氏は言う。「それにラグジュアリーストアは、ラグジュアリーブランドにとってよい店舗展開の機会だ。この部門には、計画を指導する別の(リーダーシップ)チームがあり、『高級感』があり、我々のブランド価値を反映しているように感じられる。もしこの部門が切り離されていなければ、同じようには我々にはアピールしなかっただろう」。
彼はまた、このパートナーシップの独占性が決め手となったとも語っている。ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、ファーフェッチの初期のリセールパートナーだったが、このマーケットプレイスが競合他社で混雑し、機会が減少したとワイザー氏は述べた。
デザイナーファッション事業に投資するAmazon
Amazonは、6月にラグジュアリーストアをヨーロッパに拡大し、ヴォーグ(Vogue)出身のサリー・シンガー氏をファッションディレクションのトップとして雇用するなど、デザイナーファッション事業の成長に明らかに投資を行っている。Amazonファッションは、11月7日に開催されるCFDAアワードのスポンサーであり、ラグジュアリーストアの手の込んだキャンペーンをいくつかバックアップしている。最近では秋のキャンペーンに、モデルのイリーナ・シェイク氏とトミー・ドーフマン氏らを起用した。ワイザー氏は、Amazonのマーケティングサービスと現場でのリダイレクト機能がワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドにとって魅力であり、Amazonの買い物客が同社のサイトや店舗を訪れる「ハロー効果」を期待していると述べた。ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、今回の提携に先駆けて国際配送を提供していた。
Amazonは正しい道を歩んでいると、小売調査会社でアドバイザリーのコアサイトリサーチ(Coresight Research)のアナリスト、サニー・チェン氏は言う。大々的にかなり限定されてはいるが、「ラグジュアリーストアの商品は、ザ・リアルリアル(The RealReal)やスレッドアップ(ThredUp)と比較して、より洗練されている」と彼女は言う。「特に、買い物客が今まで以上に商品を厳選するようになった現在のインフレ環境では、顧客を満足させられるのは適切な価格の高品質な中古のラグジュアリーアイテムだけだ」。
また、このパートナーシップは、「高所得者の買い物客の回復力」のおかげで、ラグジュアリーブランドを危険にさらすことはないと、彼女は付け加えた。「高所得の買い物客が中古の製品にトレードダウンすることはまずない」。
しかし、コンサルタント会社アルバレズ・アンド・マーサル・コンシューマ・リテール・グループ(Alvarez & Marsal Consumer Retail Group)のマネージングディレクターであるマイケル・プレンダーガスト氏によると、ブランドは「ブランド認知の希薄化」に悩まされる可能性がある。
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドもまた危険にさらされている、と彼は指摘した。「うまくいけば、Amazonは自分たちだけでできると判断し、パートナーを切り捨てるかもしれない。(同社にとって)短期的な爆発的増加で、長期的な消滅につながるというケースもあり得る」。
顧客に合わせた商品セレクションをキュレーション
ゲバラ氏によると、10月13日にラグジュアリーストアにソフトローンチして以来、ワット・ゴーズ・アラウンドでは明確なトレンドと「かなりの」数の注文がみられるという。ベストセラーには、ルイ・ヴィトンのネヴァーフル(Neverfull)トートやそのほかのロゴ入りスタイル、クロスボディやメッセンジャー・バッグなどの「実用的なアイテム」も含まれている。また、「一品あたりの単価が超高額なアイテムでサイトを飽和させることなく、手の届く範囲の商品を購入することを阻止しない」ことで、より「エントリーレベル」の買い物客に適切に対応できるようにする計画だ。
ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドは、今後数週間にわたり、新しいカテゴリーを含め、ラグジュアリーストアの商品セレクションを「強化」していく。また近々、専用のドロップや「特別コレクション」を開催し、関心を維持するつもりだとワイザー氏は言う。
「Amazonは、我々が保守的だと感じる(1年目の売上)目標を提示している」と彼は述べた。その自信は、パートナーである小売業者の顧客習慣に基づき、望ましい商品セレクションをキュレーションするワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの「成功の歴史」に負うところが大きい。
ワイザー氏は、ワット・ゴーズ・アラウンド・カムズ・アラウンドの「人によるマルチステップの認証プロセス」を市場での差別化要因として挙げている。また、流行のスタイルではなく、クラシックでタイムレスなアイテムを専門に扱っている点も独自性があるという。たとえば競合他社とは異なり、グッチのヤンキースのロゴのアクセサリーといったものは販売しない。
目標はラグジュアリーを身近なものにすること
リセールのおかげで、ラグジュアリーブランドは、グッドウィル(Goodwill)からウォルマート(Walmart)まで、あらゆる場所に出現している。グッドウィルは10月にローンチしたサイト経由で販売をしている。ウォルマートのマーケットプレイスでは、2021年末にファーフェッチが買収したリセール会社、ラクスクルーシフ(Luxclusif)がラグジュアリーアイテムの人気のある販売者だ。
「我々のビジネスの目標のひとつは、ラグジュアリーを身近なものにすること」とワイザー氏はう。「だからこそ、従来はラグジュアリーとは無縁だった小売業者で販売している。そうした小売業者の顧客はラグジュアリーメゾンのサービスを受けていない。Amazonは、独占性と入手可能性のバランスをとり、中古の分野になじめない顧客に安心して購入できる方法を紹介するための、もうひとつの方法を提供している」。
「ファッションに関心のあるほとんどの消費者は、ラグジュアリーに参加したいと考えている」と彼は述べた。
[原文:Fashion Briefing: With luxury resale launch, Amazon is selling Chanel and Hermès]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)