米国の娯楽はかなり早くからテレビの未来を理解していた。メジャーリーグベースボール(以下、MLB)は20年前に初めて試合をストリーミング配信し、2022年、AppleのApple TV+、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコックで試合をストリーミング配信する契約を結び、ストリーミング戦略をさらに強化した。
レギュラーシーズン終了の翌日にあたる10日6日、MLBの最高売上責任者ノア・ガーデン氏がDIGIDAYのインタビューに応じ、ポストシーズンのストリーミング配信契約締結を含め、MLBのストリーミング戦略が、レギュラーシーズンにどのように展開され、今後のシーズンにどのようにつながるのかについて語ってくれた。
なお、読みやすさを考慮し、以下のインタビューには編集を加えている。
Advertisement
◆ ◆ ◆
- ――MLBが初めて試合をストリーミング配信したのは20年前だが、今年はAppleやピーコックとの契約もあり、MLBのストリーミングにとってかなり大きな年だったと思う。今年、ストリーミングについて学んだ最大のことは?
- ――今年、Apple TV+やピーコックで試合がストリーミング配信されたことで、MLBの新しい視聴者はどれくらい増えたのか?
- ――MLB.tvは今年、立ち上げ以来最も長時間ストリーミングされた。一般的にストリーミングの利用者が増えていること、かなり波乱に富むシーズンだったこと、そして、わずかながら、試合の長さが関係しているのではないかと考えている。しかし、MLBが今年新たに始めたこと、変更したことのなかに、視聴時間の伸びに貢献したことはあったのだろうか?
- ――MLBは広告のない定額制のストリーミングサービスを主とするApple TV+と契約を結んだが、試合は無料で視聴できた。一方、ピーコックには無料プランもあるが、有料会員のみを対象に試合のストリーミング配信が行われた。これは良いA/Bテストだったように見える。条件の異なる2つのサービスで、視聴者数だけでなく、視聴者の構成について、両者にはどのような違いがあったのか?
- ――MLBはAppleがストリーミング配信する番組を制作してきた。今後もストリーミング用の番組を制作する予定なのか? それとも、いずれ配信者に制作を任せるのか?
- ――ストリーミングについて、来年は違うやり方をしようと思っていることはあるか?
- ――ここ数年、特に今年に入ってから、ストリーミング市場で起きた大きな変化のひとつが、広告のないストリーミングを続けてきた企業が広告付きプランを追加したことだ。Netflixはその最たる例だ。ストリーミングサービスと試合配信契約を結ぶ機会を評価する際、そのサービスが有料の広告付きプランか、無料の広告付きプランか、広告のない有料プランかをどのくらい考慮しているのか? また、どのようなパッケージが理にかなっているのか?
- ――ポストシーズンの試合はすべて全国放送で、有料放送の契約者だけがストリーミング配信を視聴できるようになっている。今後、ポストシーズンの試合の放映権をストリーミング専門の企業に販売する予定はあるのか?
- ――ポストシーズンの試合をストリーミングのみの契約で配信する機会は、最も早くていつ訪れるのか?
――MLBが初めて試合をストリーミング配信したのは20年前だが、今年はAppleやピーコックとの契約もあり、MLBのストリーミングにとってかなり大きな年だったと思う。今年、ストリーミングについて学んだ最大のことは?
今年は本当にリーチが試される年だった。コンテンツプロバイダーとして、私たちが直面している課題のひとつが、ファン層にリーチすることがますます難しくなっていることだ。コードカッター、コードネバーもいれば、従来のテレビ視聴者もいる。テレビ視聴者は今のところ、私たちのファンで最も大きなグループだ。
イノベーションの観点から、さまざまなファンにさまざまなデジタル放送を提供できるようにすることは、私たちが継続的にテストしていることだ。まさにそれがピーコック、Appleとの契約の核心だ。ただし、私たちはそれ以外のことも行っている。Appleでは、私たちにとって過去最高の品質である4Kでストリーミングを行った。そのストリーミング配信を見れば、確かにそうだとわかるはずだ。
さらに、スタッツの観点から、さまざまなオーバーレイを実験的に導入してみた。これは一部のファン、特に若いファンが切望していたことだ。また、オルタナティブな放送にも挑戦している。YouTube TVの放送も行ったし、女性だけのブースもうまくいった。インターネットではさまざまなストリーミングが可能で、さまざまなファン層をターゲットにできる。言ってみれば、未来への序章だ。
――今年、Apple TV+やピーコックで試合がストリーミング配信されたことで、MLBの新しい視聴者はどれくらい増えたのか?
今、新しい視聴者の数を具体的に言うのは難しいと思う。しかし、ユーザー属性の観点から言えば、ご想像の通り、かなり年齢層が若く、私たちのアプリのユーザー内訳に近い。20代後半、30代前半、40代前半だ。
誰かと議論になったとき、「野球ファンは高齢化している」と言われることがある。彼らはニールセン(Nielsen)のデータからその仮説を立てている。そして、私は必ず「焦点がずれている」と言い返す。私たちがストリーミングを始めたのは2002年だ。私たちは若い世代のための製品を持っていた。私たちのアプリを使い、製品を消費し、試合をストリーミングしている人々はかなり若い。今は以前より多くのデータが公開されているため、ようやく私たちが評価されるようになったのだと思う。
――MLB.tvは今年、立ち上げ以来最も長時間ストリーミングされた。一般的にストリーミングの利用者が増えていること、かなり波乱に富むシーズンだったこと、そして、わずかながら、試合の長さが関係しているのではないかと考えている。しかし、MLBが今年新たに始めたこと、変更したことのなかに、視聴時間の伸びに貢献したことはあったのだろうか?
Appleであれ、ピーコックであれ、こうした契約には、私たちの試合をより多くの場所でより多くのファンに届けられるという側面があると思う。Appleは長年のパートナーだ。彼らのiPhoneで初めて試合を配信したのは私たちだし、iPadも同じだ。つまり、Appleとは長年にわたる深い関係がある。
今回の契約はその延長線上にあり、広大で巨大な彼らのエコシステムにリーチすることが目的だ。私たちの若いファン、異なるタイプのファン層、そして、従来のバンドルの外にいる人々にリーチしたかった。ピーコックも同様だ。NBCはとても長い間、野球のパートナーだった。地域レベルでは、彼らの(地域スポーツネットワーク)が素晴らしい仕事をしている。彼らが持つ製品それぞれのファンにリーチできることは、私たちの助けになっている。
私たちはこれからもさまざまなパートナーをテストしていくつもりだ。現在のパートナーとの関係も深めていく。しかし、すべての目的はリーチを拡大することだ。2002年に初めて試合をストリーミングしたときから、「プラグやバッテリーがあれば、何でも使いたい」と言い続けてきた。それは今も変わっていない。
――MLBは広告のない定額制のストリーミングサービスを主とするApple TV+と契約を結んだが、試合は無料で視聴できた。一方、ピーコックには無料プランもあるが、有料会員のみを対象に試合のストリーミング配信が行われた。これは良いA/Bテストだったように見える。条件の異なる2つのサービスで、視聴者数だけでなく、視聴者の構成について、両者にはどのような違いがあったのか?
本当に微妙な違いだ。一般的に、最近コンテンツをストリーミングしているのは誰かと考えた場合、その層はさまざまなプラットフォームでかなり似通っているように見える。Appleはおそらく少し若い傾向にある。幅広い製品やサービスで革新を起こしてきた歴史があり、その結果、より幅広いファンを呼び込んでいるのだと思う。
ピーコックはコムキャスト(Comcast)のNBCの延長線上にあり、特定のコンテンツを消費するのに慣れている特定のファンがいる。そのようなファンはテレビを見ているファンに近い。しかし、やはり若い方に偏っている。案外、両者は似ている。
――MLBはAppleがストリーミング配信する番組を制作してきた。今後もストリーミング用の番組を制作する予定なのか? それとも、いずれ配信者に制作を任せるのか?
契約の内容は、パートナーが持っている能力によって変わる。NBCは簡単だ。彼らは地域スポーツネットワーク(RSN)を持っている。彼らは野球のコンテンツを制作しており、彼らには理にかなったインフラがある。Appleにはそれらがない。彼らは製品とサービスを提供する企業だ。番組を制作するビジネスには参入していない。
もし効果的に実行し、私たち皆が誇れるものをファンに提供できると思うのであれば、私たちのパートナーが独自に番組を制作することはいつでも選択肢に入る。しかし、ここMLBにはとてつもない能力がある。私たちはMLBネットワーク(MLB Network)で、長年にわたって試合を中継してきた。私たちはこの技術を展開し、常に新しい技術をテストしている。Appleとは、それぞれが得意とすることをしながら、共にイノベーションを推進していくのがやりやすいと判断した。
――ストリーミングについて、来年は違うやり方をしようと思っていることはあるか?
さらなるイノベーションを目にすることになるだろう。オルタナティブな放送が増える予定だ。特定の方法で試合を見たいと思っている若いオーディエンスであれ、従来のオーディエンスであれ、特定のオーディエンスにリーチする機会が増えるだろう。その結果、ファンが最も喜ぶ技術を展開するさまざまな機会が生まれるはずだ。
――ここ数年、特に今年に入ってから、ストリーミング市場で起きた大きな変化のひとつが、広告のないストリーミングを続けてきた企業が広告付きプランを追加したことだ。Netflixはその最たる例だ。ストリーミングサービスと試合配信契約を結ぶ機会を評価する際、そのサービスが有料の広告付きプランか、無料の広告付きプランか、広告のない有料プランかをどのくらい考慮しているのか? また、どのようなパッケージが理にかなっているのか?
繰り返しになるが、私たちの目的はリーチだ。リーチを最適化、最大化するような方法でコンテンツを展開すれば、売上は付いてくる。つまり、どのサービスがさまざまなタイプのファンを引き付けているのか、どれくらい会員がいて、その会員がそのサービスとどのように関わっているかがすべてだ。
多くの人々にリーチしていないどこかから大金を得られるとしても、今の私たちにとっては重要ではない。私たちは目の前に現れるすべての機会について、特にストリーミングに関しては、可能な限り多くのファンにリーチすることだけを目的にしている。
――ポストシーズンの試合はすべて全国放送で、有料放送の契約者だけがストリーミング配信を視聴できるようになっている。今後、ポストシーズンの試合の放映権をストリーミング専門の企業に販売する予定はあるのか?
私たちはいつもそのことについて話している。現在の契約では、その権利は、その権利のために交渉してきた全国規模のパートナーにある。ある週においては、その権利はESPNにあり、ストリーミング配信はESPN+で見ることになる。ディズニー(Disney)、Hulu(フールー)、ESPN+のコンボで、とてつもない数の人々にリーチしているサービスだ。この先、目の前に機会が現れれば、やはりその点に注目するつもりだ。しかし、現在は彼らと契約しているため、かなりのリーチを確保できると安心している。
――ポストシーズンの試合をストリーミングのみの契約で配信する機会は、最も早くていつ訪れるのか?
数年後になるだろう。国外では今、そのような機会を提供している。そして、今後も拡大していくつもりだ。ここ数年、私たちの国際ビジネスは本当に上向いている。パンデミック前のように国外で試合を開催できなくなったのは間違いなく痛手だった。しかし、来年はまた国外に出て行く予定だ。そして、国外の人々にポストシーズンをストリーミング配信するためのさまざまな方法を検討している。
Tim Peterson(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:黒田千聖)