ポップカルチャー がファッションウィークに与えた影響とは?

DIGIDAY

パリ・ファッションウィーク(Paris Fashion Week)は、ファッションとビューティにおいてポップカルチャーの影響力が高まっている点に光を当てていた。

これまでも「ファッションのためのファッション」というほど単純ではなかったが、ファッション界はかつてないほど、プラットフォーム出身のインフルエンサーや従来のセレブリティ、そしてメディアインパクトバリュー(人によってはアーンドメディアバリュー)が保証するものに左右されるようになってきたと思える。9月26日に正式にスタートしたパリ・ファッションウィークは、ランウェイへの出演、サプライズ・コラボレーション、ショップのオープニングなど、スターのパワーが築いた「さまざまな瞬間」が巻き起こす旋風だった。さらにいくつかのショーはソーシャルメディアでのシェアやフォロワーを意識してフォーマットをアップデートしており、インフルエンサーのパワーが拡大していることを証明している。

シェールが登場したバルマン、ラガーフェルドの盛況なパーティ

28日水曜の夜、76歳のシェール氏がラテックスルックのキャットスーツとプラットフォームブーツを着用してバルマン(Balmain)のランウェイを歩いた。バルマンにとって、この動きは、2019年のヴェルサーチェ(Versace)でのジェニファー・ロペス氏や先週のヴェルサーチェでのパリス・ヒルトン氏の話題性を再現する狙いがあったのは間違いないだろう。ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)もいうまでもなく、26日に終了したミラノコレクションでシーズンコレクションの共同デザインにキム・カーダシアン氏を起用し、さらにチャンスを生かしている。今年初めのコートニー・カーダシアン氏とトラヴィス・バーカー氏の結婚式にドルチェ&ガッバーナが大きく関わった影響が、このコラボを後押しするきっかけとなったと報じられている。

27日火曜はカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が、インスタグラムに4300万人のフォロワーがいるスターコラボレーターでモデルのカーラ・デルヴィーニュ氏との仕事を祝った。ニューヨーク・ファッションウィークでジェンダーニュートラルな「カーラ・ラブズ・カール(Cara Loves Karl)」コレクションを発表したのち、同ブランドはデルヴィーニュ氏と共同デザインしたラインのローンチパーティーを開催した。フレグランスの名前にもなっているパリの本社がある21リュ・サン・ギョームで行われたパーティーには、デルヴィーニュ氏のほかアンバー・ヴァレッタ氏をはじめとするモデルたちが参加。そこでは、参加者がタッチスクリーンを経由してコレクションのアバターに服を着せることができるなど、さまざまなデジタルアクティベーションも行われている。さらに9月末、同ブランドはギャラリー・ラファイエット・シャンゼリゼ(Galeries Lafayette Champs-Élysées)の象徴的なアトリウムにて「カーラ・ラブズ・カール」のテイクオーバーを開催、パーティの招待客以外にも、パリの人々にブランドのインスタ映えする瞬間を提供した。当然ながらブランドはこの時期に、コラボレーターのメンタルヘルスがゴシップ欄やTMZの憶測記事で取り上げられることになるとは予想できなかっただろう。

リッツやカニエ、ハリー・スタイルズなど注目されたコラボレーション

ファッション界の内輪の人々については、29日木曜の午後、リッツ・パリ(the Ritz Paris)の外に大勢が集った。プレス関係者はフレーム×リッツ・パリ(Frame x Ritz Paris)のコラボレーション第2弾を見るために、3階のスイートルームを訪れていたが、中で聞いた話では、ある招待客が「何も新しいことはない」と話していた。「みんなカニエに会いに来ている。彼はここに滞在している」と彼女は言った。「ロビーにしばらく座っていれば、誰か有名な人に会える」。

9月初め、フレームの共同創業者でチーフクリエイティブオフィサーのエリック・トルステンソン氏は、セレブ御用達のリッツブランドのパワーについてGlossyに語っている。「(リッツ・パリとの)最初のコラボレーションは、これまででもっとも大きな反響があったひとつで、信じられない売上だった」。そのバーシティジャケットはリセールサイトで小売価格の5倍で売れたという。セレブリティもこのスタイルを好んでいると彼は言う。「ヘイリー・ビーバー氏が、このジャケットを着てヨットに乗っているところを目撃された」。

そしてデザイナーのマルコ・ロベイロ氏の名を知る人は、彼のファンであるハリー・スタイルズ氏がコラボレーターになるまではほとんどいなかったはずだ。このブラジル人デザイナーの2023年春コレクションをチェックするために、29日の午後にはインフルエンサーやエディターたちがパリの11区に足を運んだ。ロベイロ氏は2018年に自身の名を冠したブランドを手がけ始め、これまではデジタルでのみコレクションを発表していた。スタイルズ氏はロベイロ氏のデザインを最新のツアーやアルバムカバーで着用するとともに、自身のライフスタイル&ビューティーブランドであるプリージング(Pleasing)の最初のコラボレーターにロベイロ氏を選んでいる。このコラボレーションは9月末に発表されている。

カリタ初の路面店のオープンパーティ

パリ・ファッションウィーク中にローンチすることは、公式なファッションウィークのスケジュールをはるかに超えて何か意味があるものだとされている。ジャックムス(Jacquemus)は、27日にパリのモンテーニュ通りに初の路面店をオープンした。29日の午後には店舗に入る列に並ぶための列という、2本の長蛇の列ができていた。

そして30日の金曜には、70年の歴史がある美容ブランド、カリタ(Carita)が、26日にリニューアルオープンしたメゾン・ド・ボーテ(Maison de Beauté)の記念パーティを開催する。カリタのグローバルブランドディレクターであるシャルル・フィナズ・ド・ヴィレーヌ氏は、このタイミングはブランドの伝統に一部着想を得たと語っている。カリタの創業者姉妹は、ピエール・カルダン氏やアンドレ&コクリーヌ・クレージュ夫妻の友人であり、ユベール・ド・ジバンシィ氏とのコラボレーションや、ヴァレンティノ(Valentino)などのブランドのランウェイルックを手がけた。姉妹はまた映画やミュージカルの裏方として、カトリーヌ・ドヌーヴ氏など女優たちと仕事をしたこともあったという。

「すべてのスターがここに集うファッションウィーク中にローンチしたのは完璧なタイミングだ」と彼は述べた。「金曜の夜はお祭り騒ぎで、たくさんのセレブリティが(パーティに)来てくれるだろう」。

ポピュラーからラグジュアリーへ

もちろんポップカルチャーが必ずしも「セレブリティ」を意味するとは限らない。さらに言えば、「ポップ」なものすべてが「ラグジュアリー」と解釈されるわけでもない。だが、デザイナーのジュード・フェラーリ氏が指摘したように、このふたつの世界はかつてないほどぶつかり合っている。3年前に彼女が立ち上げたラグジュアリーブランド、ジーシモーヌ(J.Simone)の2023年春のショーのバックステージで、彼女はスターバックス(Starbucks)からハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)までのロゴをコレクションに取り入れたことについて語った。

「『ポピュラー(popular)』の『ポップ』の部分を強調したかった。『ラグジュアリー』について考えるときに、人は『ポピュラー=大衆向け』であるとは考えない。ターゲットオーディエンスについて考える」と彼女は言う。「だがポピュラーな大衆向けのものがラグジュアリーになり、ばかばかしいものがシックになりつつある。これは(デザイナーが新たに注目している)色にも表れている。もはや黒一色ではない」。

しかしすべてのデザイナーがポピュラーなものを躍起になって取り入れようとしているわけではない。サステナブルブランドのプロトタイプス(Prototypes)の27日のショーでは、パリジャンのアパルトマンに作られた即席のランウェイを、あらゆる年齢やサイズの無名の人々が、「愛しのバービーガール(Barbie Girl)」やレディオヘッドの「クリープ(Creep)」のアングリーバージョンに合わせて歩いた。その場にいたファッションレポーターは面白くなかったようだ。「これはジョークなの? 誰がモデルで誰がそうでないのかさえわからない」と、彼女は同席者に話していた。

大衆の楽しみという真の感覚

一方、イベント用のバックボードも相変わらず活用されている。マージュ(Maje)を含むブランドは、ショーモデルにインフルエンサーを積極的に起用しており、間違いなくほかの案と比較して費用がかからない。マージュの場合はマネキンを使って春のコレクションを披露し、カラフルなブランドのバックボードの正面でマージュを着用したインフルエンサーたちが仕事をできるようにした。「カーラ・ラブズ・カール」のパーティでも同じアプローチを採用していた。それでも何か物足りなさが感じられた。

パリのモンテーニュにあるラ・ギャラリー・ディオール(La Galerie Dior)で1月まで開催されている、メゾン・クリスチャン・ディオール(Maison Christian Dior)の歴史を紹介する展覧会では、クリスチャン・ディオール氏の言葉が掲示されていたが、その言葉はエイジレスな雰囲気を反映し、多少なりとも壮観であるファッションショーの価値を指摘していた。そこにはこう書かれている。「(ディオールのような)パーティは真の芸術作品だ。壮大なスケールであるというまさにその事実がゆえに、人々は腹立たしく思うかもしれない。しかしながら、それらは大衆の楽しみという真の感覚を生み出すので、我々の時代の歴史において望ましく、重要なものなのだ」。

そして今日、その大衆の楽しみの多くはインフルエンサーやセレブリティという形で提供されている。

[原文:PFW Briefing: Pop culture’s transformative effects on Paris Fashion Week]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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