「バイアグラ(シルデナフィル)」は勃起不全の治療薬として知られており、日本では2022年4月から「勃起障害による男性不妊」と診断された場合に限り公的医療保険の対象となりました。そんなシルデナフィルは勃起不全だけでなく、予後不良の多い肺疾患の治療にも用いられていると、カナダ・マックマスター大学の医学博士であるTyler Pitre氏らが解説しています。
Medications for the treatment of pulmonary arterial hypertension: a systematic review and network meta-analysis | European Respiratory Society
http://doi.org/10.1183/16000617.0036-2022
Why Viagra may be useful in treating lung diseases
https://theconversation.com/why-viagra-may-be-useful-in-treating-lung-diseases-188041
シルデナフィルはもともと狭心症の治療薬として開発された薬剤であり、ホスホジエステラーゼという酵素を阻害して血管などにある平滑筋の弛緩(しかん)や血管拡張を助けます。これによって臓器により多くの血流がもたらされ、陰茎の勃起を促進・維持するという仕組みです。
この血管拡張作用は陰茎以外の臓器にも有益であり、肺動脈性肺高血圧症(PAH)や特発性肺線維症(IPF)といった慢性的な息切れや咳をもたらす難治性の肺疾患の治療に効果があるとのこと。カナダではシルデナフィルがPAHの治療薬として承認されており、「レバチオ」というブランド名で処方されています。なお、バイアグラとレバチオの間には服用量を除いてほとんど違いがないとPitre氏は述べています。
PAHは肺の細い血管が狭くなり、心臓から肺に血液を送る肺動脈の圧力が異常に上昇する疾患であり、年間あたり100万人に1人ほどが発症する珍しい病気です。Pitre氏らの研究チームは、合計1万人以上の患者を対象にした複数の研究結果をレビューし、PAHに対するレバチオやその他の類似した薬物の効果を分析しました。
その結果、PAHの病状進行や入院といった臨床的悪化事例は薬剤を服用した患者において、対照群と比較して12.7%減少したことが示されました。また、運動能力の指標として測定した6分間の歩行距離も、薬剤を服用すると50m長くなったと研究チームは報告しています。
一方、IPFは肺細胞が長期にわたって繰り返し傷つくことで酸素や二酸化炭素が通る間質が厚くなり、繊維化してしまう疾患です。肺が繊維化すると呼吸の際にうまく膨らまず、ガス交換が不十分になって息苦しくなってしまうとのこと。
IPFとシルデナフィルの関連を調べた研究はそれほど多くありませんが、4件のランダム化比較試験を分析した研究では、統計的有意性に近い結果が得られています。また、シルデナフィルと同様の血管拡張作用を持つトレプロスチニルという薬剤を対象にした研究では、IPFを含む肺疾患の治療において有望な結果が得られたとのことで、シルデナフィルも効果的である可能性が示唆されています。
PAHやIPFの治療にシルデナフィルを用いる利点として、「新薬を開発するには高いコストがかかるが、既存の薬物を転用すれば開発コストを抑えられる」という点があります。Pitre氏はこれに加え、シルデナフィルは「バイアグラ」として世界中で広く使われており副作用に関するデータも豊富なことから、「既存の薬物は安全性に関するデータが豊富にある」という点を挙げています。
たとえば、シルデナフィルは低血圧を引き起こすことが知られており、低血圧の影響を受けやすい人や、高血圧の薬を服用している人は服用を避けるべきだとされています。また、顔の赤らみや頭痛、視覚の変化といった副作用があることもわかっています。
Pitre氏は、「シルデナフィルはすべての肺疾患を持つ人にとって魔法の丸薬ではないかもしれませんが、勃起不全を超えた有望な用途があるのは明らかです」と述べました。
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