デザインも価格もスペックも全てはユーザーのため。Wi-Fi 6E新製品「WNR-5400XE6」に込められたバッファロー開発陣の思いに迫る【イニシャルB】

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 バッファローからWi-Fi 6Eに対応した新型ルーター「WNR-5400XE6」、およびEasyMeshペアリング済みセットモデル「WNR-5400XE6/2S」が登場した。

 「市場」ではなく、「使う『人』」を想定して細部まで作りこまれた同社渾身の1台だ。どこにコダワリ、何に苦労したのか? その開発秘話を同社に聞いた。

株式会社バッファロー事業本部の面々。左から、コンシューママーケティング部BBSマーケティング課BBSマーケティング係の永谷卓也氏、ネットワーク開発部第三開発課課長の小野陽氏、コンシューママーケティング部BBSマーケティング課課長の下村洋平氏

「思い」があふれてる

 今回、バッファローの方々にインタビューをして感じたのは、想像以上に「人間味あふれる開発の仕方をしているなぁ」ということだ。

 Wi-Fi 6E、つまり6GHz帯が解放されるということは、Wi-Fiルーターの開発を手掛けるメーカーにとっては大きなマイルストーンだ。

 そこでどういう製品をリリースするかと考えると、普通は市場の動向を細かく分析し、データに基づいて、失敗しないように製品の方向性を決める必要がある。

 もちろん、同社もそうした分析に基づいて開発をしていることは当然だが、今回のインタビューで、それ以上に開発陣の口から出てきたのは「置いてもらう」とか「使ってもらう」とか「満足してもらう」とか、ユーザーの視点に立った、ある意味定性的なワードだ。

 まるで、子どもが自分の描いた絵を見せながら「これすごいでしょ」と訴えかけてくるように、「どうしてそうなったのか」という理由を、技術的に掘り下げつつも、熱っぽく語る姿がとても印象的だった。

 もし、機会があれば、今回の新製品を店頭などで手に取って、じっくり見ながら考えてみて欲しい。なぜこの形なのか? どうしてこのスペックなのか? 実は、そこには、1つ1つ担当開発者がユーザーのために考え抜いたコダワリがある。

「置いてもらう」ために考えられたデザイン

 今回、バッファローから登場したWi-Fi 6E対応ルーター「WNR-5400XE6」は、無線が2402Mbps(6GHz帯)+2402Mbps(5GHz帯)+573Mbps(2.4GHz帯)、有線が2.5Gbps×1(WAN)+1Gbps×3(LAN)に対応した実売2.3万円の製品だ。手軽にメッシュが構築可能なEasyMeshにも対応し、アンテナ内蔵の新デザインで登場してきた。

Wi-Fi 6E対応ルーターのEasyMeshペアリング済みセットモデル「WNR-5400XE6/2S」

 目に付くのは、これまでのバッファロー製品とは少しテイストの異なる新デザインの筐体だ。

株式会社バッファロー事業本部コンシューママーケティング部BBSマーケティング課BBSマーケティング係の永谷卓也氏

 この点について、株式会社バッファローの永谷卓也氏(事業本部コンシューママーケティング部BBSマーケティング課BBSマーケティング係)は、こう語る。

 「今回の新製品では、設置のしやすさに重点を置いた新筐体を採用しました。WNR-5400XE6は、セットモデルを用意することで、メッシュでの利用シーンを中心に想定していますが、メッシュの場合、回線の近くだけでなく、中継地点など人の目に触れる場所に設置するケースが増えます。このため、側面でも正面でも、どこにでも置いてもらえるようにデザインしています」という。

 通信機器は、どちらかというと人の目に触れない場所に置く場合が多い。電波のことを考えれば、見通しのいい場所(=人の目に触れる場所)に設置する方が望ましいが、場合によっては棚やクローゼットの中などへ隠れるように配置されてしまうことが多い。そうではなく、積極的に見える場所へ置いてもらえるようなデザインを心掛けたというわけだ。

6GHz帯の弱点をカバーするアンテナ設計

 確かにスッキリとしたデザインだが、幅が狭くスリムな印象があった従来モデルに比べると幅が若干大きく、塊感があるのだが、その理由は本体上部に内蔵されたアンテナにある。

株式会社バッファロー事業本部ネットワーク開発部第三開発課課長の小野陽氏

 同社の小野陽氏(事業本部ネットワーク開発部第三開発課課長)は、「Wi-Fi 6Eの6GHz帯は、干渉を避けられるという大きなメリットがありますが、従来の5GHz帯に比べると、若干距離や障害物などによる減衰が大きいと言えます。電波の出力も5GHz帯のW52/W53と同等で、W56ほど出力を上げることはできません。このため、6GHz帯でも高速で安定した通信を実現するにはアンテナの設計が非常に重要になります」と、Wi-Fi 6Eでのアンテナの重要性を強調した。

 そして、実際にアンテナの設計を担当した同社の二井勇磨氏(事業本部ODM第三開発課ODM開発係)は、その苦労をこう語ってくれた。

株式会社バッファロー事業本部ODM第三開発課 ODM開発係の二井 勇磨氏

 「6GHz帯のことを考えれば、本来なら新たな帯域をカバーするアンテナを追加したいので、筐体サイズは大きくしたいのですが、そうすると設置場所が限られてしまう可能性があります。5GHz帯に比べて減衰しやすい6GHz帯では、見通しのいい場所に本体を設置していただきたいので、むしろ見える場所に設置してもらえるようにある程度のサイズに収めることが、6GHz帯を有効に活用してもらうことにもつながります」と、まず6GHz帯の特性に触れてくれた。

 そして、「つまり、『どこでも置けるサイズで、しっかりつながるアンテナ』という難しい課題を解決する必要があったわけです。そこで、WNR-5400XE6では、本体に厚みを持たせることで、本体上部に3次元的にアンテナを配置しています」のだという。

 アンテナについては、「本体の内部には、ほかの周波数帯の制約を受けることがないように6GHz帯専用とした2本のアンテナを含む、合計4本のアンテナが、それぞれ別々の方向に配置され、端末がどの方向にあっても高い感度で電波を受信できるように工夫しています」という。

 つまり、“見える場所においてもらうためのデザイン”と“6GHz帯の電波のためのアンテナ配置”の相反する課題を解決するために、現在のデザインが生まれたことになるが、そのいずれもが妥協なく、むしろ進化しているのだ。

 デザインの面では、個人的には従来モデルよりもスッキリとした好印象を受けるし、設置面積も実は台座を含めれば従来モデルと同等となっている。

円筒形のデザインを採用していた「WRM-D2133HP」

 その上で、アンテナは同社がかつて円筒形モデルである「WRM-D2133HP」で新採用したアイデアを発展させた技術によって、6GHz帯でも5GHz帯と同等の電波で使えるように、さらなる進化を遂げているという。

 ちなみに、これは今回のインタビューで得られた豆知識だが、6GHz帯ではアンテナの取り外しができないように規制されているとのことで、アンテナを外付けする場合は、固定で取り外せないようにする必要があるそうだ。外付けアンテナを採用する他社の製品がどうなっているのか、興味が湧いてくるところだ。

有線LANにもコダワリあり

 一方、有線に関しては、「1Gbpsを超える回線サービスが普及してきたことを考慮し、INTERNETポートを2.5Gbps対応としました(永谷氏)」という。

 今回のWRN-5400XE6は、5GHz帯および6GHz帯の速度が、2ストリーム160MHz幅で最大2402Mbpsとなっている。有線LANも2.5Gbpsに対応したことで、回線から無線端末、有線接続機器まで、全て2.5Gbpsクラスで接続されることになる。

 また、WNR-5400XE6では、LANケーブルや電源ケーブルを下から差し込めるようになっていて、下部の両側面には、デザイン的なアクセントとしても見せるようにケーブル処理用のスペースが設けられている。

 これにより、どの方向で設置してもケーブルを処理しやすくなっている上、壁掛けでもすっきりと配置できる。

 二井氏によると、「基板のデザインを変更するのは、開発上、大きな影響がある上、最終的な製品のアッセンブリーの段階でも上部のアンテナと基盤の配置の関係で手間がかかります。しかし、『置いてもらう』ことを考えると、そこは妥協できませんでした」という。

 開発陣のコメントが、必ずユーザーのメリットへと帰結することに感心してしまった。

EasyMeshで6GHz帯が使えるのは、バッファローだけ!

 このように、ハードウェアの設計を見ても、かなりの工夫がこらされた製品だが、ソフトウェア面もかなり作り込まれている。

 同社は、Wi-Fi 6製品の全ラインナップで、メッシュの標準規格であるEasyMeshへの対応を果たしているが、今回のWNR-5400XE6も、EasyMeshに対応している。

 「それはそうだろう」という声が聞こえてきそうだが、実は、これはスゴイことなのだ。

 なぜなら、現時点ではEasyMeshは6GHz帯、つまりWi-Fi 6Eの規格に対応していないからだ。

 小野氏によると「現状のEasyMeshの規格では、6GHz帯が考慮されていないので、メッシュを構成しても6GHz帯が使われない構成になってしまいます。このため弊社では、EasyMeshを利用した場合でも、アクセスポイントとクライアントの接続に利用するフロントホール側で6GHz帯を利用できるよう独自に機能を拡張し、この技術で特許を申請しています」という。

 もちろん、EasyMesh構成で6GHz帯をバックホールに使えないことに変わりはないが、小野氏によると、「EasyMeshだけでなく、『親機・中継機構成』の中継モードも用意することで、6GHz帯をバックホールとして利用可能です。この場合、IEEE 802.11rの高速ローミングや、EasyMeshならではの簡単な初期設定は使えませんが、空いている6GHz帯をバックホールに使う中継が可能になります」とのことだ。

 こうして書くと、同社が淡々と6GHz対応を進めてきたように読めてしまうかもしれないが、実際の開発は苦労の連続だったという。

株式会社バッファロー事業本部ODM第三開発課ODM開発係の太田雅矢氏

 同社の太田雅矢氏(事業本部ODM第三開発課ODM開発係)は、「とにかく、6GHz帯に関する情報が不足している上に、環境も整っていないことから、かなり開発に苦労しました。国内の6GHz帯の認可がどのような条件になるのかもギリギリまで明確になりませんでしたし、そもそもテストしようにも電波暗室などの環境が限られる上、接続テストに使えるPCなどの端末も数が限られており、手探りの状態で開発を進めてきた部分もあります」とのことだ。

 今回のWNR-5400XE6のスペックには、各帯域の接続可能な端末の台数が12台と記載されているのだが、太田氏によると、実際に12台のWi-Fi 6E端末を用意することは非常に難しかったそうだ。

 チップベンダーなどに協力を求め、何とか台数を確保したという話は、今でこそ笑い話として笑顔で語っていたが、当時は担当者として非常に頭が痛かったことだろう。

 ちなみに、実際の使い勝手については、あらためてレビューする予定だが、EasyMeshは同社の従来機種との接続も可能な上、2.5Gbpsの有線をバックホールとして利用することもできるとのことだ。

「つなぐ技術で、あなたに喜びを」を体現

 最後に、国内のWi-Fi市場を常にリードしてきた同社に、今回の製品への思いについて改めて語ってもらった。

株式会社バッファロー事業本部コンシューママーケティング部BBSマーケティング課課長の下村洋平氏

 同社の下村洋平氏(事業本部コンシューママーケティング部BBSマーケティング課課長)は、「弊社は『つなぐ技術で、あなたに喜びを』という理念で製品開発を進めてきました。それは、今回のWi-Fi 6E対応製品WNR-5400XE6で特に意識しています。市場には『新しい技術は少し待った方がいいんじゃないか?』『Wi-Fi 6E対応PCやスマートフォンが揃うまで様子を見た方がいいんじゃないか?』という声もあるかと思います。しかし、私たちとしては、いいものはいち早く使っていただきたいと考えています。今回のWNR-5400XE6は、単に『Wi-Fi 6E』という新しいトレンドを追ったのではなく、6GHz帯という干渉なく空いている帯域が本当に使う価値のあるものだということを多くの方に知ってもらうために開発しました。WNR-5400XE6を、より多くの方の『喜び』につなげていきたいという気持ちが強くあります」とのことだ。

 開発陣、全員に共通するのは、冒頭でも触れたように常にユーザー視点の発想だ。これなら、「何だ、Wi-Fi 6Eって、こんなものか」と、ユーザーががっかりさせられることはないと言えそうだ。

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