数十年にわたる調査の結果、チンパンジーとゴリラは同じ木でいっしょに食事をするなど、異種間で長期にわたり社会的関係を築いていることが明らかになりました。
Interspecific interactions between sympatric apes: iScience
https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105059
Study reports first evidence of social relationships between chimpanzees, gorillas – The Source – Washington University in St. Louis
https://source.wustl.edu/2022/09/study-reports-first-evidence-of-social-relationships-between-chimpanzees-gorillas/
Chimps And Gorillas Seen Hanging Together In The Wild, And We Wish We Were Invited : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/chimps-and-gorillas-seen-hanging-together-in-the-wild-and-we-wish-we-were-invited
これはワシントン大学の霊長類学者クリケット・M・サンズ氏らのチームにより明らかになったものです。サンズ氏らはコンゴにあるヌアレバ=ンドキ国立公園の森林で、20年以上にわたり類人猿の観察と研究を行ってきました。
チンパンジーとゴリラのように異なる種が仲良くする理由について、想定される理由の1つは「捕食者への対策」です。実際、ヌアレバ=ンドキ国立公園にはヒョウやヘビなどの捕食者が存在し、チンパンジーがヒョウに殺された事例があるとのことですが、今回の研究で得られた情報からは、捕食者の脅威を軽減することには特につながっていないことが示唆されたとのこと。
代わりに有力な理由として考えられるのが「採餌機会の強化」です。観測されたチンパンジーとゴリラの協力関係のうち、34%が「同じ木で一緒に食事をする」事例、18%が「近くでそれぞれ別のエサを食べている」事例でした。チンパンジーとゴリラは少なくとも20種類以上の植物をエサにしていました。
食料源となる木では、若いゴリラとチンパンジーが、特定の相手を探して遊んでいる姿も観察されたとのこと。論文の共同著者でワシントン大学のジェイク・ファンクハウザー氏は「もはや、個々の類人猿の社会的風景が、その種で完全に占有されていると考えることはできません。私たちが観察した類人猿同士の社会的関係の強さと持続性は、これまで想像もしなかったような社会的認識の深さと社会的伝達経路の広がりを示しています。このような異種間の社会的関係が、社会的に学習された文化的行動と有害な感染症、両方の伝達経路として機能する可能性があることを考えると、今回の研究で得られた洞察は非常に重要なものといえます」と語っています。
類人猿にとっての大きな脅威は密漁と生息地の喪失、そして病気の伝染です。ファンクハウザー氏が述べたように、異種間コミュニケーションには病気をうつしてしまうリスクがあります。チンパンジーとゴリラは近縁なので、同じ病気が広まる可能性があり、過去にはエボラ出血熱により世界のチンパンジーとゴリラの3分の1が死んだとのこと。これまでは、この病気伝染のリスクがあるため、類人猿同士はお互いに避け合うと考えられてきましたが、今回の研究はそれを大きく覆すものとなっています。
一方、大型の類人猿の共存は、初期のヒト族間の相互作用について知る機会になるという見方もあります。古人類学では、初期のヒト族は同じ地域で同じ資源を使用することからお互いを競争的に排除すると仮定してきましたが、寛容な社会的状況であれば今回の研究のように共存した可能性が考えられます。
サンズ氏は、チンパンジーとゴリラの行動と生態を理解するためだけでなく、これらの類人猿とその生息地保護のためにも縦断的研究の継続的重要性を強調しました。
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