GoogleとFacebookが多くの広告費を囲い込むウォールドガーデンに、亀裂が入り始めている。
それが、メディアマネジメント企業イービクイティ(Ebiquity)のCEOを務めるニック・ウォーターズ氏の見立てだ。そして、同氏なら知っているはずだ。広告会社の幹部たちは、大手広告主のCMOと、広告費の使い道について話し合うことに多くの時間を費やしているのだから。その使い道が、GoogleやFacebookではないことが増えてきている。
「これらのチャネルの効果は、必ずしも支出に見合うものではないという認識が、マーケティングコミュニティに広がりつつある」とウォーターズ氏はいう。
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広告支出は相変わらず2強に流れ込んでいるが
断っておくが、GoogleやFacebookが落ち目だというのではない。広告費は変わらず2社に流れ込み続けている。ただし、その勢いがこれまでに比べて落ちている。信じられない話だ。いつもであれば、GoogleとFacebookの2強は、この種のことには無縁だった。不況、疑わしいビジネス慣行、さらにはプライバシーに関する規制など、何があろうと彼らの広告収益は増え続けた。
並外れた複占状態だったが、どんなものも永遠には続かない。とりわけ、オーディエンスの水増しに対する不満、測定の問題、最近では政治がらみの面倒ごとにまみれたプラットフォーム上での広告などは、危ういといえる。規制当局や新たなライバルから、こうしたビジネスモデルの両端に圧力がかかっていることを考えれば、なおさらだ。
「まだ現実を受け入れようとしない広告主もいるが、これらのプラットフォームが過大評価されている事実は、否定しがたくなっている」とウォーターズ氏はいう。Facebookの方がより顕著であるものの、両チャネルともに効果が低下していることが、それを十分に示していると同氏は指摘する。ソーシャルネットワーク上の広告、特にアプリからの広告は、以前ほど正確ではない。
もっと具体的にいうと、Appleが広告を正確に届けるためのデータを制限して以降、そのようになってしまった。データの助けがなくては、マーケターが以前と同じように、ソーシャルネットワーク上で広告を出すための説得力あるビジネスケースを構築することは困難だ。
かつてはこれらの広告費のほとんどが、Googleに流れていた時期があった。今でもある程度はそうだ。しかし、そうでない場合もあり、それが今後ますます増えることになるだろう。TikTokにしろAmazonにしろ、マイクロソフト(Microsoft)やAppleにしろ、より多くの企業が広告費を奪い合うようになっている。
潤沢な広告費、などはない
Googleが、自らの独占する広告費を狙う企業と戦うのは、今回が初めてではない。しかし、戦いのルールをGoogleが設定しないのは今回が初めてだ。むしろ今回は、ライバルに有利な条件になっている。少なくともウォーターズ氏は、YouTubeに広告費を使い続けるのと同じくらい、TikTokの出現に目を光らせているマーケターたちから、そのような感触を得ている。とはいえ、短編動画アプリのTikTokが成功を収めていても、YouTubeは今のところ安泰のようだと、ウォーターズ氏はいう。
「YouTubeの提示する条件は、TikTokの挑戦にかなりうまく対抗しているが、かたやインスタグラムはそうではない」と、ウォーターズ氏は述べている。
デジタル広告に潤沢な広告費があったとしても、これらのプラットフォームにとって状況は十分に厳しいだろう。しかし、潤沢な広告費などないのは明らかだ。それどころか、広告費はこれらのプラットフォームから、ストリーミングサービスや他の形式のアドレサブルTVに移動し始めており、特に最近ではNetflixやディズニープラス(Disney+)の広告付きプランの登場により、テレビ広告が再び流行している。奇妙に聞こえるが、2強の損失はテレビの利益となり得るのだ。
「放送局やストリーミングサービスは、広告付き動画ソリューションの提供を増やすことで、より費用対効果の高いリーチを、大幅に向上したターゲティングとともに提供できるようになった。加えてそこには、感情的なつながりを生み出す上で、テレビ広告が今なお最も効果的なメディアだという前提がある」とウォーターズ氏はいう。
「広告主は、デジタルがすばやく短期的な結果を生み出すのに対し、テレビが長期にわたって効果を発揮するという事実を忘れていた。それが、そもそもデジタルプラットフォームへの過剰な広告費の配分につながっていたのだ」。
クライマックスの始まり
この手のレトリックには、大いに既視感がある。大手広告主のCMOは、数年おきに大手プラットフォームから予算を引き上げると脅しをかけているように思える。しかし今回、GoogleやFacebookにより多くの予算を投じることに懸念を覚えているのは、大手ブランドだけではない。デジタルに投じられる広告費の大半を占める、より小規模なブランドもそうだ。さらに現在は、マーケターが心変わりをする理由が、他にもたくさんある。両プラットフォームとも、景気後退と新たなライバルに直面しているのだ。
公平にみて、これはGoogleとFacebookにとって潜在的な問題がクライマックスを迎えたという状態ではなく、その始まりの始まりにすぎない。両プラットフォームは堅牢そのものであり、いざとなれば自らの広告事業をねじ曲げることができるという前例もある。今後は、不安定かつ機能不全の状態が続く経済情勢を、広告費がどのように持ちこたえるか次第だ。今のところ、マーケターは広告費を投じ続けていると、ウォーターズ氏はいう。
「クライアントはマーケティング予算を削減しておらず、我々への手数料も削減していない」。
イービクイティの最近の業績が、その主張を裏付けている。同メディア管理企業の売上高は、2022年の上半期に16%増の3720万ポンド(約60億8800万円)、営業利益は117%増の500万ポンド(約8億1800万円)を記録した。それでも現状では、広告主、ひいてはイービクイティの収益に影響を与えかねない逆風が吹いている。
「下半期は上半期よりやや業績が落ちるだろう」とウォーターズ氏は語った。
Seb Joseph(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)