美容専門店 がマスチャネルを支配するようになった理由

DIGIDAY

美容関連商品のショッピングは昔とは違っており、いまは美容に特化した専門店が存在している。

1990年代に初めてセフォラ(Sephora)やアルタビューティ(Ulta Beauty)が登場し、百貨店の動きを混乱させてからというもの、30年以上にわたって美容小売業には変化が起きてきた。だが、時が経つにつれ、専門小売の影響力はeコマースや量販店といった他のショッピング領域にもじわじわと浸透している。こうした状況の主な動機となっているのは、顧客がどこでどのように買い物をするのか、そして専門小売はどのように影響を及ぼし、それに応じてきたかという、どちらが後か先かは曖昧なダイナミクスだ。

CVSやターゲット(Target)で販売されている北欧の大衆向けスキンケアブランド、ルメネ(Lumene)を例に挙げてみよう。ルメネの北米担当ゼネラルマネージャーのヨハンナ・パービライネン氏は、北米市場をルメネの国際的なマスティージ(手頃な価格で高級感のあるブランド)というポジショニングに合わせて「顧客のいる場所にいる」ために、前述の店舗以外にも新たな専門小売業者へとブランドの流通を拡大することが自分の任務だと述べている。彼女は、オンラインの専門小売をターゲットにしているが、実店舗も1、2店ほど検討している。

生まれ変わりつつあるマスビューティ小売

美容業界において重要なテーマとなっているのは、「驚きと喜び」といったフレーズやコミュニティ構築と同等に、顧客がいるところで製品が入手可能であるということだ。これらの言葉は使い回されているうちに陳腐になる傾向があり、人々は、そうした言葉がどのように作用するのかはもちろん、実際の意味にも疑問を感じなくなっている。顧客がいるところにいる、というケースでは、たとえば、ユースケース、クリーンなポジショニング、多様性に基づいた製品の品揃えの細分化が進み、小売業者はこうした種類の製品に特化した専用スペースを棚に設ける必要に迫られている。その結果、私たちが知っているようなマスビューティ小売が消失し、生まれ変わりつつあるのだ。

コールズ(Kohl’s)はセフォラ、JCペニー(JCPenney)はサーティーンルーン(Thirteen Lune)、ウォルマート(Walmart)はスペースNK(SpaceNK)、ターゲット(Target)はアルタビューティといった具合に、大手量販店が専門小売業者との小売提携を選択し、ショップ・イン・ショップ(ウォルマートの場合はエンドキャップ陳列の拡張)を展開している。CVSは提携小売店なしでプレステージビューティに特化した独自の専門カウンターの構築を選択し、8月にローンチした最新のバージョンはスキンケアセンター(Skin Care Center)と呼ばれている。これはブランド数を減らし、より多くの棚スペースを確保したショップ・イン・ショップのコンセプトを向上させたものだ。CVSはエクスプレス美容サービスを提供するために、2018年にグラムスクワッド(Glamsquad)と提携してビューティIRL(BeautyIRL)という体験型コンセプトをローンチしており、その提携は現在160店舗におよんでいる。CVSのビューティ・アンド・パーソナルケア・バイスプレジデントのアンドレア・ハリソン氏は、ビューティIRLが若いデモグラフィックを惹きつけ、より大きなバスケットサイズ、より頻繁な店舗への来店につながったと述べている。

変化する消費者の購買行動

ルメネの顧客は3つのセグメントに分類されると、パービライネン氏は言う。手頃な価格の製品を探している人、クリーンな製品を求める人、そして輝きを与えてくれる製品を求めている人だ。特に小売の細分化と専門小売を重視する要因となっているのが、クリーンビューティである。デトックスマーケット(The Detox Market)、フォレイン(Follain)、クレドビューティ(Credo Beauty)といったクリーンビューティ小売が、このカテゴリーに対応するべく出現し、一方セフォラ、アルタビューティ、ブルーマーキュリー(Bluemercury)は、クリーンビューティの基準やクリーンブランド向けの特別な店内マーチャンダイジングプログラムを発表した。アルタビューティは2020年2月にクリーンビューティの小売業者フォレインと提携しており、クリーンビューティがいかに専門的であるかを強調している。

「消費者の購買行動が変化していることがすべてであり、ルメネは消費者が買い物をしたいと思う場所に行く必要がある」とパービライネン氏は語る。「大型店(の小売)は、視認性や信頼性において明らかに重要な役割を果たしており、一方、専門店やオンラインマーケットは、消費者の直接的かつ具体的なニーズに対応している」。

専門小売との提携で新規顧客を獲得

だが、ラグジュアリー、プレステージ、マスといった美容ブランドの区別が曖昧になるにつれ、なぜ量販店は専門店の助けを必要とするのかという疑問が生じてくる。

「あまりにも長いあいだ、百貨店と量販店との区分けが強固だったため、ターゲット(のような小売業者)は、信頼性の点で問題を抱えていたかもしれない。人はそうした小売業者が化粧品に関してエキスパートだとはあまり思わない」と、ウォートン・スクール(Wharton School of Business)でマーケティングを教えるバーバラ・カーン教授は述べている。

これまでのところ、これらのパートナーシップは成功していることが証明されている。8月の第2四半期決算説明会で、ターゲットのCEOブライアン・コーネル氏は、アルタビューティのショップ・イン・ショップが「トラフィックと売上を徐々に増加」させていることを受け、ターゲットはこのプログラムを迅速に他店舗へと拡大しようとしていると述べた。ターゲットは、2022年末までに800店舗を運営するという目標を掲げている。ターゲットの美容売上全体は、第2四半期に前年同期比で1桁台の高い伸びを示している。コールズに600店近くのショップ・イン・ショップを持つセフォラは、2023年にさらに850店まで拡大する予定だ。この提携は、セフォラのないコールズの店舗と比較して「1桁台の高い売上高」をもたらしていると、コールズのCEOミシェル・ガス氏は8月の第2四半期決算の際に述べている。さらに、2021年8月に提携を開始して以来、コールズは100万人以上の新規顧客を獲得している。この顧客層はコールズの平均的な顧客と比較すると年齢が若く、多様性に富んでおり、頻繁に買い物をしている。

顧客のためのワンストップショップを作る

「顧客のいる場所にいる」ことのもうひとつの側面は、文字通り、顧客が住んでいる場所を指す。これは、専門小売やそのプレステージブランドパートナーがマススペースに進出する魅力を物語っている。ウォルマートでプレステージビューティ・マーチャンダイジングディレクターを務めるローリー・テシエ氏は、ウォルマートの多くの顧客にとって、実店舗でプレステージブランドにアクセスするのは必ずしも便利ではないのだと説明する。ブルーマーキュリーやセフォラのような小売業者は、従来、地方や小さな町ではなく都市部の人通りの多い場所を中心にしてきた。しかしほとんどの顧客はプレステージとマスを横断して購入する。1万店以上の店舗を抱えるウォルマートによれば、アメリカ人の90%がウォルマートの店舗から10マイル(約16キロメートル)以内に住んでいるという。ビューティスペース(Beautyspace)と呼ばれるウォルマートとスペースNKの提携は3月に始まり、当初は250店舗で展開された。

「私たちは、顧客にアクセスと利便性を提供しようとしてきた」とテシエ氏は言う。「いま私たちが行っていることは、ウォルマートの既存のインフラのなかで顧客のためにワンストップショップを作ることだ」。

ビューティスペースの特設のエンドキャップ陳列には、マリオバデスク(Mario Badescu)やランサー(Lancer)といった、ボディケア、ヘアケア、スキンケア、メイクアップにまたがるさまざまなプレシテージブランドが並ぶ。これはカテゴリーに基づいた通常の通路の区分けとは異なっている。エンドキャップのリセットは、従来の美容の通路よりも頻繁に行われる可能性があると、テシエ氏は述べており、プレステージブランドはこの環境でホリデーギフトセットを紹介する絶好の機会を手にしていると付け加えた。

「ウォルマートの通路のなかで、ほかの売り場とは違っていると感じられる特別な場所をブランドに提供することを、これまで以上に重視するようになった」とテシエ氏は話している。

買い物したいと思うような環境を提供

CVSとそのスキンケアセンターは、特に美容に熱心な初心者にとって便利であることも要素のひとつだった。ビューティIRLは、サービスやインディーズブランドを通じて、より楽しめる美容ショッピング体験を作り出すことをベースにしていたが、それに対しスキンケアセンターは専門性やキュレーションを重視している。棚に並ぶブランドや商品の数は少なく、各センターにはエステティシャンが常駐して、買い物客がスキンスコープ(Skinscope)という診断ツールで自分の肌を分析できるようになっている。

「すべての顧客体験は、顧客の期待に影響する」とハリソン氏は言う。「顧客はいま、特定のブランドや体験、より高いレベルのサービスを求めている。私たちのまわりの小売業者がそれらを提供するなかで、当社は買い物をしたいと思えるような環境を提供することを意識しなければならない」。

ルメネは、全米で3店舗にしかないCVSの最新のスキンケアセンターの一部ではないが、CVSのヘルシースキンケア(Healthy Skin Care)コンセプトの一部である。ヘルシースキンケアのユニットは、全米2000店以上のCVSで体によい製品にスポットを当てており、ルメネはその大半で取り扱われている。CVSの棚でよいポジショニングを得たことで、ルメネは過去2年間で1店舗あたりの売上が2倍になったという。ラロッシュポゼ(La Roche-Posa)やダーマロジカ(Dermalogica)のような似たような価格帯のおなじみのプレステージブランドと並ぶことで、棚でより注目を集めることができる。見た目のよい棚に多くのスペースを確保することも、ルメネにとって人目を引いてより多くを伝えるのに役立っている。

「これは、純粋なドラッグストアブランドであることをやめて、ブランドを再ポジショニングするという(私がやろうとしている)ことに合致しており、役に立った。CVSが始めたことはすばらしいことだ。CVSはブランドに対する同じ(専門性の)ニーズを認識している」とパービライネン氏は述べている。

さらに排除されるマス小売の画一的なアプローチ

CVSのスキンケアセンターの成功は、顧客からのフィードバックとブランドの売上増加に基づいている。いつ、どこで展開するかは未定だが、小さな試みでさえも、CVSの美容戦略全体を推進するにあたっての情報となるとハリソン氏は言う。美容カテゴリが引き続き細分化していくにつれて、マスブランドは専門小売を手本にし、これまでのようなマス小売の画一的なアプローチをさらに排除していくだろう。たとえばメラニンの多い肌向けの品揃えにも大きなチャンスがあるとハリソン氏はみている。専門小売にとってもうひとつの豊富な分野として、多様性とインクルーシビティが控えており、いくつかの小売企業が、こうした顧客のニーズに対応する方法を模索している。特にJCペニーは、黒人やラテン系の人他人が所有するブランドに注目したeテイラー、サーティーンルーンと提携している。アルタビューティ、セフォラ、クレド、ブルーマーキュリーはいずれも、棚の15%を黒人所有の企業に与える誓約である15パーセントプレッジ(15 Percent Pledge)に署名しており、さまざまなキャンペーンでBIPOCの声や美の視点を取り上げている。

「人々、特に若い世代は、ブランドがDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)について話すことを強く求めている」とカーン氏は指摘した。「これは美容における重要なトレンドだ。そしてそれを小売店でさらに目にするようになるだろう」。

[原文:How specialty beauty retail came to dominate the mass channel]

EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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