NFTベースのロイヤルティプログラムを導入するブランドが増えるなか、コーヒーショップやヨットレースは、「Web3の約束」がユーザーにとって十分に魅力的かどうかの、次なる試金石になりそうだ。
スターバックス(Starbucks)は9月中旬、スターバックス・オデッセイ(Starbucks Odyssey)を発表した。既存のリワードプログラムと2022年中に始動するNFTプラットフォームを組み合わせたサービスだ。
ロイヤリティプログラムとNFT
また、ロイヤルティプログラムのため、NFT関連の新たな取り組みを始めたブランドもある。たとえば、小売企業ゲームストップ(GameStop)は、バーチャルゲーム「ゴッズ・アンチェインド(Gods Unchained)」のNFTトレーディングカードを発表し、ロイヤルティプログラムのメンバーに提供する予定だ。ヨットの国際大会セールGP(SailGP)も、スポンサーのオラクル(Oracle)、ブロックチェーンプロトコルのNEARと共同で構築したWeb3ロイヤルティプログラムの計画を発表した。
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これだけではない。トム・ブレイディ氏が創業メンバーに名を連ねるNFTスタートアップのオートグラフ(Autograph)は8月、NFLのシーズン中、オンラインとオフラインのさまざまなイベントやコンテンツを通じて、ファンがNFLのスターとつながることができる新しいクラブを発表した。オートグラフの最高マーケティング責任者、パット・キャシディー氏は「我々は、主流オーディエンスの道しるべにならなければならない」と話す。「これがうまくいけば、未来のファンダムの青写真になるだろう」
企業はNFTの販売によって利益を得るだけでなく、ロイヤルティプログラムを通じて顧客と長期的な関係を維持する新しい方法を試している。それがどのようなものになるかはまだわからないが、メンバーがオンラインとオフラインの両方でコミュニティーや限定コンテンツ、新しい体験にアクセスできる可能性がある。
大手は顧客管理のためいち早くWeb3を導入
セールGPのデジタル、エンゲージメント責任者、デイジー・ボランズ氏は、一定のポイントを獲得すると、ユニークなNFTを手に入れることが可能になり、NFTを集めると、新たなアクティビティにアクセスできると説明する。ファンが集めたNFTで取引したり、アバターなどのコンテンツをつくったり、一般の人がなかなかできないことを現実世界で体験してもらうことで、ファンへのリワードとなるような施策になる予定だ。
NEAR財団(NEAR Foundation)で全世界のブランド戦略とパートナーシップを統括するクリス・ゲント氏は「つまるところ、私たちは閉じたシステムから開かれたシステムに移行しようとしている」と語る。「アメックス(Amex)のポイントが彼らの世界に閉じ込められているとすると、セールGPの大ファンが自分のトークンをほかのトークンやロイヤルティプログラムと交換できる世界を想像してみてほしい(中略)個々のプログラムに縛られることで生じる摩擦を取り除くことができる」。
ガートナー・リサーチ(Gartner Research)のアナリスト、アビバ・リタン氏によれば、一部の大手ブランドは顧客管理のため、いち早くWeb3を導入しているという。一方、Web3ベースのロイヤルティプログラムはNFT所有者に、一般的なロイヤルティプログラムより幅広いアクセスの機会をもたらすという意見もある。マッキャン・ワールドグループ(McCann Worldgroup)のグローバルイノベーションディレクター、エラブ・ホーウィッツ氏は「全員がデジタル取締役会の一員であるかのような」メンバーシップもあると述べている。
「以前は、大きなスポーツ組織のスポンサーにならなければ持つことができなかったような影響力を、正しい方法で発揮できる可能性がある」と、ホーウィッツ氏は説明する。「実際、NFTを購入すれば、今すぐ影響を与えることができる」。
スターバックスは今後の計画についての取材に応じていないが、スターバックスの最高デジタル責任者を務めた後、カスタマーグロースプラットフォームを開発するブライトルーム(Brightloom)のCEOになったアダム・ブロットマン氏は8月、NFTを活用したロイヤルティプログラムの可能性についてDIGIDAYのインタビューで語っている。スターバックス・オデッセイの構築を支援するフォーラム3(Forum3)の共同創業者でもあるブロットマン氏は、Web3ロイヤルティプログラムを「顧客エンゲージメントと次世代のロイヤルティ、データ、アナリティクスの“ベン図”」と表現した。
「顧客層を理解したら、セグメント化が可能になる」と、ブロットマン氏は話す。「『従来のロイヤルティモデル以外で、どうすれば彼らと関わることができるのか?』と言うのは、それほど飛躍した話ではない」。
スタートアップ各社もWeb3への取り組みを開始
ブランドのWeb3ロイヤルティプログラムに取り組むスタートアップはほかにもある。NFTを活用したブランドのロイヤルティプログラムを手掛けるハング(Hang)は、クライアントのひとつであるバドワイザー(Budweiser)のようなビールブランドが顧客ロイヤルティを構築する新しい方法として、人々がガソリンスタンドや食料品店でビールを購入する際、どこで購入してもポイントが付くようにすればいいと考えている。
一方、QRコードのスタートアップであるフローコード(Flowcode)は、人々が現実世界の場所やイベントを訪れた際、NFTバッジを獲得できる新たな方法を構築するため、暗号通貨のスタートアップPOAPと7月に提携した。
フローコードの創業者兼CEO、ティム・アームストロング氏はDIGIDAYのインタビューで、「どれだけのブランドが双方向の関係、それも壁がない本当の双方向の関係を持っているかというと、大半のブランドは顧客とそのような関係を築いていない」と語っている。
また、ブランドは単に新しいウォールドガーデンをつくろうとしているのか、それとも、人々がNFTを好きな場所に持って行くことができるWeb3やオープンウェブの約束を完全に受け入れているのかという疑問もある。ガートナーのアナリストであるリタン氏によれば、多くのブランドはこの技術の可能性にそれほど注力していないという。たとえば、スターバックスは今のところ、Web3以前の技術にできないことはしていないように見える、とリタン氏は指摘する。
「このチケットを持ってピーツ(Peet’s)に行き、コーヒーを買うことができるのであれば、話は別だが」とリタン氏は前置きし、「ユーザーをスターバックスの世界に閉じ込めておくのであれば、あまり革新的ではない」と語った。
[原文:From Starbucks to sailing leagues, Web3 loyalty programs are being tested more broadly]
Marty Swant(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu