コンピュテーショナル(空間)オーディオのその前に。
日頃から、やりすぎなんですが、オーディオメーカーのヘッドフォンを15本使い回していて、決定的に感じたことがあります。
個々のスペックとか採用しているテクノロジーでもちろん音の印象は変わってくるのですが、それ以上に大きいなと思うのは、メーカーが「いい音」というのをどのように捉えるかという設計思想。
哲学的になっちゃいますけど、すべての人の耳が同じで、聞く音楽も同じなわけではないので、全員が納得する100点満点の音ってなかなか難しい。そうなるとエンジニア、そして音を設計するオーディオロジスト(聴覚の専門家)たちが何を重視して音のチューニングをするのかが腕の見せ所で、それを知ることがリスニングの面白さにも繋がると思うようになったんです。
彼らは技術と経験値でマーケティング(最大公約数)とパーソナル(最小単位の最適化)の間にある「いい音」の最適解を知っていて、なおかつ企業理念や歴史や野望をそこに盛り込んで「いい音」とはこれじゃいと主張しているわけです。つまり趣味としてのオーディオ愛好とは党派の戦いであり、好きなメーカーを各々が選ぶ総選挙みたいなもんなんです。
重きを置くのはレンジなのか音圧なのか。原音忠実か、煌びやかさか。それとも迫力の重低音なのか、伸びやかな広域なのか。今回AirPods Pro(第1世代)が手元になく、仕方なく比較対象としてどうかとは思いながら、所有していたAirPods Maxと比べてみました。するとAppleの考える「いい音」がはっきりと見えてきました。
Appleの考える「いい音」とは?
1. (iTunesノウハウの蓄積からくる)原音忠実再生
2.(全域を重視しているとは思うが)特に中域の解像感と存在感
3. 歪みのないクリアーな音質、というよりも耳に心地いい歪みとそうでない歪みをうまくチョイスしている。キラキラした音場より、どっちかというと音の存在感、温かみを重視
Appleがアナウンスしているというわけではなくて僕の予想です。すみません。
AirPods Pro(第2世代)では、それがAirPods Maxよりさらに如実に表れていました。一言でいうと派手じゃないけどしっかりした音。フラットで原音に忠実な音質はAirPods Maxのほうが上ですが、ひょっとしたら味わいや個性はAirPods Proのほうがあるかもしれません。
ボーカルものは歌がグッと前に出て、インストものでは、生楽器のニュアンスが微妙なところまではっきり聞き取れる。他社の完全ワイヤレスイヤホンよりも中域の情報量が豊かなんだと思います。そして耳に優しく長く聴けるタイプの音。決して諸手を挙げてびっくりする音、業界を揺るがす革命的なサウンド、ということではない。しかし、革命的な音は「空間オーディオ」のほうで用意してるからいいでしょう。
そして、空間オーディオにこそ、上記3点は欠かせない。いち早く生演奏で空間オーディオにチャレンジした人気バンド、WONKも「空間オーディオは重低音重視の音圧の塊のようなサウンドは向いてないかも」という話をしていました。AirPods Pro(第2世代)の方向と一致しますね。
ちょっとびっくりしたのは、音の存在感としては真空管アンプでアナログレコードを聴くリスニング体験を思い出すような、デジタルだけどアナログな心地よさがあること。DTMの専門用語的にいえば、サチュレーションが効いている感じ。最近、オーディオ専門誌に執筆するライターさんのオーディオルームに遊びにいったんですが、その時に聴いた真空管アンプの音響みたいでした。そのライターさん曰く、解像度やワイドレンジだけじゃない耳に優しい音って、ピュアオーディオの世界ではむしろ最先端のトレンドらしいです。
これから空間オーディオをチェックしますが、俄然楽しみになってきました。
Source: Apple