「日常生活のなかで、音楽が果たす役割に改めて目を向けた」: ボーズ CMO ジム・モリカ氏

DIGIDAY

2022年9月7日、オーディオ界の二大ブランドが米両海岸でそれぞれ、競合する新製品を発売した。カリフォルニア州クパチーノでは、AppleがAirPods Proの第2世代を発表。かたやニューヨークシティでは、ボーズ(Bose)が新製品クワイエットコンフォート・イヤーバッズII(QuietComfort EarBuds II)を送り出した。両者の大きな違いは、後者が他ジャンルのテクノロジー製品開発には手を出さず、音楽至上主義を前面に押し出している点にある。

「業界を見回せばわかるとおり、巨大テック企業らは皆、テレビやラップトップにスマートフォン、テレビ番組や音楽プラットフォームに広告ネットワークなどさまざまなジャンルに手を広げている」と、ボーズのチーフ・マーケティング・オフィサー、ジム・モリカ氏はDIGIDAYに語った。「だが我々が創るのは、音楽のための製品と体験のみだ」。

7日午後のインタビューのなかで、モリカ氏はAppleの名前はあえて出さなかったが、イヤーバッズIIの販促用に新たなプラットフォームを立ち上げ、音楽を人々の生活に融合するためのさまざまな方法を改めて提唱していく旨を語った。

なお、長さと読みやすさを考え、発言には編集を加えてある。

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――ブランドプラットフォーム新設の背景には何が?

有料広告はもちろん、販促において相応の目的を有しているが、消費者とコミュニケーションを取り、エンゲージするための主要な手段にはなりえない。広告は誰でも簡単にスキップできる。ストリーミングも、DVRもいまや当たり前であり、オンライン広告はいとも容易くスキップもブロックもできる、それに付随するほかのあらゆる要素も然りだ。つまり、繋がるのがなおいっそう困難な環境であり、だからこそ人々と繋がるためには、従来と違うよりオーセンティックかつオーガニックな手段を見つける必要がある。

――Appleの方針転換や新たに制定されたさまざまなデータプライバシー保護法によって、多くの広告主はオーディエンスへのリーチに関して問題を抱えている。それはボーズにとっても課題だったのか? コンテンツ戦略の一部はその対応策なのか?

私はむしろパブリッシャー的視点で見ている。我々が使用するフィルターはここでもやはり、音楽に関するもの、そして音楽およびサウンドを愛する人々に関するものだ。2021年、我々はあるキャンペーンを立ち上げた。従来のデモとは異なり、行動学的、心理学的な約50ほどのセグメントを設け、人々が何を考え、どのような行動をとるのか、ということに着目したものだ。それはつまり、我々は人々が何を考え、どのように行動するかをしっかりと観察しているということだ。それらコンテンツのトラッキングは、たとえばあなたと私にまるで異なるコンテンツを提供するために、大いに役立つ。

その種のコンテンツ制作は、多大な労力を伴う。実際、我々はスタジオを立ち上げ、一部は社内で、一部は制作会社らと作業している。そしてそれとは別にエージェンシーも動いており、彼らは週におそらく250前後のコンテンツを量産している。これは従来のものとはまったく異なるモデルだ。すべてがいわゆるATLのテレビCMのように洗練されたものになるわけではないが、違う類のオーディエンスには極めて高い効果を発揮しうる。

――オーガニックに対して、ペイドメディアにかける経費はどのくらいか? さまざまな製品の登場や経済見通しの変化のなかで、広告費はどのように変化してきたのか?

誰しも、一定期間中は広告出費をある程度一定にしたいと思うだろう。いわば凪の状態が長引くと――それが小康状態であってもなお――妥当な地点に戻るまでに、かなりの時間がかかってしまう。実際ある一定期間、ボーズはいくつかの市場で経費を抑えていた。それらの市場に今後、我々がより強力なかたちで参入していく姿が見られるだろう。この最新キャンペーンでは、ボーズ史上最大のメディアプッシュを実施していく。言わば、包括的な存在感を示すのだ。

私の立場からすると、コンテンツを作るのであれば、それを見てもらうために相応の資金を投じる必要がある(後略)。今回のキャンペーンも今後のキャンペーンでも、我々にとって真に重要なのはサウンドであり、巨大な影響もしくは文化的瞬間を生み出すことだ。今後、壮大なコンテンツクリエイションを行ない、たとえばNFLシーズンの開始時、何人かのアスリートを中心に、スポーツのための音楽に投資をする姿が見られることになる。それで多くのオーディエンスを引き寄せられれば、そこには大いなる結びつきがあるということだ。

――マーケティングインサイトに関するあなたの知見は、ボーズの製品開発戦略にどのような影響を与えたのか?

まずは、日常生活のなかで音楽が果たす役割に改めて目を向けた――つまり、音楽が日々どのような形で現れるのかに着目し、その音楽に人々が耳を傾けるありとあらゆる瞬間を創出した。すると、そうした異なる瞬間に人々がどのような製品を使うのかが見えてきた。つまり、そうした機会がどこにあるのかが見えてきた。

たとえば、ポータブルスピーカーについていえば、公園や海岸といった場所に持っていったり、パーティや友人および家族との集まりの場に置いたり、といった形で使う時間は、実際にはごくごく短いことがわかった。だがその一方で、その種のスピーカーはそうした場面での使用を人々に促す大きな刺激であり、人々は実際、そこを意識して購入する。つまり、人々は購入前に、その商品がどう使えるのか、どれくらいポータブル(持ち運びに便利)なのか、その瞬間に適したどのような機能が付いているのかを考える。その点を我々は製品開発に採り入れている。また、それによってコンテンツ創造の導入も変わっている。

――オーディオハードウェア界では現在、ライフスタイルマーケティングへの注力が主流になりつつあるようだ。ボーズも今後、コアなオーディオ愛好家以外にも展開していくのか?

ライフスタイルと音楽を切り離せるとは思わない。ライフスタイルと音楽は――ファッション・ウィークや、アート全般がそうであるように――密接に結びついている。両者が別物だとは、どう考えても言い難い、というのも、音楽は文化を推進するからだ。音楽は文化によって定義される。音楽はその瞬間に起きていることによって創られる。

彼らがアーティストと呼ばれるのには、然るべき理由がある。彼らは音楽という工芸品を創造するからだ。音楽のライフスタイル的要素、人々に何か大きなことをしてみようという刺激(インスピレーション)と、そのためのサウンドトラックを提供できる力……だからこそ、我々は今後も、興味深いアーティスト、興味深いアスリート、興味深い起業家、興味深いシェフといった人々とコンテンツを創造していく。その点で拡大していくと考える。

――誰もが動画に夢中ないま、オーディオ界はいわゆる空白地帯に思えるが。

その言い方はおかしい。たとえばYouTubeの音楽は動画にフォーカスしているが、そこにはちゃんと音楽が被さっている。タイダル(Tidal)もそうだ。あれは今後、非常に大きなオーディエンスを獲得する可能性を秘めているし、その理由はサウンドクオリティにフォーカスする姿勢にある。

テクノロジーの進歩とともに、サウンドクオリティも爆発的に進歩するわけで、ある時点に達すれば、AIではなく人間や、流行の仕掛け人など、個人がパーソナルキュレーションする余地が生まれるはずだ(中略)。このいわばオーディオ界のルネサンス(復活/再生)は拡大を続けるだろうし、それとともにオーディエンスも拡張を続けるのは間違いない。

[原文:Bose’s CMO on products, content and new ways to advertise audio
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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