全世界で10億人が利用しているというポテンシャルを背景に急速な成長を遂げたTikTokが、ビジネス領域においても頭角を現している。
エンターテイメント系動画を中心に楽しまれてきたTikTokは、この数年のあいだにユーザー層やコンテンツの多様化が進み、企業・ブランドによる活用が、規模や業種を問わず、かつグローバルに進んでいる。さまざまなフォーマットが覇権を争うデジタル広告市場において、その存在感がますます高まっているのだ。
広告分野における飛躍のもうひとつの大きな理由として、「TikTokは、人々が求める喜びや幸せを提供できるプラットフォームであり、その独自性が、ブランドとの対話を始めるきっかけを生む」と指摘するのは、TikTok for BusinessでVice President of Global Business Solutions, APACを務めるサム・シン氏だ。広告業界に長年身を置くサム氏が、「それほど頻繁に起こることではない大きな変化」と喩えるTikTokは、広告においてどのような独自性を発揮するのか? また、日本のデジタル広告市場にどのような価値をもたらすのか? 来日した同氏に話を聞いた。
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- −−サムさんは広告業界で長いキャリアと実績があるが、まず、今までの経歴と、TikTokにジョインしたきっかけについて教えてほしい。
- −−TikTokがもたらした変化は、それほどまでに大きいものだと感じたのか。
- −−おっしゃるように「短尺であること」は時代の要請であると感じる。ではそれ以外の点で、TikTokが爆発的な拡大を実現できたのは、どのような点がポイントになったのか?
- −−たしかに、TikTokなら簡単に動画コンテンツが作れる印象がある。ところで、コンテンツのカテゴリーというと、エンターテインメント系のコンテンツが多いという印象があるが、実際の状況は?
- −−そのコンテンツの広がりは、広告プラットフォームとしてのTikTokにどのような影響を与えているのか?
- −−クライアントサイドの視点でいうと、ここ数年、広告品質の向上が強く求められるようになっている。この点において、TikTokではどのような対応を取っているのか?
- −−日本市場にはどのように向き合っていくのか?
- −−具体的には、どのような点に注力していこうと?
- −−TikTokに似たような仕様を取り入れるソーシャルプラットフォームも見られるが、競合については、どのように捉えているのか。
- −−日本市場において、TikTok広告はさらに成長の余地があると思われるが、広告を出したいと考えている日本企業のデジタルマーケターに向けて、TikTokの広告効果を最大化するためのプランニングや戦略の立て方で、アドバイスがあれば教えてほしい。
−−サムさんは広告業界で長いキャリアと実績があるが、まず、今までの経歴と、TikTokにジョインしたきっかけについて教えてほしい。
私は30年以上、中東のドバイ、ヨーロッパ、アメリカ、中国など、さまざまな国で働いてきたが、キャリアのスタートは、P&G、グラクソ・スミスクラインといった、クライアントサイドだった。そして、次のステップでグローバルなデジタルプラットフォーム、エージェンシーへと移った。ひと言に広告業界といっても、クライアント、エージェンシー、そしてプラットフォームと、さまざまな立場で仕事をしてきたので、多角的な視点で物事を見ることができている。
TikTokに入社した理由だが、エージェンシーで働いていたときにTikTokの社員と話をする機会が何度かあったが、その時は特にTikTokに移るという考えは持っていなかった。しかし次第に、クライアントからTikTokに関する問い合わせを受けることが増え、それがTikTokについて深く学んでみたいと思うきっかけになった。さらに、TikTokのCEOや幹部と話をするなかで実感したのが、短尺動画を使ったTikTokのような新しいフォーマットが世の中に登場するというのは、それほど頻繁に起こることはない大きな変化だということ。TikTokは多くのメディアに注目されたが、このフォーマットはそれに値するものだ。この考えがきっかけとなり、TikTokに入ることを決めた。
−−TikTokがもたらした変化は、それほどまでに大きいものだと感じたのか。
少しマクロな視点で話すと、私は、TikTokが登場するまで、メディアには3つの段階があったと考えている。
第1段階は、状況認識や文脈といったコンテクストの時代で、媒体として典型的なものが新聞だ。たとえばスポーツの情報を得たければスポーツ欄を読む。映画に興味があれば映画紹介のページを、海外の時事問題について知りたければ、そのページを読む。それぞれの情報はそれに合った文脈の中にあるので、その文脈についての知識がなければ、必要な情報を手に入れることはできない。逆の言い方をすれば、文脈を知って初めて情報を入手できるということだ。
そして2番目の段階が、知識の時代。Googleのようなサーチエンジンを使えば、自分が知りたいこと、確かめたいことが、どのような文脈に属しているのかを知らなくても、必要な情報にたどりつくことができる。
3番目がソーシャルの時代だ。人は誰でも、家族、友人、同僚、そして昔の同窓生など、多くの人と社会的なつながりを持っている。そして自分が能動的に知りたいと思った情報ではなく、つながりのある人々が見てきたもの、経験してきたものにソーシャルメディアで触れ、それが原動力となって消費が始まるという段階だ。ここでは、文脈に関する知識はもちろん、自分がサーチをする必要もない。
そして4番目が、まさにTikTokが爆発的な伸びを見せている、今のコンテンツの時代だ。この段階では、コンテンツは、友達が好きなものに基づくのではなく、自分の興味に基づいている。ユーザーは、読みたいコンテンツを求めて、特定のコンテクストに沿ったページを探す必要はない。必要な情報を検索する必要もなく、また誰かとの繋がりを探すこともない。アプリがコンテンツの発見を可能にする、言い換えれば、ユーザーがコンテンツを探すのではなく、アプリを通じて、コンテンツの側からユーザーを見つけに来る時代になったとも言える。
ここに至るには、さまざまな変遷があったと思っている。たとえば今日、膨大な量の情報が氾濫し、人々の目や耳に入ってくる。しかし多くの人にとって時間は有限であり、情報に対峙する集中力は長く続かないものだ。たとえば15年くらい前を振り返ってみると、30分のテレビ番組は長尺であり、2分くらいの長さのものが短い動画という認識だった。しかし昨今、2分はすでに長尺で、短尺と呼ばれるのは、TikTokのような15秒のフォーマットの動画なのだ。このように、メディアに向き合う、人々の考え方自体が変わってきている。人々は、コンテンツを視聴したり、ほかの人とやりとりをする場合でも、非常に効率を重視する。だから、短尺であるTikTokのフォーマットが支持される。私たちは、そういった時代に突入しているのだ。
サム・シン(Sam Singh)/TikTok for Business Vice President of Global Business Solutions, APAC。約30年に渡るキャリアにおいて、革新的なマーケティングおよび広告ソリューションを開拓。Googleやグラクソ・スミスクライン、プロクター&ギャンブル、IPGなどにおいて、重要な指導的地位を歴任。TikTok for Business入社前は、大手広告代理店GroupMの南アジア担当最高経営責任者として、デジタルリーダーシップとコンテンツにおける競争優位性を顧客に提供し、事業の陣頭指揮を執る。2019年より現職。インド出身。
−−おっしゃるように「短尺であること」は時代の要請であると感じる。ではそれ以外の点で、TikTokが爆発的な拡大を実現できたのは、どのような点がポイントになったのか?
TikTokのスローガンに「INSPIRE CREATIVITY AND BRING JOY」というものがある。これを実現するために、TikTokは、特別なテクニックやツールが不要で、誰もが容易にオリジナル短尺動画コンテンツの制作と共有ができる仕組みになっている。そしてその動画はモバイルの全画面を占有し、サウンドオンで再生され、視聴者をフルアテンションで惹きつける。その結果、それまではコンテンツを視聴しているだけだった人たちが、見たコンテンツに反応し、自分でも動画を制作して共有するようになる。このようにして、TikTokは大きく拡大していったといえる。
もうひとつのポイントは、アプリのデザインや機能設計が、モバイルファーストであることだ。多くのアプリやプラットフォームは、PCをベースに設計されていて、そこからモバイル向けの縦型などの設計に変えるという、仕様の変更が必要になる。だがTikTokの場合、最初からモバイル向けに最適化されているので、使いやすく、新しいユーザーが容易に参入できる。それも飛躍的な拡大を実現できた要因だと思う。
−−たしかに、TikTokなら簡単に動画コンテンツが作れる印象がある。ところで、コンテンツのカテゴリーというと、エンターテインメント系のコンテンツが多いという印象があるが、実際の状況は?
たしかにスタート当初は、多くの場合、音楽やダンスといったエンターテインメント系のコンテンツが、共有・拡散されてきた。しかしここ数年、質・量ともにユーザーが拡大し、その結果、TikTokのユーザー層は社会の多様性を反映するようになってきた。年齢層を見ても、バランスの取れた構成になってきている。それに伴い、音楽やダンスなどの特技がある人に限らず、どんな人でも参加や利用ができるようになり、コンテンツの内容自体も多様化してきた。音楽やダンス以外にもアニメやゲーム、漫画、さらに最近では教育関係の動画、自己啓発、旅行のおすすめ、赤ちゃんの世話に役立つ道具の紹介動画などにまで、ジャンルが広がってきている。
@01310mu どれも色合いが良くって可愛い!!どの色がタイプ??✨ #リップモンスター ♬ リップモンスター – KATE
コスメブランドKATEの「リップモンスター(LIP MONSTER)」をTikTokクリエイターのmiuさんが紹介するTikTok広告。リップモンスターは、典型的な「TikTok売れ」事例として、TikTokがきっかけで若年層を中心に口コミが拡散され、新規顧客の獲得に成功した。発売から約1年で累計出荷本数350万本を突破した。
−−そのコンテンツの広がりは、広告プラットフォームとしてのTikTokにどのような影響を与えているのか?
過去4年間、ユーザー数、ユーザー層、そしてコンテンツの幅が広がってきたことで、クライアントに対する魅力も増してきたと思っている。
実際、TikTok広告には、ビューティ、美容関係、ファッション、一般消費財、自動車、フィンテックなど、あらゆる業種のクライアントから関心が寄せられ、多くの引き合いが来ている。またパートナーシップの観点では、大手の有力エージェンシー、代理店すべてから、我々との関係を構築したいというリクエストをいただいている。このような形で、日本でもほかの国でも、TikTok広告は急拡大をしている。なかでも、クライアント数の増加の速さは顕著で、ここ1年で5倍に増えた。クライアントの規模は大企業から中小企業までさまざまで、マーケティングの主要な目的や要件も、それぞれのクライアントで異なっている。アッパーファネルであれば、ユーザーへのリーチ拡大、エンゲージメントの深化などであり、ローワーファネルであれば、獲得率や、アプリのダウンロード率の向上、あるいは、リターゲティングの最適化といったリクエストがあるが、TikTok広告には、フルファネルで対応できるソリューションが用意されている。
−−クライアントサイドの視点でいうと、ここ数年、広告品質の向上が強く求められるようになっている。この点において、TikTokではどのような対応を取っているのか?
我々が注力しているのは、いわゆるブランドセーフティである。ブランドにとって適切なコンテンツであるかどうかを慎重に精査している。そして、ほかの国では問題にならなくても、特定の国においては問題になるコンテンツがあれば、クリティカルな状況を未然に防ぐためにしっかりと対策を進めていく。常に、適切な広告が適切なオーディエンスに届けられるような設計だ。
カンター(Kantar)による調査。TikTok広告はもっとも楽しく、⾯⽩く、⾰新的であるという結果に
(※画像クリックで拡大)
−−日本市場にはどのように向き合っていくのか?
当然だが、ビジネスとして収益化することが第一である。日本は、TikTokが営業をグローバルに進めるなかで、最初に進出した市場だ。経済的にも世界を率いていく国の1つであり、なおかつ、文化的にも非常に洗練されており、同時に進化を続けている。動きのある、非常にダイナミックな市場である。日本は私たちにとって非常に重要な市場だ。
そして、日本チームのメンバーは、ほかの国と同様に非常に力量があり、優秀な人たちだ。我々は、引き続き日本市場に注力していく。
−−具体的には、どのような点に注力していこうと?
マーケティングにかかわるクライアントからの要件は、グローバルレベルでは変わらない。消費者とつながりたい、リーチを広げ事業規模を拡大していきたい、ROIの高いメディア投資をしたい。それは、どこの国でも共通することだ。ただし各国の市場で、独特の文化や経済状況による違いがある。日本市場についていえば、次のようなことを考えている。
まずブランドについては、特定の業界に深く入り込み、そのニーズに合わせてカスタマイズされたソリューション、ベストプラクティス、トレンド、インサイトを提供していく。特に注力しようと考えているカテゴリーは、ゲーム、EC、消費財(CPG)、メディア&エンターテインメントなどだ。
広告効果の測定も重要だ。ブランドがインパクトを計測し、より費用対効果の高い意思決定を行えるよう、適切なソリューションを構築する。ニールセンやカンターといったパートナーと協力してTikTokでのキャンペーンのインパクトを計測し、それをもとに、企業がより良い成果を達成できるよう支援する。
クリエイティブに関しては、クライアントのニーズに対応できるパートナーのエコシステムを日本で構築し、また、広告品質の確保については、安全性、透明性、説明責任に基づき、ブランドにとってもっとも信頼できる環境を作るよう努めていく。
−−TikTokに似たような仕様を取り入れるソーシャルプラットフォームも見られるが、競合については、どのように捉えているのか。
率直に言うと、我々には、競合、同業他社と呼ばれる存在はいない。我々のプラットフォームの独自性は、あらゆる面で際立っているからだ。たとえば、ユーザーとのインタラクションという点だけを取っても、先にもお話ししたように、ユーザーがコンテンツを探すのではなく、コンテンツがユーザーを見つけてくれるという仕組みがある。これだけでも、TikTokが、いわゆるソーシャルメディア、ソーシャルプラットフォームではないということを理解していただけるのではないだろうか。
我々の今までの実績のなかで強調したいのは、TikTokはエンゲージメントが高く、アクションを起こしやすいプラットフォームだということだ。短尺の動画を見ながら、ユーザーは、その動画に対してコメントをしたり、新たな動画を投稿したりと、かかわり合いを持とうとする。
そして、そのようなやり取りを通じて、JOY(喜び)を感じているユーザーがたくさんいる。今という時代は、個人の生活の中で、何かに喜びを見出したり幸せを感じるということが、かつてないほど求められている。過去数年を振り返ってみても、社会は混乱し、経済的にも不安が生じている。人々は幸せを求めているのだ。TikTokは、そうした人々が求めている幸せを提供できるプラットフォームであり、同時に、その独自性によって、ブランドとの対話を始めるきっかけを提供しやすいプラットフォームでもある。
事実、広告効果の計測においても、TikTok広告はめざましい実績を作り上げてきた。業界のほかのプラットフォームと比べてもROIで際立った結果を残している。ニールセンによる調査では、TikTok広告はほかのプラットフォームと比較して1.6倍のROASを実現していることも明らかになった(出典:ニールセン「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)調査_日本」、2022年7月)。
出典:ニールセン「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)調査_日本」、2022年7月(※画像クリックで拡大)
−−日本市場において、TikTok広告はさらに成長の余地があると思われるが、広告を出したいと考えている日本企業のデジタルマーケターに向けて、TikTokの広告効果を最大化するためのプランニングや戦略の立て方で、アドバイスがあれば教えてほしい。
まず、日本企業の方々、ブランドのデジタルマーケターの方々に伝えたいのは、我々のプラットフォームはオープンに皆さんを歓迎しているということだ。
そこでひとつ知っていただきたいことは、プラットフォームとしてのTikTokは、常に変わり続けているということだ。昨日は正しかったことが、今日には否定されていることもある。時間の経過とともに、TikTokというプラットフォームは変化を続けてきた。まずそこを念頭におき、どのような動画を使って、どのようなメッセージを届けるべきなのかを考えていただければと思う。
そしてもうひとつ大切なことが、プラットフォームを選ぶ際には、規模、スケールが非常に重要であるということ。結果を求めるのであれば、ある程度のスケールが必要だ。
TikTokは、イノベーションによって細かな変化を積み上げていく、小規模なプラットフォームではない。一気に大きくスケールを伸ばしていくタイプのプラットフォームだ。そのようなプラットフォームだからこそ、動画に対する感覚が鋭いユーザーが膨大に存在している。そのようなユーザーに向けてメッセージを発信するのだから、動画でストーリーテリングをする技に長けているブランドならば、成功するチャンスは増えるだろう。
繰り返しになるが、TikTokは、フルスクリーンで常に音楽が流れているという、ユーザーに強く働きかける短尺動画に特化したプラットフォームだ。ぜひこのプラットフォームにふさわしいコンテンツ、広告を打ち、成功につなげていただきたい。
Sponsored by TikTok for Business
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 渡部幸和