米国で ライブコマース が普及しない背景:Facebookら大手企業もオーディエンス獲得に苦戦

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米国の大手テック企業は、かつて米国の小売の未来と謳われたライブショッピングへの取り組みを放棄しつつある。

Facebookの親会社であるメタ(Meta)は8月初旬、10月1日付けでライブショッピング機能を停止すると発表した。Facebookは2018年12月にLive Shoppingの実験を開始し、2021年5月にはライブショッピングフライデー(Live Shopping Fridays)プロジェクトを立ち上げた。これに参加しているブランドや小売業者は、Facebookライブ動画で、商品のプレイリストをキュレーションしたり、商品をタグ付けるすることができなくなるという。「消費者の視聴行動が短い動画に移行しているため、当社はFacebookとインスタグラムでも、メタの短編動画プロダクトであるリール(Reels)に焦点を移す」と、Facebookは企業の同社のブログに投稿している。

オーディエンス獲得の難しさ

メタやAmazonなどの大手テクノロジー企業の多くは、中国におけるライブショッピングの成功と、パンデミックのあいだにeコマースの売上が激増したことを受け、数年前にライブショッピングの実験を開始した。しかし、メタからの新しいニュースが示すように、これらの投資は少しずつ立ち消えになりつつある。もちろん、一部の大手テクノロジー企業は依然としてこのメディアに投資を続けている。たとえばイーベイ(eBay)は6月、ライブのインタラクティブ環境で閲覧・購入できる新しいショッピング専用プラットフォームの立ち上げを発表した。しかし、これらの取り組みのほとんどは、多くのオーディエンスを引き寄せることに失敗した。

大手テクノロジー企業は多くの場合、少数ながら増えつつある購買意欲の高い買い物客をeコマースビジネスに取り込むための方法として、ライブショッピングをプロモーションしてきた。

Facebook、TikTok、YouTubeなどのプラットフォームは、メイシーズ(Macy’s)や、ウォルマート(Walmart)、セフォラ(Sephora)などの大手小売業者と提携し、ショッピング可能なライブ放送を進めてきた。また、ライブショッピングと連動した商品発表も地道に行ってきた。

ピンタレスト(Pinterest)は、画像共有ソーシャルプラットフォーム上でのライブショッピング体験を可能にするため、昨年10月にピンタレストTV(Pinterest TV)を開始し、毎週金曜日にブランドからの割引を利用者に提供している。また今年5月には、クリエイター向けにライブストリーミング機能を強化した「ピンタレストTV」アプリを開始した。7月には、eコマース大手のShopify(ショッピファイ)が、ライブストリーミングコマース市場での競争に打ち勝つため、加盟店向けにYouTube Shoppingを導入した

ライブ配信はタイムシフトができない

小売業者のオンライン戦略策定を支援する専門家によると、ブランドは、中国で発展したショッピング習慣を再現しようとするのではなく、より実践的なコンテンツ形式を使いはじめているという。

ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、「Facebook固有の機能を使用していたブランドは、実際のところテストと学習を行っていたにすぎない」と語っている。「私の知る限り、その方法から特に大きな成果を得たブランドはなかった。そして、Facebookはいま先に進もうとしている。したがって、それらのブランドのほとんどは、その予算をほかのテストや学習タイプの活動に再び割り当てしようとしているが、それが誰かのビジネスを混乱させることはないだろうと予測している」。

ゴールドバーグ氏は、各ブランドが自社のマーケティング予算のうちFacebookのライブショッピング機能に消費したのは約1%以下だと推定している。「予算の大部分を費やしたり、成長戦略の中核に据えたりしたブランドはなかった」と同氏は付け加えている。

別の専門家は、米国においてライブストリームショッピングへの意欲の欠如を指摘している。「FacebookがLive Shoppingをこれほど早く放棄したのは驚くべきことだが、同時に、米国ではライブショッピングが中国のように大きな注目を浴びなかったことも明らかだ」と、アルゴリア(Algolia)の最高戦略ビジネス開発責任者を務めるピュッシュ・パテル氏は米モダンリテールにeメールで回答した。アルゴリアは、同社はテック企業で、AIを活用した商品推奨機能を小売業者のウェブサイトに組み込むことなどを支援するテック系企業だ。

「ライブストリーミングはその性質上、人々がライブで配信されているときしかそれを見ないため、スケールがはるかに小さくなる。つまり、タイムシフトができないのだ。そのため、制作されたコンテンツの一つひとつが、米国内で人々に届く数もはるかに少なくなる。さらに、ライブストリームで買い物をする習慣もこれまで存在しなかった」とゴールドバーグ氏は述べている。

アルゴリアのパテル氏によれば、美容・化粧品ブランドのセフォラ(Sephora)は、Facebookのライブショッピングサービスを最初に利用したブランドのひとつで、毎週「Facebookフライデー(Facebook Friday)」というライブ配信を行っていたが、2021年7月にはFacebookフライデーを終了した。ほかの小売業者は、おもに自社内でのライブショッピングに投資することを決定した。たとえばメイシーズは昨年、自社ウェブサイトとアプリで独自のライブショッピング機能を開始した

「メイシーズは、メイシーズライブ(Macy’s Live)という自社ウェブサイト上で開催しているライブショッピング体験で需要が増加していると報告した。この環境では、進行役やスタイリストがリアルタイムで対応し、消費者は小売業者とリアルタイムで関わることができる」とパテル氏は述べている。

中国の成功を追いかけない

マーケットプレイスパルスの創設者でCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は、米国は中国の成功を盲目的に追いかけるのを止めるべきだとしている。

「eコマース業界は、中国での成功を再現しようと、何年も前からライブショッピングについて話し合ってきた。しかし、これまでのところ、ほとんどの試みは、買い物客を引きつけることに失敗してきた。Amazonはライブコマースの実験を行っている最大の小売業者だが、そのコンテンツは精彩を欠くみすぼらしいもので、Amazonの買い物客のほとんどが、その存在にすら気づいていないのが現状だ。ライブコマースを中心とする新興企業も存在するが、これらの企業は商品の品揃えが不足しがちで、ライブコマースのために別のアプリを使用したいという利用者からの需要があるかどうかは不明瞭だ」と同氏は述べている。

7月のプライムデー(Prime Day)の成功を受け、Amazonは、ライブプライムデー(Live Prime Day)の配信は、再生回数が1億回を超えたと、同社は語っている。「ライブショッピングに関して言えば、AmazonはTikTokプラットフォーム上のインフルエンサーと提携して商品を販売することで、TikTokを有効に活用した。この戦略が近いうちに消滅するとは、私は考えていない」と、アルゴリアのパテル氏は述べている。

しかし、Facebookがピボット(方向転換)することを決めたのは、消費者行動の変化に沿ったものであるということに、カジウケナス氏も同意する。

「Facebookは、消費者が、ライブ動画よりも短編の動画(リール、ストーリーなど)をはるかに楽しんでいるとコメントしている。私はこれに100%同意する。このようなメディア形式が優勢だ」と同氏は述べる。

「我々は利用者の声を聴き、それをもとに環境を作り上げるべきだ。小売業者やプラットフォームは、ライブコマースが中国で盛んであるという理由で推し進めようとしているが、利用者が好んでいるのは、ライブ動画よりも短い形式の動画だ」と同氏は付け加えている。

[原文:Despite investments from tech giants, live shopping is still struggling to take off in the U.S.]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Facebook/Meta

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