プライバシーサンドボックス 、テスト拡大も疑念の声:「業界各社はGoogleが売り込もうとしているユートピアを信じてはいない」

DIGIDAY

ChromeでのサードパーティCookieのサポート廃止時期が再三にわたり延期され、Googleの取り組みはペースが落ちてきたかに見える。しかしChromeエンジニアリングチームは、Cookie代替ソリューション開発を支えるプライバシーサンドボックスのテスト拡大により本気で取り組む姿勢を示し、アドテク業界の理解を得る意向らしい。

GoogleはChromeのベータ版限定でおこなっていた開発者向けオリジントライアルを、8月中にテスト範囲を拡大し、一般的なバージョンのウェブブラウザにも展開する予定だ。これにより、さらに実用的なインサイトが得られると担当者は期待する。

同社はこれまで、アドテク企業やパブリッシャーの参加により、トピックスAPI(Topics API)など、Cookie代替となる広告ターゲティングツール技術を検証するオリジントライアルをChromeブラウザのベータ版で実施してきた。

次の業界標準は何なのか?

サードパーティCookieは、かねてからプライバシー擁護派の不興を買い、メディア業界にとっては不満の種となっていた。Googleの最新の発表(7月27日)によれば、広告主は、2024年後半までは引き続きChromeでサードパーティCookieを使うことができる。ただ、将来的にどんなCookie代替ソリューションが業界標準になるか、関係者としては目が離せない。

プライバシーサンドボックス技術検証の一環としてFLEDGE(First Locally-Executed Decision over Group Experiment:ローカルで実行される集団決定の初回実験)の準備を進めるGoogleは、広く一般に普及している「Chrome Stable」に一連のテストを展開したい考えだ。範囲拡大により、トライアル参加企業から実用性のあるフィードバックを多数収集できるだろう。

初期段階のテストに参加したアドテク企業やパブリッシャーの関係者を米DIGIDAYが取材したところ、情報筋からは、プライバシーサンドボックスの最新提案がCookie代替技術開発の前進に必要な勢いをもたらすと期待する声が聞かれた。

Googleのプライバシーサンドボックス担当バイスプレジデント、アンソニー・チャベス氏は次のように述べている。「8月上旬から、プライバシーサンドボックスのテスト対象を世界で数百万人のユーザーに広げる予定だ。年末にかけて対象者を徐々に増やしていき、2023年に入ってからもテストを継続する」。

初期テストではデータ不足が結果に影響

Chromeは、ウェブブラウザとしてはもっとも普及率が高い。しかし、プライバシーサンドボックスの初期のテストは、ユーザー数が少ないChromeベータ版で実施された。そのため参加者は、テスト結果のデータが不十分だったと不満をもらしていた。

データから導き出されるインサイトも満足できるレベルではなかったようだ。あるパブリッシャー勤務の情報筋は、フィードバックの件数が少なすぎて、オリジントライアルに参加した意味がなくなると主張していた。たとえば現行のテスト環境で運用中のトピックスAPIでは、ターゲティング用ユーザー属性とウェブドメインとの紐づけが完全にはできないという制約がある。

また、トピックスAPIを通じて取得できるデータには、プライバシー保護を維持する目的で無作為に抽出したユーザー属性が含まれるが、一部の関係者はそれが不満らしい。あるパブリッシャーの情報筋によると、こうした制約によって広告主に提供できるデータシグナルの質が低下するため、パブリッシャーとしてはChromeブラウザ経由でサイトを訪問したユーザー情報にもとづく収益化の機会がそこなわれるという。

広告ターゲティングツールとしてのサードパーティCookieのサポート廃止によりChromeは、AppleのSafariやMozillaのFirefoxといった競合ブラウザと足並みをそろえることになる。ただし、プライバシーサンドボックスのテスト参加者の不満を反映してか、プロジェクトは遅延している。当初の計画によるとGoogleは、サードパーティCookieのサポート完全終了を2022年中と予定していたが、このたび2024年までの延期を決定した。

広告マネジメントサービス大手のカフェメディア(CafeMedia)CSOで、プライバシーサンドボックスのテストに関わった経験のあるポール・バニスター氏は、米DIGIDAYの取材に応じて次のように語った。「オリジントライアルがおこなわれたブラウザはChromeのベータ版のみで、ユーザー数がきわめて少ないうえ、テストの全要件を満たせない環境だ。そのため、当社が入手できたデータはごくわずかだった」。

さらに、バニスター氏はこうつけ加える。「今回のテスト拡大で、そうした大きな制約が解消されることになり、当社が取得できるデータの量もかなり増えるので、さまざまな面で助かる。以前、我々は『せっかくトライアルに参加したのに、わずかなデータしか得られず、手持ち無沙汰だ』と感じていた」。

広告関連のノウハウを獲得したいChromeチーム

Googleの社内事情については通説がある。Chrome部門のエンジニアリングチームとGoogle広告部門のエンジニアリングチームは別組織であり、両部門のあいだでは情報を共有しないようにしている。これはGoogleが、独占禁止法に抵触しかねない社内の慣行を容認しているとの疑惑を避けるために講じた予防策らしい。結果として、Chromeエンジニアリングチームが広告業界のニーズ把握の「ノウハウ不足」に陥っている、というのが、Cookieのサポート終了プロジェクトに協力する社外関係者の見方だ。

Googleは、広告の透明性確保をめぐる約束の一環として英国の競争・市場庁(CMA)に提出した最新のフィードバックレポートにおいて、自社の取り組みに改善を必要とする部分があるという認識を示した。たとえば、Chromeデベロッパー・リレーションズ部門のエンジニア、ローワン・ミアウッド氏は、自身が率いるチームには広告商品開発の経験が欠けているとし、サードパーティによるフィードバックの必要性を認めている。

ただし、GoogleのChrome部門と直接やり取りしている情報筋によれば、エンジニアリングチームでは最近、パブリッシャーのニーズ把握などにおけるスタッフの経験不足に対処するため、人材を強化したという。

プライバシーサンドボックスの進化に向けてGoogleがもろもろの障害を克服していけるかどうかは、時が経てばわかるだろう。その成り行きは、広告業界の成功とChromeブラウザの成功とのあいだに「密接な関係がある」状態を業界関係者が受け入れるか否かにかかっている。その「密接な関係」を不快に感じる関係者もいるだろうし、物事がそう簡単に進むとはかぎらない。プライバシーサンドボックスのプロジェクトにおけるFLEDGEのテストがその好例だ。

アドテクベンダーのRTBハウス(RTB House)でプログラマティック・エコシステム・グロース&イノベーション部門のバイスプレジデントを務めるルカッツ・ヴォダルチク氏は、次のように指摘する。「障害のひとつは、SSPがパブリッシャーに対し、FLEDGEと相性がよく、DSPのニーズに合った広告在庫の提供を可能にするソリューションをいまだ示していないことだ。これがテストの進捗を阻む大きな要因となっている」。

必要なのは抜本的な改革か

プライバシーサンドボックスのテスト拡大は、オンライン広告の改革を目指しながら果たせないでいるGoogleにとって、格好のカンフル剤となりそうだ。とはいえ、Cookie代替ソリューションへの移行をめぐる問題は依然として変わらない。変わったのはスケジュールだけだ。おそらく大半の関係者にとって延期は想定内だったろうが、その反面、これまで協力を続けてきただけに、やや拍子抜けした感もあったかもしれない。

「我々は引き続きプライバシー保護基準の作成に貢献し、事業継続に向けてテストを精力的におこなっていくしかない。第一の目的は、消費者のプライバシー保護を向上させる仕組みの再構築であり、それを忘れてはならない」と、インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)米州部門のシニアバイスプレジデント、マット・バラシュ氏はいう。「オンライン広告業界の初期に導入された基準やプロセスの全面的な改革を実行するにはもっと時間が必要だ」。

いずれにせよ、道のりは平坦ではない。テスト拡大の有無にかかわりなく、GoogleがサードパーティCookieの代替技術の模索に苦労しているのは明らかで、これほど複雑で微妙な駆け引きも求められる課題を、1社だけの努力で容易に解決できると判断するのは甘いといわざるをえない。また、今回のスケジュール延期は、業界関係者にとっていろいろ考えをめぐらせるきっかけになるだろう。たとえば、自らの工夫で課題に対処せずに、Googleがサードパーティ・アドレッサビリティを通じて解決してくれるのをただ待っていたらどうなるか。Googleにさらなる影響力を与えるかもしれない、といった具合に。

「業界関係者はみな、プライバシーサンドボックスのテストの進捗がはかばかしくないとわかっているか、少なくともうすうす感づいている」と指摘するのは、アドテクベンダーのショーヒーローズ・グループ(ShowHeroes Group)の米国カントリーマネージャーを務めるジョセフ・ロスパルト氏だ。「うまくいっていないプロジェクトを支援するため、エンジニアリング部門や営業部門に巨額の資金を投入しつづける意味が果たしてあるのかと、疑問を抱くのは当然だ。業界各社は、Googleが売り込もうとしているユートピアを信じてはいないだろう」。

[原文:Privacy Sandbox trialists eye a much-needed boost in data after scaled testing starts

Ronan Shields and Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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