イビクイティ(Ebiquity)がおこなった最近の調査によると、企業が支出する広告費のざっと10分の1がいわゆるクリックベイトサイトに流れている。これはいまに始まったことではない。企業の広告費が優良サイト以外の場所で使われるという事実は、これまでにも繰り返し報じられてきた。本当に驚きなのは、これらクリックベイトサイトがプレミアムパブリッシャーからさらに多くの広告費を吸い上げようとしていることに、なかばあきらめの気持ちが広がっていることだ。
マーケティングブリュー(Marketing Brew)が報じたこの調査によると、広告主たちは2020年1月から2022年5月のあいだに、業界幹部たちが俗に「MFA」と呼ぶ広告在庫に対して、1億1500万ドル(約20億円)という桁外れの大金を支払っている。「MFA(made-for-advertising)」とは、トラフィックの収益化だけを目的に開設されたサイトで、そもそもトラフィックを集めるためのコストなど気にかける必要もない。言い換えれば、これらのサイトは広告の裁定取引——つまり、鞘取りを生業としている。
そして、MFAサイトは大いに繁盛している。少なくとも、メディアマネジメントを手がけるイビクイティ、プログラマティックコンサルティングを提供するジャウンスメディア(Jounce Media)、ブランドスータビリティ事業を展開するディープシー(DeepSee)が共同でおこなったこの調査の結果を信じるなら、大盛況ということになる。
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「長いものには巻かれろ」戦略
UMでデジタルおよびグローバルブランドセーフティの最高責任者を務めるジョシュア・ローコック氏は米DIGIDAYにこう語っている。「意外な結果ではないのだが、メディアのサプライチェーンにおける透明性が依然欠如していることの証左であり、失望を禁じ得ない。実際、この報告書を読んだクライアントから、このようなサイトでの広告露出を制限するために、適正な管理がおこなわれているのかという確認の問い合わせが来る」。
前述の調査によると、先に言及した1億1500万ドルは、エビクイティのクライアント42社が5490のMFAサイトでディスプレイおよび動画のプログラマティック広告に支出した14億7000万ドルの約7.8%に相当する。本来なら、もっと質の高いパブリッシャーが手にしていたはずの金額だ。米国では、エビクイティのクライアントは平均して10ドルのうち1ドル(9.8%)をクリックベイトに取られている。しかしもっと深刻なのは、この問題が改善されるどころか、むしろ悪化しているように思われることだ。2020年以来、MFAサイトに流れるメディア予算を追跡してきたジャウンスメディアによると、2020年第1四半期には入札リクエストに占めるMFAインベントリの比率は10%だったが、いまでは20%に増えている。
このような報告書が出されるたびに、ショックや否定というお決まりの反応が返される。しかし突き詰めれば、そこにあるのは痛みを伴うあきらめだ。もっと率直にいうなら、広告業界の幹部たちは、なくせないなら利用しろといわんばかりの「長いものには巻かれろ」戦略に傾きつつある。
かつてはMFA在庫の販売を避けていたアドテク企業も、いまでは自社のマーケットプレイスにこれを組み込みはじめている。たとえば、ネイティブ広告を扱うアドテクベンダーのアドユーライク(AdYouLike)はこの4月に、MFAパブリッシャーのエグゾリゴス(Exorigos)との連携を開始した。最近では、プレミアムパブリッシャーのあいだにさえ、開き直りとも思える姿勢が見られる。たとえばグループナイン(Group Nine)は、MFAの専門業者への委託という形で広告裁定取引の需要機会に対応している。
安価なリーチを求める業界
もちろん、こうしたパブリッシャーも、読者を惹きつける優良なコンテンツで金を稼ぎたい気持ちがないわけではない。しかし、安価なトラフィックで儲かるようにできている市場では、優良なコンテンツを生産したところで、売上増が保証されるとは限らない。MFAとの連携は、このジレンマを解消する一手にはなり得る。ただし、MFAサイト側がこのような連携を必要としているわけでは必ずしもない。特に広告裁定取引を大規模に展開できるようになれば、単独でも十分にやっていける。
「裁定取引はMFAにとって実にうまく機能する」と、ジャウンスメディアの創業者であるクリス・ケイン氏は話す。「安価でビューアブルなトラフィックに対する需要は十分にあるため、MFAパブリッシャーは利益を維持しながら事業を拡大することができる」。
だが、こんなやり方をしなくても、別の道があるはずだ。安価なリーチを求める業界の進撃は止まらない。ウェブの最果てまでも突き進むだろう(内陸州のアリゾナで海辺に行き当たる確率のほうが高そうだが)。しかし、有効な選択肢はある。
- 不正トラフィックをより明確に区別するための業界標準を検討する。業界標準があれば、アドテクベンダーが不正トラフィックの排除を回避するのが難しくなる。
- パブリッシャーが持てる影響力を行使して、ほかのアドテクベンダーがMFAサイトから段階的にであれ手を引くように働きかける。パブリッシャーがMFAのインプレッションを販売するアドテクベンダーを解雇することはないだろう。それでも、MFAサイトから手を引かない限り、自分たちのサイトでは特別扱いしないと決めることはできるはずだ。誰でも参加できるオープンオークションのデマンドパートナーという十把一絡げの地位にとどまりたいベンダーなどあろうはずもない。
- パブリッシャーと同様に、バイヤーも声を上げるべきではないか。たとえば、大手のデマンドサイトプラットフォームなら、このようなMFAサイトからはインプレッションを買い付けないと決断することができるはずだ。
不甲斐ない市場の現状を告発するもの
もしかしたら、これら選択肢のうちどれかひとつを選ぶのではなく、いくつかを組み合わせれば、疑わしい在庫に対して意味のある前進を遂げることができるかもしれない。業界は無駄な広告投資による膨大な機会費用に気づきはじめている。優先順位は変わりつつあり、真の前進の初期兆候も見られると、イビクイティの最高製品責任者であるルーベン・シュラーズ氏は述べている。
同氏はさらにこう話す。「単に広告費が無駄になるというだけの話ではない。これら効果ゼロの入札リクエストやインプレッションは、恐ろしい量の二酸化炭素(CO2)を排出する。そして、ひとつのグループが単独で変化を実現できるわけではない。ブランド、エージェンシー、パブリッシャー、さらには(合法的な)アドテク企業が一致団結して容認可能な慣行を支持し、互いに責任を担い合うことが必要だ」。
パブリッシャーにとっては厄介な状況である。MFAサイトの広告が重要な指標にプラスの効果をもたらす可能性は限りなくゼロに近い。そのことを考えれば、MAFサイトに流れるメディア予算が増えているという事実は、不甲斐ない市場の現状を告発するものともいえる。とはいえ、パブリッシャーとしても泣き言ばかりをいってはいられない。
デンマーク最大のニュースパブリッシャーのひとつ、エクストラブラデット(Ekstra Bladet)でセールスおよびアドテクの責任者を務めるトーマス・ルー・リッツェン氏はこう話す。「パブリッシャーは自分たちの強みをもっとうまくアピールし、ブランドやエージェンシーとの日常の取引関係のなかでより積極的に発言する必要がある。バイサイドがパブリッシャーの在庫にアクセスしやすいように、競争のルールが許す範囲で、業界標準を示すこともできるだろう。もちろん、SSPの側も、まっとうなジャーナリズムを提供するサイトのほうが質が高いことをしっかり認識すべきだろう。人々はロングテールのサイトよりも、優良なニュースサイトを信頼する。それは紛れもない事実だ」。
十分ではないにしても、やらないよりはましだ。その点はバイサイドと同じである。
広告費の「掠め取り」を阻止すべき
トレードデスク(The Trade Desk)はその一例だ。プログラマティック広告の買い付けを支援する同社は、オープンオークションではMFA在庫の買い付けを制限している。完全な締め出しではない。バイヤーがMFAパブリッシャーと個別にプライベートマーケットプレイスを設定すれば、MFA在庫を買うことは可能だ。トレードデスクでは昨年あたりからこの方針を導入している。同社の広報担当者はこの事実を認めたが、詳細については言及を避けた。
「この問題を解決するためには、主要な広告主やエージェンシーが優良なニュースサイトをターゲティングの対象とするよう意識的に努力することが重要だ」。そう話すのは、安全で信頼できるローカルニュースサイトを集めたアッズフォーニュース(Ads for News)のクリス・ハジェキ氏だ。「規模の大小を問わず、優良なパブリッシャーから意図的に広告費をかすめ取るようなMFAその他のサイトに金が流れるのを、断固として阻止しなければならない」。
Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)