念のために、いま一度はっきりさせておこう。今年後半の広告支出は、いままさに大規模な修正の渦中にある。企業各社がさらなる経済の変動に備えるなか、大幅な削減が行われているケースもある。
その予兆は前四半期からあった。テレビ広告が減速し、広告支出の見通しも絶えず変化している(その一例が、早々に行われた広告の削減だ)。業界内のビッグネームのなかには、やがて訪れるであろう混乱期に備えている企業もある。
7月21日、広告実務者協会(The Institute for Practitioners in Advertising)が「ベルウェザー・レポート(Bellwether Report)」の最新号を発表した。そこには、こうした証言の裏づけとなる、英国の上位広告メディア企業300社から集めた調査データが詰め込まれている。
Advertisement
英国における企業各社の広告支出の意図と、財務的信頼感についてまとめたこのレポートを見れば、景気後退への懸念が企業のあいだで急速に高まっていることがわかる。
ベルウェザー・レポートに記載された数字
- 調査対象となった企業の約4分の1(24.2%)が、今年の第2四半期にマーケティング支出の総額を増やした。それに対して、予算を減らしたのは13.4%だった。
- メインメディア(テレビなどのいわゆる「ATL広告」)に関しては、広告予算は伸び悩みを見せ、1年続いた成長に終止符が打たれた。ネットバランスはプラス9.4%から急落して0.0%になった。これまでの四半期とは比べ物にならないが、オンライン(プラス18.6%からプラス4.4%)と動画(プラス9.0%からプラス0.8%)の広告支出は成長を維持した。
- 自社の財務に関する見通しは、2020年の第3四半期ぶりにネガティブな領域に突入した。企業各社のマイナス9.5%というネットバランスは、自社の業績に関する悲観的な見方のシグナルであり、この2年間で最大幅となる下降を示している。
企業は不安を抱いている
とはいえどこの企業も、いまのところはまだ広告費を大幅に削減してはいない。マクロ的懸念にも反応していない。確かに、各社とも今後の展開について警戒はしている。しかしその一方で、当面は支出を続けていく見込みだ。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス(S&P Global Market Intelligence)のシニアエコノミストで、「ベルウェザー・リポート」の著者であるジョー・ヘイズ氏は次のように語る。「英国企業の経済見通しは悪化しているが、そんななかにあっても、マーケティング活動全体に見られる持続的成長には期待が持てる。しかしながら、第2四半期におけるメインメディアのマーケティング予算の停滞は、残念な結果だった。これが示唆しているのは、こうした見通しをめぐる懸念が意思決定に重くのしかかっているということだ。強まる『生活費危機』が可処分所得に重くのしかかり、さまざまなリスクがダウンサイドに明らかに偏っている。その一方で企業は、経費の負担がふくらみ続けるなかで、支出に関する難しい決断を迫られている」
要するに、企業の悲観的な見方はいままさにピークに達しつつあるのだ。
経済に目を向けると、高い雇用率や持続する消費支出といった、期待が持てる兆しもあるにはある。しかし、世界的成長や期待利益はひっきりなしに下方修正され、これが不況をめぐる懸念を生んでいる感は否めない。こうした正反対の力が働く状況下では、たとえ根っからの楽観論者であっても、不安を抱くのは当然だろう。そしていま、シニアマーケターたちは厳しい選択を迫られている。
メディアデータ管理企業、レッドミル・ソリューションズ(Redmill Solutions)のCEO、ジェイ・スティーブンス氏は次のように語る。「いまの経済情勢を考えれば、メディア費のカットは当然だろう。その一方で、前途にはとてつもない規模の金融不安が待ち受けている。こうした状況下でブランド広告主に要求されるのは、予算の修正が必要な部分とその額を見極める能力だ。こうした見極めは一筋縄では行かないことが多く、これがCMOのプレッシャーの種になることもある。十分な情報に基づいて経費の削減を決め、正当性のある予算を組むためには、CMOはグローバルなメディアデータに対する良好な視界を維持しなければならない」
維持される契約と、下方修正される予測
シニアマーケターたちは、こうした意思決定にどこまで近づいているのか? それは、収益の窓を覗き込めば、次第に明らかになってくるだろう。たいていの場合、CEOは四半期の決算報告において、広告というものをカットすべき経費として見ているのか、それとも低迷期における成長コストとして見ているのかについて、アナリストに対して情報を提供している。話を聞くかぎりでは、現時点では、一部の企業は経費の削減を待ったなしで急いでいるようだ。
英国を拠点とするメディアオーナーに近い筋から聞いた話では、経済情勢の著しい沈滞をめぐる憶測が広がるにしたがって、広告主が印刷物やテレビといった従来型チャネルの「一時停止」ボタンを押す見通しであることを、一部のメディアバイヤーはほのめかすようになっているという。
あるメディアエージェンシー幹部によれば、クライアント各社はオフラインチャネルへの支出を抑え、手数料を削減しようとしており、これを受けて同社も、不況に向けたプランを練っているところだという。とはいえ、本格的なパニックが始まる兆しはまだなく、この減速もかつて交わされた広告支出に関する契約を反故にするまでには至ってない。
一部にとっては、これはまだ「炭鉱のカナリア」にすぎず、2022年の後半は試練のときとなる見込みだ。聞くところによると、メディア界の二大巨頭の親会社であるアルファベット(Alphabet)とMeta(メタ)でさえ、諸経費や人事に関してはブレーキを踏み始めているという。
ロシアのウクライナ侵攻によってサプライチェーンをめぐる諸問題も悪化しており、これにより広告主は広告費を抑えるようになっている(とくに著しいのが自動車メーカー)。マグナイト(Magnite)の首脳陣は先日の収支報告で、逆風のひとつにこの傾向を挙げた。専門家たちは、この傾向は2023年にまで広がると予測している。事実、自動車メーカートップ10社の2022年のテレビ広告支出は落ち込んでいる。
広告支出は明らかに減速
あるエージェンシーホールディングスの関係者によれば、1年前に比べるとやや上向いてはいるものの、PPC広告とプログラマティック広告支出の成長は第2四半期以降、減速しているという。
アドバタイザーズ・パーセプションズ(Perceptions)で予測部門のディレクターを務めるエリック・ハグストロム氏に話を聞いたところ、メディア投資のこうした手段の透明性に対する徹底調査の結果、プログラマティック関連の支出が部分的に落ち込んだのち、2023年に「急反発」が起こると予測していると教えてくれた。
PwCは2020年、全米広告主協会(The Association of National Advertisers)からの依頼により、透明性に関する調査を行った。この調査からは、英国国内の企業が使った経費の15%が使途不明だったことがわかっている。
また、調査によれば、有料検索キャンペーン(自社広告が売上の原動力になっていることを証明しようと躍起になっている広告主にとっては、安定した業績を上げてくれるものといえば、通常はこれになる)の予算は、2021年と比較して横ばいであるという。
[原文:Even digital will feel the pinch as media buyers cut forecasts amid a rising tide of anxiety]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:猿渡さとみ)