Q&A:ビデオプライバシー保護法 (VPPA)とは何か? – 動画プロバイダーの情報開示権限を制限する1980年代に成立した法律

DIGIDAY

かつてグローバルに展開していたビデオレンタルチェーン、ブロックバスター(Blockbuster)全盛期時代に可決されたある法律が、現代のストリーミング広告市場に潜在的脅威をもたらしつつあります。

「ビデオプライバシー保護法(Video Privacy Protection Act:以下、VPPA)」です。この法律を根拠に、HBOマックス(HBO Max)とHulu(フールー)に対する訴訟も起こされています。視聴者が観ているものの情報共有に対するVPPAの規制は、ユーザーの居住地や買い物傾向といった個人情報に基づくターゲティング広告が当たり前の現代においては、あまり関係がないように思えます。しかしその一方で、「個人情報」の定義を広げてVPPAの本文と組み合わせれば、ターゲティング広告を規制することも可能になるのです。

ストリーミングサービスを手がけるある企業の幹部は、次のように話しています。「広告という観点から我々が行っていることの大部分は、利用者への理解を深めて、ターゲティングをうまく行うことで成り立っています。そしていま、このように古い法律、文字どおりブロックバスターの時代に成立した法律が出てきて、まるで異なるデジタル市場に適用されつつあるのです」。

以下に詳細を見ていきましょう。

◆ ◆ ◆

  1. ――VPPAとは何ですか?
  2. ――ストリーミングサービスが登場する前に成立したVPPAを、どうすればストリーミングサービスに適用できるのでしょうか?
  3. ――VPPAはあらゆるタイプのストリーミングサービスに適用されるのでしょうか?
  4. ――わかりました。では、広告についてはどうでしょう?
  5. ――「主題」という文言が、ちょっとわかりづらいですね……これはどういう意味なのでしょうか?
  6. ――では、動画プロバイダーが「『ストレンジャー・シングス』を観てくれた利用者がいるのですが、出稿したい人はいますか?」と広告主にいうのは問題なのでしょうか?
  7. ――なぜこれが問題なのでしょうか?
  8. ――なぜ広告主は、特定の人物が、特定の番組や映画を視聴しているのを知りたがるのでしょうか? ストリーミングサービスが利用者の名前や住所の共有をブロックしているのであれば、この問題は発生しないように思えるのですが
  9. ――広告業界はメールアドレスやIPアドレスといった、他の識別子を使っていると思っていました。VPPAが発動するのは、その人の名前と住所……なるほど!
  10. ――VPPAが成立した当時は、アドレスといえば、その人が実際に住んでいる住所のことでした。でもいまは、メールアドレスもあれば、IPアドレスもあります。VPPAにおいて、ストリーミングサービスが動画プロバイダーと考えられているのであれば、これらも当然、「住所」と考えることができますね。
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――VPPAとは何ですか?

VPPAは1988年に米議会を通過した法律で、その目的は、動画プロバイダーの利用者がリクエストして入手した動画(映画やテレビ番組など)のタイトルと、その利用者の名前を組み合わせて開示するプロバイダーの権限を制限することです。たとえば、映画を有形販売するショップや、理論上はストリーミングサービスも、ある人物が『ダークナイト』や『ジ・オフィス』を購入したり、借りたり、ストリーミング再生したりしたという情報を、書面によるその人物の同意がなければ、誰とも共有できないのです。

――ストリーミングサービスが登場する前に成立したVPPAを、どうすればストリーミングサービスに適用できるのでしょうか?

VPPAの対象は「ビデオテープサービスプロバイダー」で、「録画済みのビデオカセットテープや同種の音声映像素材」を貸し出す、販売する、または提供する業者であれば、誰でもそれに該当します。この「同種の音声映像素材」という文言が曲者で、これがストリーミングサービスへのVPPA適用の扉を開いています。ストリーミングサービスは「音声映像素材」をインターネット経由で提供しているからです。

その好例がHBOマックスとHuluです。両社はVPPA違反で訴えられていますが、どちらの訴訟もユーザーの視聴データをFacebookと共有したことがその訴因でした。Huluに対する訴訟については、同社の勝訴に終わりました。Huluはユーザーの個人情報と視聴データをFacebookと共有する際に、これらふたつを結びつけていなかったという裁定が下されたためです。3月に起こされたHBOマックスに対する訴訟については、現在も係争中です。

――VPPAはあらゆるタイプのストリーミングサービスに適用されるのでしょうか?

映画・テレビ番組の貸し出しや販売を行っている業者はもちろん、サブスクリプションベースのストリーミングサービスも明らかにその対象でしょう。よくわからないのが、無料のストリーミングサービスです。

法律事務所リード・スミスのパートナーであるサラ・ブルーノ氏は、こう述べています。「無料のサービスにはクエスチョンマークがつきます。『無料のサービスなら、VPPAは適用されないのか?』という問題が表立って議論されているところを、私は見たことがありません」。

――わかりました。では、広告についてはどうでしょう?

広告については、話はさらにグレーゾーンに突入します。VPPAには例外が設けられていて、その条文によれば、「その開示の目的が、消費者に対する商品・サービスの直接販売への独占的利用である場合」に関しては、動画プロバイダーは利用者が入手した動画の「主題(subject matter)」を共有できます。この場合、動画プロバイダーが利用者の同意を事前に取得する必要はありません。この目的による情報の共有をオプトアウトできる手段を利用者に提供するだけでいいのです。

――「主題」という文言が、ちょっとわかりづらいですね……これはどういう意味なのでしょうか?

「主題」とはつまり、ジャンルやコンテンツカテゴリーといった記述語のことです。したがって、Netflixなどの動画プロバイダーは、ある利用者が『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を視聴したということはいえなくても、SFのカテゴリーのTVドラマを視聴したということならいえるのです。

よくわからないのは「主題」だけではありません。「消費者に対する商品・サービスの直接販売への独占的利用」もまた、解釈の余地を残しています。ここでいう「直接」とは、動画プロバイダーがその販売を行う場合を指しているのでしょうか? それとも、その販売が動画プロバイダーのプラットフォーム上で完了する場合を指しているのでしょうか? あるいは、サードパーティの広告主がこのデータを使って、動画プロバイダーの外で出稿することも許されるのでしょうか?

「VPPAが起草された当時、場合によってはサードパーティを介してさまざまな商品を消費者に売ろうとする企業もこれに該当すると考えられていました」と、ブルーノ氏は述べています。「でもいまは、アドテクエコシステムを介したデータのダウンストリーム使用があります。これについては、当時は考慮されていなかったのではないでしょうか。この例外がどこまで制限を受けるのか、興味深く見守っていきたいところです。

――では、動画プロバイダーが「『ストレンジャー・シングス』を観てくれた利用者がいるのですが、出稿したい人はいますか?」と広告主にいうのは問題なのでしょうか?

そうです。ただし、少し補足が必要です。問題は「ストレンジャー・シングス」を観てくれた利用者がいると言う動画プロバイダーではなく、「ある人物」が「ストレンジャー・シングス」を見てくれたと言うプロバイダーなのです。VPPAが効力を発揮するのは、その利用者の名前と住所が、その動画のタイトルと同時に共有されたときだけだからです。

――なぜこれが問題なのでしょうか?

なぜなら、広告主は特定の番組や映画の視聴者層にターゲティング広告を配信できるようにしたいし、消費者がブランドの広告を目にしたとき、どの番組や映画を観ていたのかを知りたいからです。あるエージェンシー幹部は、「Huluに対する不満の原因はこれです。何年も前から特定の番組でターゲティングさせてほしいと頼んでいるのに、彼らはコンテンツカテゴリーしか教えてくれないのです」と述べています。

――なぜ広告主は、特定の人物が、特定の番組や映画を視聴しているのを知りたがるのでしょうか? ストリーミングサービスが利用者の名前や住所の共有をブロックしているのであれば、この問題は発生しないように思えるのですが

視聴傾向は、特定の人や世帯のプロフィールに追加できるもうひとつのデータポイントです。広告業界では、年齢や居住地、世帯年収に基づいてオーディエンスグラフを作成することを好みます。それと同じように、彼らが『イエローストーン』の視聴者かどうかも、彼らと彼らの関心に対する広告主の理解を肉づけしてくれるもうひとつの情報なのです。

しかし、こうしたオーディエンスグラフを作成するには、この情報と識別子(その人の名前など)を結びつける作業が必要になります。VPPA適用の引き金になるものがあるとすれば、これでしょう。

――広告業界はメールアドレスやIPアドレスといった、他の識別子を使っていると思っていました。VPPAが発動するのは、その人の名前と住所……なるほど!

気づきましたか?

――VPPAが成立した当時は、アドレスといえば、その人が実際に住んでいる住所のことでした。でもいまは、メールアドレスもあれば、IPアドレスもあります。VPPAにおいて、ストリーミングサービスが動画プロバイダーと考えられているのであれば、これらも当然、「住所」と考えることができますね。

そうです。念のためにいっておくと、VPPAにおいて、メールアドレスやIPアドレスが住所に該当するかどうかは、はっきりしていません。しかし、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)をはじめとするプライバシー法の下では、メールアドレスやIPアドレスは個人を特定できる情報(PII)と考えられています。

さらには、VPPAのやや自由な定義によれば、PIIには「当人が特定の映像素材・サービスをビデオテープサービスプロバイダーにリクエストした、あるいはその業者から入手したことがわかる情報」が含まれるようです。この言い回しからは、メールアドレスやIPアドレスはその人を特定して、動画に関するさまざまな履歴に結びつける手段であるということに議論の余地を残しているような印象を受けます。プライバシーに対する規制の強化を考えると、ストリーミング広告業界がこの現状に神経を尖らせるのは当然でしょう。

「これをきかっけとして、これらの識別子のいずれかの開示が、VPPAによる個人情報の定義に当てはまることになるのかどうかに関しては、疑問もあります。もしそうなら、昔からある個人情報、たとえばその人の名前などに限られがちだった旧来の訴訟に、何らかの変化が生じるでしょう」と、ブルーノ氏は述べています。「だからこそ、その定義が明確になるまでは、今後も新たな訴訟を目にすることになるのではないかと思うのです」。

[原文:WTF is the Video Privacy Protection Act?

Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)

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