届けるのはウーバーイーツではなく配達員

アゴラ 言論プラットフォーム

見慣れた感のある、街中を走る「ウーバーイーツ」の配達員。最近は、ロードバイクではなく普通の自転車(ママチャリ)で運ぶ人もちらほら。彼ら(彼女ら)は、被雇用者ではなく、フリーランス(個人事業主)です。フリーランスは、現在500万人。前年の296万人から急増しています(※1)。

従業員として「雇用」せず、フリーランスとして業務委託する。このような制度を、タニタ(株式会社タニタ 以下タニタ)は2017年から、電通(株式会社電通)は2021年から導入しています。その流れは中小企業にも広がりつつあります。懸念されるのは偽装請負です。

今回は、フリーランスについて考えます。

ウーバーイーツは何業か

ウーバーイーツの主たる業務は何でしょうか。

「配送?」

いいえ。「技術サービス提供」と「代理受領」業務です。ウーバーイーツの技術サービス契約(※2)には以下のように記載されています。

「貴殿は、当社が『技術サービス提供業者』であり配送サービスを提供するものでないことを確認し、その旨同意する。」

「配送料は当社が『代理受領』権限に基づきユーザーから受領し、貴殿に支払われることになるものとし、貴殿はこれにあらかじめ同意する」

ここにウーバーイーツの狡猾さがあります。

ウーバーイーツは、「技術サービス提供」「代理受領」業者であり、配送業ではない。「指揮監督」を行っておらず、雇用に該当しない。これがウーバーイーツの理屈です。

狡猾な企業

このような雇用「的」取引が成立する背景には、狡猾な企業(雇用主)と、立場の弱い労働者の存在があります。

5月18日放送のクローズアップ現代(NHK)では、従業員のフリーランス化について社労士に相談する企業が増えている、と伝えています。

「(フリーランス化の手続きについて)うまく法に触れないか、適法に活用できているかというご相談も多いかなと思う(社会保険労務士)」

「自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で」|クローズアップ現代(NHK)

従業員として雇用しない。企業にとってのメリットは、給与や社会保険料など固定費を減らせることです。必要なときだけフリーランスとして仕事を頼む。必要ない時はコストを発生させない。固定費を変動費化できるのです。

では、減った固定費はどこに行くのか?仕事を受けるフリーランスです。

フリーランスのコスト

フリーランスは、雇用主が負担していた「固定費」という「コスト」を、自分で賄う必要がある。そのため、雇用されていた頃より、はるかに時給を高くする必要があります。

ウーバーイーツの配達員の方々は「コスト」をどれぐらい意識しているでしょうか。

配達に使っている自転車は永久に使えるものではありません。耐用年数で割った「減価償却費」を考慮し、買換えに備える必要があります。メンテナンス費や、保険料なども馬鹿になりません。これらは全て「コスト」です。

rockdrigo68/iStock

比較的早い段階から、フリーランス化したタニタの従業員も、「コスト」意識は高くありません。対象者のひとりは、「タニタの働き方革命(谷田千里著 日本経済新聞出版社 )」で、以下のように述べています。

「住民税と国民健康保険料の負担がかなり大きくなったのは驚きでした」「税金・社会保険はこれまで天引きだったので、自分自身であまり払っている感覚がなかったんですね」
(タニタの働き方革命|谷田千里著 日本経済新聞出版社 )

会社が負担していた社会保険料。仕事に使う家具やパソコン、事務用品。家賃や更新料。トイレの水や照明など光熱費。スキル向上のための教育訓練費。従来、会社が負担していた費用は、コスト意識から抜け落ちがちです。これらすべてを自分で負担する必要があります。

コストを合計し、年間の稼働時間で割ったものが、自分の「原価時給」です。フリーランスは、これを上回る「売価時給」で仕事を請け負う必要があります。

自分を安売りするフリーランス

しかし、多くのフリーランスは原価時給を売価時給に転嫁できていません。いいかえると、自分を安売りしているのです。

令和2年5月に内閣官房日本経済再生総合事務局が行った、フリーランス実態調査結果で、その実態が浮き彫りになりました。

令和2年5月内閣官房日本経済再生総合事務局フリーランス実態調査結果より

・収入は、200万円以上300万円未満が19%と最も多い
・これは、雇用者しての年収と同傾向である

雇用者よりコストが高いフリーランスにもかかわらず、年収はほぼ同じ。コストが売価に転嫁できていない危険な状態です。この状態が続くと、徐々に生活が困窮していきます。

企業の固定費がフリーランスにシフトしている。であれば、これを自身のコストに含め、原価時給を策定する。少しでもこれを超える売価時給で、仕事を請け負う必要があります。

自身の価値を見極めて交渉を

働き方に関する考え方は様々です。

アマゾンの宅配を請け負うフリーランスのドライバーは以下のように言います。

「報酬も高いし、何よりも自由なので、最高の仕事ですよ」

アマゾン配達「勝ち組」ギグワーカー「自由な働き方、ブラック社員より遥かにいい」、ネガティブ報道に反論

一方、上述のクローズアップ現代では、フリーランス契約した結果、所得が最低賃金以下となった宅配ドライバーを例にあげ、警鐘を鳴らしています。

「この業界『使い捨て』ってよく言うんですけれど、動かなくなったら、次を補充する」「ぐったりですよ。本当にもう休みは寝るだけ。つらいです」

「自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で」|クローズアップ現代(NHK)

その働き方は「最高」なのか。本当に報酬は高いのか。雇用からフリーランスへの切り替えを提示されたときは、ぜひ自身の価値を見極めて、検討いただきたいと思います。

※1 ランサーズ 新・フリーランス実態調査2021-2022年版より
※2 Uber サービス契約

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