Apple のDSP設立計画、同社の採用情報から明らかに:「彼らは自社のアセットを活用し、人知れず広告事業を構築してきた」

DIGIDAY

Appleはデジタル広告ビジネスを破滅に追いやったが、一方で自分たちが広告費獲得にフォーカスした事業を立ち上げられるだけの豊かな土壌を残しておいた。最新の採用情報が正しければ、同社はDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を設立しようとしている。

具体的には、Appleは広告プラットフォーム部門においてDSPのシニアマネージャーを募集している。採用情報の投稿によれば、業務内容は「プライバシーの高度な保護を実現した、最先端のDSPの設計を主導する」ことだ。同社はさらに、応募者はモバイル主体のDSPの構築に携わった経験があり、「測定とアトリビューションを利用したモバイルキャンペーン」の最適化に関するノウハウをもっていることが望ましい、としている。

経験者がこの役職に応募するには、技術および製品管理における「8年以上の経験」と、「数億人のオーディエンスに向けた広告関連プロダクト」の立ち上げに携わったことを証明する確かな記録が必要だ。

アドテクに興味がない(とされてきた)Apple

DSPの設立は、どんな広告関連企業においても関心の表明だ。Appleのように、他の企業が自社エコシステムの内部で勢力を伸ばすことを厳しく制限することによって、桁外れの成長をとげてきた企業であればなおさらだ。より多くの広告費を獲得したいと考えるどんな企業にとっても、DSPはアドテクスタックの中核的要素だ。テクノロジーが、より正確にはソフトウェアが、自動化を利用したマーケターの広告展開を可能にする。プロセスの自動化が重要であるのは、これによりマーケターがキャンペーンを展開し管理するのが容易になるからだ。そうなれば、彼らがより多くの広告費を使う可能性につながる。

「我々のプラットフォームは、サプライ(顧客)とデマンド(広告主)を結びつける広告オークションを運営するうえで、キャンペーン管理、入札、インクリメンタリティ、動的クリエイティブ最適化、マッチング、オークション、エクスペリメンテーションといった技術的コンポーネントを重視する。さらに全体にわたって顧客のプライバシーを強固に保護する」と、Appleの投稿には書かれている。

Appleが設立を予定するDSPが、Appleが所有し運営するプロパティ(App Storeなど)での広告展開に特化したものなのか、それとも無数のiOSアプリの内部の広告や、さらにはモバイルウェブなどのサードパーティプロパティでの広告も視野に入れているのかは、まだ明らかになっていない。

AppleはDSPの設立を認めておらず、また今回の動きが同社の広告事業の全体戦略とどう関わるかについても、これ以上の情報を明らかにしていない。だが、採用情報は同社の意図を明確に示すシグナルだ。これまでAppleは(少なくとも公的には)アドテクの構築には一切関心がないという姿勢を貫いてきた。なにしろ同社のビジネスモデルは、広告を歓迎するどころか、狙い撃ちすることが軸だった。

広大なウォールドガーデン

しかし時代は変わる。最近のAppleを見れば、同社がオンライン広告に反対だという考えに修正が必要であることは明らかだ。(今回の)DSP設立により転換は決定的となった。広告費獲得のための大胆な戦略を真剣に検討しているのでないかぎり、企業がこのようなアドテク構築に乗り出すことはありえない。ただの思いつきで進めるには、時間と費用がかかりすぎる。

「Appleは何年もかけて、相互にリンクする製品とAppleサービスからなる、広大なウォールドガーデンを築いてきた」と、パブマティック(PubMatic)の最高成長責任者、ポーリーナ・クリメンコ氏は言う。「これらすべての製品とサービスを結びつけ、シームレスな顧客体験をつくりだすのは、ユーザーデータだ。Appleが独自のDSPを設立するのは、この進化における次の一歩として理にかなっている。彼らは自社のスケールとエコシステムアセットを活用し、人知れず広告事業を構築してきた」

独自のDSPを手にした暁には、Appleはデータをどこでどのように利用するかを完全にコントロールし、途方もない価値をもつデータがウォールドガーデンの外に流出することを阻止するようになるだろう。

Appleの広告事業の長期計画にまだ疑問を抱いている人も、最新の報告を読めば完全に納得するだろう。

広告事業拡大への「野心」

Appleは先日、情報公開に消極的であることで悪名高い同社としては珍しく、App Storeの内部で製品を宣伝したい企業のために新たな機会を提供することを、メディア向けの声明として発表した。

計画によれば、2つの新たな広告枠は、App Storeにプロモーションの表記とともに提示される。ひとつは「Today」タブ上にAppleによる編集コンテンツとともに提示され、もうひとつはアプリの製品ページ上に「こちらもおすすめ(You Might Also Like)」というタブの下に提示される。

Appleの声明には、「Apple Search Adsはあらゆる規模のデベロッパーに事業拡大の機会を提供する」とある。

文面はこのように続く。「我々の他の広告商品と同じく、今回の新たな広告枠も同一の基盤の上に築かれている。App Storeの製品ページへの掲載が承認されたコンテンツだけが提示され、また同一の厳格なプライバシー基準に従う」

表向きには、Appleは長いあいだユーザープライバシーの擁護者としてふるまってきた。その本気度は、マーケティング業界、とりわけ匿名の仲介業者が、ソフトウェアを用いてたやすくターゲティングを実施する状況を打破することを目的とした、数年がかりのプロジェクトを推進してきたことからもわかる。

同社は手始めに、Intelligent Tracking Prevention(ITP)を導入することでSafariブラウザ上でサードパーティCookieを事実上無効化し、さらにiOSエコシステム上のモバイル広告識別子(MAIDsまたはIDFA)を白紙に戻した。

カンヌで一部企業に発表済み?

最近の動きとしては、AppleはApp Tracking Transparency(ATT)■リンクを日本版URLに変更■ツールなどの一連のツールを導入しており、同社はこれらに関して、オプトイン/オプトアウトの選択をユーザーに委ね、ユーザーがあらゆる広告体験をコントロールできるようにするためであると説明している。

情報筋によれば(準備段階の計画を公表することに消極的なAppleの姿勢を考慮し、全員が匿名を希望した)、2022年に入って以降、Appleには広告プラットフォーム部門の採用努力を強化する傾向が顕著にみられたという。

同部門の売上は通常、収支報告では「サービス売上」として、Apple TV+、Music、ゲームなどと合算される。今年6月までの第3四半期、同社のサービス売上は196億ドル(約2兆6460億円)だった。

Apple Storeの新たな広告枠の発表と、DSP設立を目的とした採用の試みは、いずれもカンヌライオンズから1カ月と経たないうちに起こったできごとだ。複数の情報筋によれば、Appleはカンヌで異例のプレゼンスを示し、メディア幹部を招いた秘密会合をおこなったという。

[原文:Apple is building a demand-side platform

Ronan Shields(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)

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